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0586:【中】遺跡探索。

2022.12.01投稿 2/2回目

 ――え?


 アリアさまの抜けた声が聞こえた。彼女があんな声を上げるのは珍しい。いつも朗らかに笑っているイメージで、驚いた時も『きゃ』とか『わ!』という感じなのに。

 一体なにごとかとみんながアリアさまへと顔を向けると、隠し部屋を見つけたようだった。マジでこんなことがあるんだと驚きつつ、部屋の中を覗き込む。あまりの光景にアリアさまは固まったまま動けず、ロザリンデさまが彼女の肩を叩いて意識を戻していた。

 

 「凄いな」


 「この量は凄いですわね」


 ソフィーアさまとセレスティアさまが部屋の中を覗いて開口一番に呟いた。


 「凄いな」


 「凄い……」


 クレイグとサフィールが後ろから覗いて、感嘆の声を上げた。確かにこの光景は壮観だ。金をふんだんに使った剣や盾、いつの時代の物か分からない金貨に銀貨。宝石類もあるし、フルプレートの金鎧。これ、全部売り払えば一体どれくらいの金額になるのだろうか。

 金の相場や宝石の価値が全く分からないから勘定できないが、小部屋一杯に詰まっているから結構な額になるんじゃないかな。ソフィーアさまとセレスティアさまとロザリンデさまが驚いているんだし。アリアさまはまだ固まっているから、多分凄いんじゃないかな。

 

 亜人連合国の皆さまは黙って部屋の中を見ている。アルバトロス側は島にお邪魔している形だから、財宝の権利は主張しないだろう。

 そもそもお金ならば沢山持っている方たちだし。金の長剣は装飾に全振りしているから、刀身自体に価値はなさそう。それよりも鞘と柄に価値があるんだろうなあ。金細工が凄いし、宝石とか沢山散りばめられているのだから。でも、誰がこんな場所にため込んだのだろうか。 

 

 現在の島は無人だから、持ち主は不明。アルバトロスに所属している人たちから王国へ報告がされるだろうが、この島を実効支配しているのは亜人連合国の方々。

 陛下や王国上層部は口出ししないだろう。私もこの宝石の山を手に入れても管理に困るだけだし。権利があるとすれば、一番先に見つけたアリアさまかなあ。ディアンさまたちと協議して何割かは貰える……のだろうか。まあ、話し合い次第だろう。


 「随分と古い物ねえ」


 「本当だね~。これ古代人が作ったのかな」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんが小部屋の中に入って、金銀財宝を品定めし始めた。古い物と判断できたのは、装飾や指輪のデザインから。知識があるって、こういう時に便利だなとしみじみ感じる。

 生きている年月が違うから情報量は負けてしまうのは仕方ないけれど、触れて、触って、頭の引き出しから情報を引き出し分析できるって楽しそう。まだまだ私も精進が足りないなあ。ロゼさんも興味があるのか、部屋の中に入って宝石をしげしげと見つめている。スライムボディを器用に伸ばして、金杯を掲げていた。


 『マスター、古代魔術が記されてる!』


 ロゼさんにこっちにきて欲しいと望まれている気がするので、ロゼさんの隣に座り込んで一緒に金杯を見る。古代魔術を教えて貰った際に、多少は古代文字を読めるようになっていたので金杯に記されている文字を覗き込む。


 「ひ……じゃないね。『ビ』かな」


 『正解、マスター!』


 ロゼさんが私が一文字言い当てたことで、凄く喜んでいる。肩の上に乗っているクロは感心しているようだし、隣に座ったヴァナル――通路が狭かったので中型犬サイズ――も尻尾をブンブン振っていた。


 「次は…………何だろう?」


 『次は『レ』だ!』 


 読めなかった私の代わりにロゼさんが答えてくれた。ぽよんと横に揺れたスライムボディを撫でると、今度は縦にぽよんと揺れる。さて次の文字はなんだろうと、視線を動かそうとしたその時だった。


 「ナイちゃん!!」


 「それ以上は駄目ー!!」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんに思いっきり口を塞がれた。ロゼさんと私が唱えようとした古代魔術は世界の破滅を一瞬で引き起こせるものなのだとか。え、そんな簡単に引き起こせるのとドン引きしつつ、たった三音に力を籠められるって、言葉の経済効率が凄すぎやしないかな。古代人すげえと、ロゼさんと顔を見合わせた。

 古代魔術を開発した古代人っていったいどんな人たちだったのだろうか。黒髪黒目だったことは確定として、副団長さまのような変態が沢山いたのか。副団長さまみたいな魔力馬鹿、しかも魔力量も優れている。あれ、変態だらけだったの大昔って。魔獣や幻獣たちと仲良くしていたというし、ある意味でおかしいのかな……。


 「ナイちゃん、古代魔術は危険なモノも多いの」


 「普通の人が唱えるのは問題ないけれど、魔力量が多いナイちゃんだと大変なことになっちゃうよ~」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんが真剣な表情で私を諭しているので、これは本気で不味いヤツというのは理解できる。不用意だったなあと反省しつつ、ロゼさんとも古代魔術は危ないからダリア姉さんとアイリス姉さんや副団長さまに聞いてから、使えるかどうかを判断しようねと約束した。

 ぽよんと揺れるロゼさんを撫でて立ち上がる。小部屋から出て、元の大部屋に出て周囲を見渡す。この部屋に辿り着いた入口は二メートルほど上の人一人が通れるくらいの穴である。他の出口はないか探してみようと、部屋の石壁を触りながら仕掛けがないかどうかを調べる。


 「うわ!」


 壁伝いに歩いていると、苔の生えた床に足を取られて転倒しそうになった。私のすぐ横を歩いていたリンに腕を支えられて事なきを得る。


 「ナイ、大丈夫?」


 リンは心配そうに私に声を掛けたけれど、彼女のお陰で助かったのだからそんな顔をしなくてもと苦笑い。


 「ありがとう、リン。コケずに済んだ」


 「床、滑りやすいから。気をつけて」


 リンの助言に分かったと告げて、なんとなく滑った床の場所を見る。私が滑った足跡の部分は綺麗に苔が剥がれて、もともとの床が露わになっていた。何の変哲もない石畳の床に、うっすらと一部分に模様のようなものが見えた。


 「これは……」


 「なにか書いてある」


 私の様子に気が付いたリンも一緒に床を見る。どうやら彼女も床に書かれた模様のようなものを見て、感じることがあったようだ。

 綺麗にはがれた苔の付近を足で更に剝がすと、模様はまだ続いていて幾何学模様も露出した。もしかして魔術陣か魔法陣かなあと、ダリア姉さんとアイリス姉さんを呼ぶ。私に引き続いてお姉さんズも陣の全容を確かめようと、床に生い茂っている苔を剥がし始める。


 「この部屋、儀式部屋かしら」


 「みたいだね~。でもこれって……」


 考える様子を見せたお姉さんズは暫く黙っていた。彼女たちの邪魔をすべきではないと、みんなが判断して黙って見守っている。珍しい。ダリア姉さんとアイリス姉さんが長考するなんて。長く生きている故か、エルフという種族特性なのかは分からないけれど、答えを導くことや決断を下すことに時間を掛けないお二方なのに。

 

 「ナイちゃん……以前のことに未練はあるかしら?」


 唐突なダリア姉さんの言葉に戸惑いつつも考える。どうだろうか。確かに日本が恋しいこともあるけれど……でも、一度死んで生まれ変わったというなら、私はやはりこの世界に生きる人間だ。

 そして一生を終えて土か空に還る。前の死ぬ直前の記憶は朧気だけれど、火葬されてお墓に埋葬されているはずなのだ。――天涯孤独だったから無縁仏にでもなっているかもしれないが。ダリア姉さんの言葉に答えるべく私は彼女を見据え、拳を握りしめた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり皆さん気がついてますね。 二重の意味で 禁断の呪文w
[一言] 3分待ってもらう必要がありそうだな
[一言] ビ レ と来たら セ かなー
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