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582/1475

0582:脱衣所。

2022.11.14投稿 2/2回目

 温泉から上がって脱衣所で服を着る。ロザリンデさまとアリアさまは逆上せる前に温泉から上がり、先に浜辺に戻っていた。ソフィーアさまとセレスティアさまも長風呂は苦手なようで、先に上がると言い残して姿を消していたのだった。

 温泉に残っていたのはリンと私、ダリア姉さんとアイリス姉さんの四人だった。脱衣所で服を着ていると、リンが髪を乾かさないまま服を着たので苦笑いを浮かべながら厚手の布を取り、彼女の髪の水気を丁寧に拭きとる。

 なんだか凄く締まらない顔をしているリン。さっきのことを気にしているようだけれど、リンもお姉さんズのことは責められないのだが。時折、子爵邸のお風呂に一緒にはいるのだが、リンは私をよく抱きかかえて湯船に浸かっているのだし。

 妙な所で対抗心を張らなくてもいいのにと笑ってしまいそうになるが、リンにとっては由々しき事態らしい。リンの髪の水気を取っていると妙な視線を感じるが、そちらへ顔を向けると絶対に捕捉されるので見ないほうが賢いだろう。


 「あ!」


 「ん~?」


 ダリア姉さんが声を上げ、アイリス姉さんがその声に言葉を返した。流石にこれで視線を向けないのは不味いと判断して、私はお二人に顔を向けた。にこりとダリア姉さんが笑みを浮かべつつ、右手の人差し指を立てた。


 「島の主で話がすっ飛んでいたわ。――ナイちゃん、森の奥で面白そうなものを見つけたの。明日は主に挨拶だろうから、明後日にみんなで行ってみない?」


 言葉を言い切ったダリア姉さんはぱちん、と片目を一瞬瞑った。器用だなあと感心しつつ、面白そうなものって一体。


 「面白そうなもの、ですか?」


 エルフのお姉さんたち基準で面白いものってヤバそうなのだけれど。人間と価値観が違うだろうし、一体なにが面白いものなのやら。


 「ええ。おそらく古い時代のものよ。地下に埋まっていたから、なにか残っていてもおかしくはないし、誰かが財宝を隠したかもしれない。――夢があるでしょう?」


 確かに徳川埋蔵金とか夢があるけれど、そういうものって見つかった例がないような。でも、島を探索するという目的ならば楽しそうだし、ダリア姉さんが言う古い時代に興味はある。私たちのご先祖さまたちが作ったものや残したものがどんなものだろう。考えていると楽しくなってきたので、ダリア姉さんの言葉に素直に頷く。


 お姉さんズがいれば戦力的には過剰になるから、道中も安全。ロゼさんとヴァナルも一緒だから、更に安心。

 これでディアンさまとベリルさままで一緒だと完全無敵だなあ。というか、悪意がある者なら尻尾を巻いて逃げ出しそうな面子。そこにジークとリンも加わって、上級魔術を使えるソフィーアさまとセレスティアさまも同行するだろう。暇だから一緒に行くとなれば、ロザリンデさまとアリアさまも加わるだろうなあ。魔獣が現れても凄く楽に対処できそうだなあ。


 「よろしくお願いします。面白いもの、楽しいものが見つかると良いのですが」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんに頭を下げる。遺跡、なのかなあ。森の奥で見つかった人工物というなら、遺跡が濃厚だけれど。

 とにもかくにも行ってみないと分からないし、明後日の予定は決まっておらず、朝一番に暗幕の中の大豆と麦に麹菌が付いていないか確認するだけだから。運が良ければ麹菌が居付いているかもしれない時間となっているから、ちょっと楽しみなんだよね。メンガーさまとフィーネさまのレポートにはそう書かれていたので。お味噌さんも仕込みたいところだけれど、菌がなきゃできないみたいだし。道は果て無く遠いが、挑戦していればいつか辿り着くかもしれないから悲観しちゃ駄目。


 「空振りに終わってもきっと楽しいよ~ナイちゃん」


 アイリス姉さんが陽気な声で私に言った。そうだ。空振りに終わってしまっても、なにも挑戦せずに終わってしまうことの方が愚かだろう。行動に起こさず嘆いたり怒ったりするよりも、人生は運と人脈とチャレンジ! と叫んで前に進むのである。


 「そうですね。みんなで行けばきっと楽しいです」


 ん。報告しなきゃならないので、夜に書き記すレポートが大変なことになりそうだけれど、今日も今日で書かなきゃならないことが沢山ある。小学生の絵日記みたいに済ませるつもりが、適当に記すと怒られる可能性が跳ね上がってしまった。

 ソフィーアさまとセレスティアさまが提出書類に手を抜くことはあり得ないし、ジークも事細かく記す派。

 リンはそういう所はおざなりなのだが、その分兄であるジークがきっちり書くし、彼女は大きな出来事はちゃんと覚えているから国と教会から怒られることはない。私が偶にポカして、抜けていた所を指摘されるくらいだ。だからこそ教会宿舎では三人が集まって一緒にレポートを纏めていた訳だけれど。


 「そうそう~」


 「ふふふ、楽しみましょうね」


 服を着こんだダリア姉さんとアイリス姉さんに囲まれる。お二人から良い匂いが微かに鼻をくすぐった。なんだろう彼女たちが使っている石鹸が良いものなのかな。

 

 「ん、どうしたの、ナイちゃん」


 「え、ああ。不躾に申し訳ありません。ダリア姉さんとアイリス姉さんが使っている石鹸……でしょうか。良い香りがします」


 ダリア姉さんに声を掛けられた。ちょっと考え込んでいたから変にみられてしまったか。そのことを謝ってから本題に入る。微かに香るだけなので、嫌味がない気がする。


 「ああ、コレ? 石鹸に花の香を混ぜているの。香りを抽出して製造過程で混ぜれば割と簡単に作れるわよ」


 「ね。エルフの街だと自前で作ってるから珍しくもなんともないけれど、ナイちゃんから見ると珍しいの~?」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんそれぞれが教えてくれた。どうやら自分の名前と同じ花から香りを抽出して、お風呂に入る際は自前で作った石鹸を使用するのが最近の流行りなのだとか。お姉さんズはそこまで拘っていないので、それぞれ好きな香りを石鹸に混ぜて作っているとのこと。


 「香りを付けた石鹸はありますが、匂いが独特なものが多い印象ですね」


 お姉さんズの石鹸は主張が激しくないというべきか。お貴族さまって香水で臭いを誤魔化す所があるから、夜会やパーティーの席だと臭いに酔いそうになることもある。

 で、お酒が入っていると更にアウト。どうにもアルコールの臭いは苦手だ。社会人になって成人した後は、缶チューハイ一本で満足して布団に沈んでいたし。お貴族さま用の石鹸も同様で、香料をふんだんに混ぜ込んで匂いがキツいものが多い。私が苦手なので、匂いの軽い物を子爵邸では用意して頂いていた。


 「気になるの?」


 「気になるというよりも、良いなあと。できれば定期的に買い付けたいです」


 臭いが少ないものは貴重である。


 「そういうこと。何も問題はないわね。そもそも珍しい物でもなんでもないし。なんなら作り方教えましょうか?」

 

 「いつでも教えるよ。材料も簡単に手に入るはずだし~」


 お二人の言葉にお礼を伝え、取り敢えずいくつか買い付けることと、時間があるときにご教授お願いしますと頭を下げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古代の遺跡……とな?最悪ナイさんの魔力攻撃で消滅か、起動できなくしちゃえば良いのだし 次回!黒髪の聖女ナイのルーツが明らかに‼(大嘘)
[一言] 貴族よりも庶民に売れそうな石鹸っぽい こっちなら工芸品よりも小金稼ぎ出来そう
[一言] 連日複数話更新お疲れ様です。 石鹸って、確かに外国産の物は、匂いのキツかったりするのがありますね (^。^;) お土産なんかで貰ったりしても、使う気になれない程匂いがキツい場合は、私は紙と…
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