0588:探索続く。
2022.12.02投稿 2/2回目
魔術陣がある部屋から、元の場所へ戻ろうと試みる。が、割と深い場所へと落ちたようで戻ることは諦めて、陣のある部屋を出て先へ進むことになる。陣のある部屋は隠し部屋なのかと思いきや、私が落ちた場所は単純に通気口らしい。確かに天井の一部に穴が開いているし、落ちたのもその場所だった。
小部屋の金銀財宝は徴収させて頂いた。ダリア姉さん曰く、使わなきゃ宝の持ち腐れなので有効活用しましょうとのこと。第一発見者であるアリアさまには発見者として何割か報酬があるようだ。見つけた本人は凄く驚いていたけれど、報酬はご実家の男爵領に全額渡すようだ。フライハイト男爵領も様変わりしているのだろうなあ。王国からの支援やアリアさまの活躍で、随分と名前が売れ始めているようだし。薬草開発も順調みたいだから、貧乏から脱出できているならなによりだ。
カツン、カツン、と石畳を踏む音が反響する真っ暗な通路を、先頭をダークエルフのお姉さん、ディアンさまとベリルさまが歩く。次にダリア姉さんとアイリス姉さん。ソフィーアさまとセレスティアさま、アリアさまとロザリンデさま。その後ろを私たち幼馴染組が歩いている。私の肩の上にはクロ、横にはヴァナル、ヴァナルの頭の上にはロゼさんが。
「まだなにかあるかな?」
私の隣を歩くクレイグとサフィールの顔を見る。ジークとリンは最後尾を歩いて、後ろに気を配っていた。
「いや、流石にもうこれ以上は……なあ、サフィール……」
「うん。……お宝が見つかったんだし、もうこれ以上出てくるなんて思えないけれど」
呆れた顔でクレイグが、苦笑いを浮かべるサフィールが私の言葉に答えてくれた。確かにこれ以上見つかりようがない気がするけれど、遺跡は広いようで探していない場所はまだある。お宝的なものはないかもしれないが、罠とか魔物とかいてもおかしくはないよねえ。暗い通路をしばらく歩いていると、大きな扉が目の前に立ち塞がる。
「鍵は掛かっておりませんね。入りますか?」
ダークエルフのお姉さんが、罠がないかどうかと危険なモノはないかの確認を終えて後ろを振り返る。
鍵は掛かっていないなら、重要な部屋ではないのだろう。ディアンさまとベリルさまがひとつ頷き、ダリア姉さんとアイリス姉さんを見る。彼女たちはこくりと頷き、後ろを向いて私達にも確認を取る。全員が頷いたことを見届けて、ダークエルフのお姉さんが大扉に手を掛けた。ぐっと腕に力を入れたことが分かるけれど、大扉はびくともしない。どうやら蝶番が錆びて動かないようだった。
「代わろう」
ディアンさまが、苦心しているダークエルフのお姉さんへ声を掛けた。
「代表、申し訳ありません。お願いいたします」
ダークエルフのお姉さんはディアンさまに小さく頭を下げて二歩下がる。少し距離を取ると、ディアンさまは大扉に両手を付いてぐぐぐ、と力を入れた。全く動かない大扉に数秒後変化が訪れる。ぎし、と音を上げて奥へ大扉が倒れた。金属の扉が地面に勢いよく倒れて、轟音と埃が上がる。
「腐っていたか」
「そのようですね、若」
顔色ひとつ変えないディアンさまが倒れた大扉を見ながら呟くと、ベリルさまが同意の言葉を発した。まさか押すんじゃなくて、引くとかじゃあないよね。単純に蝶番が経年劣化で外れやすいようになっていただけだよね、と思いたい。
「流石、竜ねえ」
「力には敵わないからね~。中にはなにかあるかな?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが感心しながらディアンさまを見ていた。付き合いの長さからくる揶揄いの言葉だというのは、直ぐに理解できた。埃が収まった頃合いを見計らって、一同部屋の中へと足を踏み入れる。部屋の奥は暗くて見えないけれど……――目の前に広がる光景は圧巻だった。
「凄いわね。この蔵書数」
「おお~。これは凄いよー!」
お姉さんズが感嘆の声を上げて、顔をきょろきょろと周囲を見ている。私たちもそれに倣って周囲をみるけれど、これは本当に凄い蔵書数だ。古代の人たちがこんなにも本を読んで、こうして蔵書しているなんて。見える範囲でも数百冊はあるのだが、内容はどんなものなのだろう。
日記のようなものかもしれないし、古代の歴史を記したものかもしれない。はたまた魔術に関することなのか、歴史や文化が書かれているのか。それぞれ興味がある棚へと移動しているので、私もみんなに倣って興味が惹かれる場所へと足を動かす。本の装丁は確りしているものが多く、色鮮やかな表紙だったり地味だったりと様々だ。
「凄いな」
「ええ。しかし古代の文字で読めませんわね……」
ソフィーアさまとセレスティアさまも感嘆の声を上げていた。開いても問題ないかどうかは、ダークエルフのお姉さんとダリア姉さんとアイリス姉さんが魔法で調べてくれる。
興味があるものがあれば、彼女たちに一声かけて確認をお願いしてから本を開いていた。本には状態保存の魔術が施されているようで、紙が劣化して読めないということはないが、古代文字を知らない人からすれば、なにを記されているのかさっぱりと分からないだろう。私も手に取って中身を確認するけれど、ほとんど読めない。ゆっくりと解読しながらであれば、時間を掛けて読破することができるだろうけれど。
「なにも読めねえ……」
「僕もさっぱりだよ」
クレイグとサフィールも本を手に取って中を確認していたけれど、全く違う言語形態に頭に疑問符を浮かべている。私は手に取った本を棚に戻して、他にもなにがあるのか指を這わせながらある一点で手が止まる。
「あれ?」
どこかで見たことがあるような既視感に襲われて声が出た。首を捻りながら思い出すけれど、なにかあっただろうか。少し前になにか大変なことが起こった気がするけれど、私の日々は割と頻繁になにか起っている。さて、落ち着いて記憶を漁らなければと頭の中の引き出しを開こうとした。
『マスター、図書室にあったヤツと同じだ!』
ロゼさんがヴァナルの頭からぴょん、と跳ねてクロが居ない側、私の肩の上に乗る。ああ、そうだ。ロゼさんの言う通りヤヴァイ魔導書と同じ装丁だ。怪しげな雰囲気は全く感じないので、一体どういうことだろうか。うっきうきのロゼさんと困惑している私。中を確認しないまま見なかったことにしようと、棚に本を戻そうとするとお姉さんズが私の隣にやってきた。
「あら、魔導書ね。状態が良い物は珍しいわ」
「古いものだから、価値があるものだね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが本を覗き込む。お姉さんズ曰く魔導書のようで、それなりに価値があるようだ。魔術や魔法を魔導書に発動を任せてオートで敵を攻撃できるから、便利な代物らしい。
価値があると、魔導書自体に意志があり主人を守ってくれるのだとか。必要ないし、私にはジークとリンにクロとロゼさんにヴァナルがいる。守り手というなら十分なくらいに強固なので、更に戦力を持っても仕方ない。平和が一番。争いごとはノーセンキュー。
「そういえば、ナイちゃんの家にも同じものがあるんだっけ?」
ダリア姉さんの言葉に頷く私。あの魔導書、子爵邸の図書室で蔵書されている。害はないそうなので、放置プレイ中だ。副団長さまが興味があるようで、調べたいことがあると私が魔導書を開き、横で副団長さまがメモを取るという不思議な光景。
「ふむ」
価値がある魔導書かどうかは、火をつければ分かるらしい。焚き上げされるのは嫌だから、魔導書自身が身を守ろうとして抵抗したり逃げたりするのだとか。
燃えて無くなるのは嫌だよねえ。随分と荒業だけれど、手っ取り早い方法ではあるのかな。本当に火を付けるのは気が引けるからやりはしないけれど。
死者蘇生の魔術や魔法なんて存在しない方が平和だし、不老不死とかもあれば欲しがる人はごまんといるだろうから、人知れずこういう場所でずっと眠っていればいい。亜人連合国の方たちならば、誤った使い方はしないから安心してこの場に置いていける。この場所、副団長さまが知れば小躍りしそうだなあ。まあ私的に来れるだろうし、お姉さんズとは伝手があるから喜んでこの場にやってきそう。
「この場所を隅々調べるのは骨が折れそうね」
「まあ、ゆっくり調べればいいよ~」
みんなの声を聞きながら前を見る。――さて、次はなにが出るかな。






