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0580:温泉。

2022.11.13投稿 4/4回目

 ダークエルフさんたちの手によって、いつの間にか設置されていた簡易脱衣所を借りて、ロザリンデさまとアリアさま、リンと私が一斉に服を脱ぐ。それぞれ脱いで籠へと服を入れている時、ふとみんなが居る方へと勝手に視線が動いた。


 「…………ぅ」


 男の人が見れば滅茶苦茶喜ぶであろう眼福な光景は、私にとって凶器以外のなにものでもなかった。リンもロザリンデさまもアリアさまも、大きいのである。何故、脂肪がそこに集まってしまうのか問い質したくなるくらいには。脱いでいるから余計に貧富の差が分かりやすいのだ。何とは言わないけれど。

 気にし過ぎるとメンタルが崩壊しそうだと、眼福じゃない光景から視線を外して服を籠の中に綺麗に畳んで仕舞い込む。大蛇に『幼子』と連呼された所為で、ここ最近気にしないようにしていたというのに嫌なものが蘇ったものだ。

 とはいえ、こればかりは仕方ないから苦汁を呑むしかない訳で。未来の私に期待できるかどうかも謎だし、これに関してはお先真っ暗な気がしてならない。小さくてもステータスだと言い張る人が居るのは知っているが、大きいに越したことはないのだ。大きすぎるのは困るかもしれないが。


 「あの……ナイさま? ジークリンデさん?」


 ロザリンデさまが大きな布で前を隠してリンと私に声を掛けた。布で抑えている部分がひしゃげて、良い感じに形が崩れており羨ましい限りである。舌打ちしそうな気持を抑えて、ロザリンデさまに向き合う。こんな気分に陥ったのは大蛇の所為だと、他者の所為にしておこう。


 「はい?」


 「?」


 ロザリンデさまの言葉に返事をして、リンは私の横で小さく首を傾げた。なんだろうとリンと私は顔を見合わせた後、もう一度彼女に視線を戻す。


 「隠さないのですか?」


 ロザリンデさまが少し顔を赤くして本題を告げた。彼女と同じように前を隠す方がいいと言いたいのだろうけれど、女同士だし隠す必要性は全くない気がするけれど。

 まあ私の精神安定を考えると隠して貰った方が良いのだけれど、布の横からはみ出る浪漫が私の目に凶器として入ってくるのだから結局は同じのような。隠す利点は乳首が見えないくらいだろう。温水に浸かれば水にぬれて布がべったりと張り尽く。透けて見えるほうが余計に浪漫が強調される気がしてならないし。


 「何故です?」


 思ったことがそのまま口から出ていた。


 「恥ずかしくはないのですか!?」


 「どうでしょう。あまり考えたことはありませんが……。そもそも貴族の方であれば介添えで侍女の方が付くので今更では?」


 ロザリンデさまは侯爵家のお嬢さまで、お風呂に入るなら介添えの侍女さんが同席するはずだし、裸も隅々まで見られているから今更だろうに。嫌な記憶が蘇る。公爵邸でツルツルにされたあの記憶である。慣れていなかった頃なので、かなり落ち込んだけれど。


 ね、と無言でリンを見上げるとリンも『ん』と無言で返事をしてくれた。ちなみにリンも隠さず堂々派なので、片手に布を握っているだけ。肩に布を掛ける時もあるのだけれど、それだけは止めてと懇願したことがある。銭湯で肩を掛けて『ア”ア”ア”』といぶし銀な声を上げているおっさんに見えて仕方なかったから。


 「う……」


 「ロザリンデさまが裸を見たくないというなら隠しますよ」


 嫌なものを見る必要はないのだし、布を巻くか隠すかするくらいなら簡単だし。考え方や価値観が違うなら、擦り合わせすれば良いだけ。

 アリアさまは私たちのやり取りをにこにこと笑いながら見守っている。口出しする気はないというよりも、事の成り行きを見て自分はどうするべきかを考えているようだ。彼女は隠そうが隠すまいがどちらでも良いらしい。


 「い、いえ。ナイさまのように隠さない方が自然というならば……わたくしが間違っているのでしょう」


 「人それぞれに価値観があるので、決めない方が無難かと」


 ロザリンデさまに間違った知識を植え付ける訳にはいかないと、やんわりと隠す人もいれば隠さない人もいると伝えておく。この場にソフィーアさまとセレスティアさまがいれば隠しているかもしれないし……そのイメージがないなあ。

 照れもせずに堂々と『何故、隠す?』とか『殿方はいらっしゃいませんよ?』と圧を掛けてきそう。ダリア姉さんとアイリス姉さんならば、確実に剝かれると思う。『女同士なのだから必要ないわね』とか『そんなに恥ずかしいかな~?』とか言って、持っている布を取り上げる気がする。


 この島であれば銭湯や温泉のようにルールはないので、好きにすればいいんじゃないかな。もしルールが必要ならダークエルフさんたちが考えることだし。私たちは間借りしているだけだから、粛々とそのルールに従うだけ。

 

 「風邪は引き辛いでしょうが、温水に浸かりましょう」


 今日一日の疲れと汚れを落としたいし。フィーネさまと一緒に入った時はぬるま湯だったので少し物足りないけれど、汚れを落とすということならば事足りているから。

 ダークエルフさんたちの手に依って随分と整備されてた場所は、以前とは様相が変わっており歩きやすい。地面の上に板が敷かれて足裏が汚れないようになっていた。有難いなと、板の上を歩いて温水が湧き出る場所に辿り着くと湯気が立っていた。


 ――あれ?


 前は湯気なんて立っていなかったのだけれど。お湯が湧き出ている場所にしゃがみ込んで、手を浸けてみると随分と温かくなっていた。

 手を浸けるとちょっと熱いなあと感じるくらいに。外気が温かい、というより暑いのでこのくらいの水温が適温かもしれないなあ。ダークエルフさんたちの整備で水深が深くなっているし、簡易的ではあるがお風呂になっていた。

 

 「ナイさま、どうしました?」


 「前に入った時より、水の温度が上がっていて驚きました。でも、丁度良い湯加減かもしれません」


 アリアさまに問いかけられた。しゃがみ込んだまま考え事をしていたから、変に映ってしまったかな。

 しゃがみ込んだままアリアさまの顔を見上げると、とても素晴らしいものが目に入り畜生と叫びたくなるが、ぐっと我慢して掛け湯をする。潮の所為でベトベトしていたけれど、お湯で軽く流すだけでもスッキリするなあ。


 「気持ちいいですね!」


 「ですわね。このように自然豊かな場所でお湯に浸かるのも良いものですわね……」


 アリアさまとロザリンデさまもお湯に浸かり、しみじみと語っていた。私もお湯に浸かり、横にはリンも一緒に入っていた。目の前も緑豊かな自然だし、上を見れば空が広がっている。真昼間に入るのも乙かなあとリンを見て『気持ちいいね』と呟けば、彼女も小さな声で『うん』と返してくれた。

 ゆっくりとした時間が流れていると脱衣所に気配が。誰かお風呂に入りにきたかと暫く待っていると、探検から戻ってきたソフィーアさまとセレスティアさまが。ダリア姉さんとアイリス姉さんも探検組にくっついていたのか、彼女らと一緒に姿を現した。それはもう堂々とした全裸で、ご立派なものを引っ提げて。

 

 「……やはりわたくしが間違っているのでしょうか?」


 ロザリンデさまが四人を見てぼそりと呟く。いや、うん。間違っているというよりは、個人差から生まれる価値観の違いである。恥ずかしいと感じるロザリンデさまの感性を大事にして頂きたいものだと、願わずにはいられなかった。

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