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578/1475

0578:大蛇さんに出会った。

2022.11.13投稿 2/4回目

 喉に大猪を詰まらせた大蛇さん。


 胴回りが一メートル以上ありそうな大蛇さんだけれど、何故巨大な猪を飲み込めなかったのか謎である。胴回りより大きい得物でも丸のみできるはずなのだけれどなあと疑問だ。沼から体を半分だして猪を飲み込めないままじっとしていた大蛇さん。なんつー間抜けと指を指して笑いたくなるが、そこにはままならない理由があったようだ。


 巨大な猪はこの島の主。しかし年齢の所為なのか年々弱ってきていたのだという。突然島に魔力が満ちると、猪の残り短い命に終わりが訪れる拍車を掛けてしまった。


 「何故……」


 島に魔力が満ちたのは私が魔力を放出したからだ。島が大きくなって魔力が満ちたことで喜んでいたが、裏ではこんなこともあったなんて……。大蛇さんから視線を外して地面を見るとクロが顔を頬に強めに擦り付けた。リンも私の隣にいつの間にか立って、腕に手を回す。


 『彼は死期を悟っていたのだよ。島に魔力が満ちたことで生きたいと願う者は力を得て、死にたいと願っていたものは穏やかな死を迎えた。それだけだ』


 大蛇さんの話には続きがあった。島の野生動物を統べる者が居なくなるのは不味い。奇跡的なバランスで調和を保っており、大きな猪の不在は無用な争いを避けられない。

 であれば、次代を担える者に託すしかないと大猪は考えたようだ。大猪が力尽きれば、大蛇に自分を食べろと沼に告げにやってきた。長く生きた生き物には魔力が宿る。大猪が溜め込んだ魔力を大蛇が食べれば、大蛇はさらに強くなり島を統べる主となろうと。


 『彼の要望を受け入れたのだよ、私は。しかしなあ……大きすぎて顎が開かぬようになってしまった。流石島を統べる主! 一筋縄ではいかなんだ!』


 くく、と笑う大蛇さん。いや、それ食べないのも失礼なのではと思ってしまったのは、私の考え方がヤバいのか。それとも感動話を笑い話に変えようとしている大蛇さんがヤバいのか。判断はつかないが、とりあえず先のことである。


 「では、こちらの猪さまはどうなさるのですか?」


 迂闊に呼び捨てすらできなくなって『さま』付けする羽目になる。大蛇の口に含まれていた部分は涎でべっちょりしているのだけれども。

 このまま放置すると暑さで直ぐ腐ってしまうだろうし、一体大蛇はどうするつもりなのだろうか。島にいる方たちで食べるにしても、この大きさだと消費に何日掛かるかわからないし、できることなら次代を託された大蛇さんに食して欲しいけれど。年老いた猪肉は堅いと聞いたことがあるし、大きすぎると大味すぎて食べられたものじゃないとか耳にしたことがある。


 『私が食すべきなのだが……何分猪殿が大きすぎてね。島に魔力が満ちて体が大きくなったのは良いが、咥えられる大きさを見誤ったのは最大の不覚。自然に生きる者として情けない限りだ……』


 首を上げていた大蛇さんが、地面に首を下ろして地面に顔をぺしょんと付けた。どうやら生き物としての矜持を傷つけたようだ。大蛇さん自身が失敗したようだけれど。


 『じゃあ、どうするの?』


 クロが私の肩の上で首を傾げながら大蛇さんに問いかける。


 『竜の御仁に食って貰うのもアリかと考えたが、それだと猪殿の希望を無下にすることになるしな。どうしたものか』


 クロが大きくなれば簡単に食べられるだろうけれど、クロって果物を好んで食べているからお肉って食べられるのかな。大蛇さんの言葉に少し考えた様子を見せつつ、クロがまた口を開いた。


 『なら、ナイに魔力を分けて貰う? 大きくなれるかもしれないよ』


 『ナイ、とはそこな少女かね? 幼いながらも魔力は強大なようだが……』


 幼いって。私はもう既に十六歳ですってば。チビでチンチクリンでストーンな真っ平だけれども、正真正銘の十六歳だっての。あと二年経てばアルバトロス基準で婚姻可能年齢になるから。

 血筋なのか、魔力による成長阻害なのかどちらかハッキリしないけれど、好きでこんな姿になった訳じゃない。これも自然に生きる者として、自然に生きた結果なの!


 『おお! 確かに幼子の魔力は凄い物だな。こうもはっきりと魔力を人間から感じることができるとは! 詠唱もしておらぬのにこの量は素晴らしいとしか言いようがない!』


 「わたくしは十六になりますので、幼子にはならぬかと……」


 歯を食いしばって、テンションが高くなっている大蛇に向けて言葉を口にした。クロ、クロ! 間抜けな大蛇の盛大な勘違いを訂正して! 幼子じゃないから。せめて少女くらいに表現して! 中身はアレかもしれないが、肉体年齢は十六歳だから!! 純然たる事実で嘘なんて一ミリもないから!!


 『ははは! 私の為に魔力を注いでくれるのだな、幼子よ!! 魔力が有り余るならば万年の時を生きてみせようぞ! 強き亀よりも長く生きる自信がある!!』


 話を聞いてねえ……。子爵邸の図書室に置いてある、あの魔導書を持参して死者蘇生の魔術を猪に施してみようかな。蘇って島の主を続けてくれるかもしれないし。それとも大蛇に向けて因果さえ消えてしまうという魔術を行使しようか。

 ははは。うん、それも良いのかもしれないなあ。この島であれば禁術を使用してしまってもバレやすまい。バレたとしても証拠がなければ立証されないから、使い終えたあとだと分かり辛いはず。ダリア姉さんとアイリス姉さん辺りには勘付かれるかもしれないが、突っ込まれなさそうだし。


 『…………』


 無言のままクロが私の肩から飛び立って、大蛇の目の後ろに近づいてなにやら囁いている。幼子と連呼された悔しさからか、魔力が自然に湧き出てきている。


 『う、すまぬ。少々、気分が高揚し過ぎたようだ。私の無礼な発言を許してくれぬか。野生に生きる蛇が人間の都合を理解できず馬鹿を申しただけだと承知して頂きたい』


 大蛇は謝罪を終えると私から顔を逸らして、明後日の方向を見つめていた。蛇の癖に発汗しているのは気のせいだろうか。気のせいか。蛇に汗を掻く機能なんて備わってなかったはずだし。


 「ナイ。顔、怖いよ。そんなナイも可愛いけど」


 リンがてれっとした顔で指摘をくれた。ついでにフォローになっていないフォローの言葉も添えて。

 

 『怒りは収まったかな? その……なんだ、魔力が満ちていたもので、また大きくなれると願ってしまってだな……長く生きる者は魔力に敏感だと申しただろう。仕方ないのだよ、性というものだ…………私の言葉に応えて?』


 『えっと……このまま放っておくわけにはいかないし、彼の願い通りに君に食べて貰うのが一番だと思うけれど……』


 クロは放置されている大猪に視線を向けてから、大蛇へと視線を変えた。

 

 『竜の御仁よ。少々待って頂きたい。魔力が足りぬと申したが、彼女の魔力は密度が高い所為かちょっと脱皮をしたくなった。直ぐ戻る故、お待ちいただきたい』


 確かに脱皮の前兆といわれる、目に膜が張り胴体の色も先程よりくすんでいる。いつの間にと呆れつつ大蛇を見ていると、沼から体全体を出した大蛇の全長はかなり長いものだった。

 先日助けた空飛び鯨よりも長さだけなら長いかもしれない。ズルズルと器用に体をうねらせて森の奥へと消えていく。進んだ方向に居たであろう鳥たちが凄い勢いで空高く飛んでいった。あんなサイズの大蛇が小鳥を食べるなんて思えないけれど、鳥たちは危険と察知したのだろう。


 「戻るかな?」


 脱皮って結構な時間が掛かるはずなのだけれど、どうなのだろうか。魔力で大きくなったというなら、魔力で早く脱皮できるのかもしれない。


 「どうだろう?」


 『待ってみようよ。直ぐ戻るっていったから嘘は吐かないはずだよ』


 リンが首を傾げて、クロが様子を見てみようと言った。息絶えた大猪を放置する訳にもいかないし、待つしかないのだろう。木陰に腰を下ろして待つこと一時間。直ぐに戻ると言った割には遅いなあとリンと顔を見合わせたその時だった。


 『待たせた。私は戻ってきたぞ。――今の姿であれば彼を喰えるであろう』


 先ほどよりも一回り大きくなった気がする大蛇が、森の中から姿を現して戻ってきた。鱗に艶が出ているし、目に膜は張っていない。転がっている大猪に大蛇が近寄って鼻先で猪の身体を持ちあげて、体全体を使って口に入るようにと器用に動いている。今度はとぐろを巻いて頭から綺麗に食いついた。

 顎を限界まで広げて喉奥へと大猪を突っ込んで体を動かしながら大猪を飲み込み、ついに口から消えた。

 

 『ふう。これで彼の意志は守られ、私は彼の意志を継ぐことになる。島の主としてこれから長く長く生きねばな』


 ふふん、と恰好を付けて大蛇は沼の中へと体を沈めて顔だけを出し、私たちに視線を向けるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 猪がデカくなったのもナイの魔力注入のせいだから……自らの尻拭いを果たした訳ですね。 [気になる点] 大蛇には、切り分けてもらってから食べる……っていうのは矜持が許さないのでしょうねぇ。 …
[一言] そんな早く脱皮するんかい ヤバいなぁ 去年辺りは効果が出るまでちょっと時間必要だったのに、そんなすぐに成長促進するなんて 反黒髪聖女派からすれば、危険要素増し増しになってる
[気になる点] おっと次は亀さん登場のフラグが? この世界の強い亀さんは玄武かな?ガメラかな? いや、この島がアイランドトータスの可能性も・・・魔力でデカくなった訳だし。
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