0584:お米さま。
2022.11.15投稿 2/2回目
――お米さまが手に入る可能性が高まった。
気分は上々。小躍りを始めそうな気分である。ずっとテンションが高い私に周囲が引いている気もするけれど、お米は日本人としてのアイデンティティ。
各家庭で事情は違うだろうけれど、私にとってお米さまはご飯に必ず必要なもので。パンよりも腹持ちするし、重宝していたんだよね。忙しい朝とかおにぎり一個お腹に納めるだけで、お昼まで我慢できるし。パン一個だとお昼前にお腹を鳴らしていた。
夜。ご飯を済ませて幼馴染組で今日の出来事を話した後、天幕の中でリンとクロと私で就寝前のお喋りを楽しんでいた。
クレイグとサフィールは昨日動き回ったことで、割と疲れが出ているらしく、早々に天幕へと引っ込んでいる。ジークも二人と一緒に天幕へ。男同士で話すこともあるだろうし、好きにすればいいと彼らの邪魔をしたりはしない。
『機嫌がいいねえ、ナイ』
クロが私の機嫌を見抜いて、声を掛ける。リンは昨日のお風呂を引き摺っているのか、私を膝の上に乗せてジッとしたままだ。ロゼさんは島を一人で探検している。どうやら自分でなにかを発見したいらしい。
ヴァナルもロゼさんと一緒に行動を共にしていたけれど、流石に疲れたようで先ほど天幕に戻って私たちがいるベッドの側で爆睡してた。ここ数日動き回っていたので疲れたようだ。
ロゼさんは夜目もきく上にスライムさんなので魔力が途切れない限りは、無限に行動できるとのこと。なにか見つけたらロゼさんだけで行動せずに、一度戻ってきてみんな一緒に行動しようと伝えてあるから、島にあるなにかを発見すれば戻ってくるはず。あとは私が願えばロゼさんに届くらしい。魔石に魔力を注いだ際にパスでも繋がっているのかも。
しばらくすればリンは機嫌を直すだろうと、私の腹に回された彼女の腕に手を絡めて遊んでる。騎士だから、リンの手の内側はちょっと堅い。ふにふにと揉みながら、背後でくすぐったそうにしているリンを他所に、クロの言葉に答えるべく私は口を開く。
「お米を見つけられたからね。フィーネさまとメンガーさまにも報告しなくちゃ」
お二人にも伝えなければ。この嬉しさを理解できる方は数少ないだろうし、失敗したときの残念感も一緒に味わって頂こうという魂胆である。
酷い話ではあるが、お米さまGETならずであれば私は打ちひしがれる自信がある。失敗した時の悔しさや虚無感を理解してくれる人がいなければ、私は屋敷に引き籠るかもしれない。国にとっては都合が良さそうだけれど、引き籠る気はないので一緒に悲哀を共有できる人を確保しておかねば。――お米さまだけに限るけれど。
『そんなに美味しいの?』
「うーん。個人差があるだろうし、見つけた稲は私が知っている稲とちょっと違うから。食べると美味しくない可能性だってあるけどね」
お米さま、もといお稲さまを見つけたものの味を見た訳でもないから。長い時間を掛ければ変化するかもしれないし希望は捨てていない。
『美味しくないかもしれないのに、ナイは大喜びなのかあ』
「最悪、魔力を注ぎ込んで改良するつもりだから。時間は掛かるだろうけれど、必ず美味しいお米を手に入れるよ」
王都の外に聖女の皆さんが蒔いた麦の収穫時期が縮まることはなかったので、お米さまも短くなることはなさそうだ。法則性がどんなものか分からないけど、魔力を注げば早く収穫できるものと、時間が掛かるものに分かれているみたい。
基本なんでもアリのような気がするが、成長しているのを観察するのも面白いし、待っている時間をじれったいと感じることもまた一興だ。魔力で解決する予定だけれど、先人の苦労を少しでも味わった方が食べた時にもっと美味しくなるはず。
「ナイが本気だ」
リンが私の顔を覗き込みながら言った。簡易ベッドの上で胡坐をかいているリンの上に私が乗っているのだけれど。重くはないのだろうか。
お姉さんズにはお風呂の中だったから浮力で体重は軽減されていただろうけれど、私の体重プラス重力が乗っかっている訳で。クロがなにを思ったのか私の膝の上に乗って、丸くなって寝ころんだ。動きが取れないなあと目を細める。
「リン。収穫できたらお米食べてみようね」
おそらく初年度はほとんど種米に回すから、気持ち程度しか食べられないけれど。一口食べて、楽しみはまた一年後かなあ。直ぐに収穫したい気持ちもあるけれど、魔力で解決できないことだってあるだろうし。
「うん。楽しみ。でも泥まみれになりながら進んでいくナイには驚いた……」
「お米が手に入るか、入らないかの瀬戸際だったからね。仕方ないよ」
お米自体は存在しているから、私が以前に食していたものかもしれないとは伝えてある。長米じゃなきゃいいけれど。長米と短米の差や原種の生息地分布とか、同じものを元として変化したのかまでは知らないからなあ。
知っているのは稲作が大陸から伝わって、九州から東へと広がっていったということくらい。その時から千年以上は経っていたはずだし、お米さまが伝来した頃とは現代ではかけ離れて全く違うものかもしれないが。私が再現したいのは現代のお米さま。シャイニングな銀シャリさまを口にしたいと願うばかりだ。
「寝ようか。明日は探検組が見つけた場所の探索みたいだし」
「うん。ナイ、一緒に寝ても良い?」
リンの顔を見ると、嬉しそうに笑った彼女が問いかけてきた。
「昨日も一緒に寝たよね。私は良いけれど、リンは身動きできないから狭くない?」
子爵邸の私室に置いてあるベッドは余裕で何人か寝られそうな広さだけれど。正確なサイズを把握していないので言い切れないが、クイーンサイズとかキングサイズとかだろう。前はシングルサイズのお布団で寝起きしていたし、教会宿舎のベッドは狭いし、貧民街時代は雑魚寝がデフォだった。高級ホテルに泊まったこともないから、ベッドのサイズがよくわからない。
「大丈夫、ナイをぎゅってしてると凄くよく眠れる」
リンが私のお腹に伸ばしている腕をぎゅっと握り込む。今はリンが起きていて力の調整ができているけれど、私は偶に窒息死しそうになっているけれどね。
討伐遠征より危険かもしれないと思ってしまうのはどうなのだろうか。はいはい、とからかいと呆れを含む言葉をリンに返す。膝上のクロに籠の中で寝るように告げると、クロは翼を広げて枕元に置いてある籠の中へと移動して、後ろ脚で居心地のいい場所を確認した後に体を丸めて寝息を立て始めた。
「クロ、おやすみ。リンもおやすみ」
寝息を立て始めていたクロが尻尾で挨拶して、リンがベッドに寝転がる。
「おやすみなさい」
掛け布団なんて必要ないけれど、薄着なので朝に誰か入ってくると目のやり場に困る――特にリン――だろうと薄布を引っ掛ける。
天幕に入ってくるのは侍女さんたちかソフィーアさま、セレスティアさまくらいに限られているから、気にしなくても良い気がするけれど念の為だ。魔術具の灯りを消すと真っ暗になって、暫く小声でリンと話していれば目は自然に落ちていった。
【お知らせ】2022.03.01から毎日更新してまいりましたが、明日から11月末まで更新を止めます。書籍用に提出するデータ、真面目に誤字脱字と誤用を潰してまいります……orz あと微修正も。
更新途切れるとPV数が落ちるのが確実なので、毎日投稿を続けたかったのですが、誤字誤用の修正は作者の脳味噌がちゃらんぽらんなので並列作業だとおざなりに。文字の本よりも、漫画やノベルゲ―が好きな作者にはハードル高いっス(苦笑
来月の頭から再開予定っす! 締め切り時間長めかな、と軽く考えていたら二週間しかなかたというw