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0571:BBQを楽しもう。

2022.11.11投稿 1/2回目

 ――空飛び鯨。


 エルフのお姉さんズによると、浜に打ち上げられていた鯨は空より上の空を飛ぶらしい。海に潜っているか、空を飛んでいるかのどちらかだそうな。海で泳いでいれば普通の鯨と見分けはつかないが、空を飛ぶのでその時にようやく『空飛び鯨』と分かるのだとか。

 空を飛んでいる姿は滅多に見る事はできず、空飛び鯨を発見すれば運がいいとエルフの皆さまの間では縁起物扱いなのだとか。そんな生き物が浜辺に打ち上げられていたのは不思議でならないが、元気で戻って行ったのならばなによりだ。


 鯨を沖へと戻したベリルさまは、鯨から『海面を泳いでいたら、いきなり襲われて驚いた。大きな音が聞こえたけれど、一体なんだろう?』と首を傾げていたらしい。大きな音という表現が曖昧だけれど、海に住む魔獣等であれば叫びこえとか雄たけびと表現しそうなものだが、大きな音……ねえ。まさかスクリュー音やエンジン音なのかと、頭を捻るけれどこちらの世界の船事情は詳しくない。内陸国家に住んでいるから情報が少ない。海がある国に問い合わせすれば分かるかもしれないと、一旦考えを打ち切って、とある人たちを目指して浜辺を歩く。


 「お疲れさまです。手伝って頂きありがとうございます」


 砂浜で空飛び鯨を見守っていた私は、治癒を施してくれたアリアさまとロザリンデさまに声を掛けた。クロが私の肩から飛んで、お二人の前で滞空飛行している。


 『アリア、ロザリンデ。鯨を助けてくれて、ありがとう』


 クロもお二人にお礼を告げていた。流れ着いた鯨を助けようと必死だったから、助かったことが嬉しいのだろう。


 「クロさま、ナイさま。お疲れさまです。――お役に立てたなら幸いです!」


 「少しはお役に立てたでしょうか……?」


 お二人の言葉にクロが更に近寄って機嫌よさそうに言葉を告げていた。鯨を見つけたソフィーアさまとセレスティアさまもこちらに来て、アリアさまとロザリンデさまに礼を述べている。どうやら島を探検し始めて直ぐに見つけたようで、生きていることが分かり慌てているとクロと合流して助けを呼びに来たのだとか。

 普通の鯨と考えていたのに、珍しい鯨と知って驚いたけれど助かって胸を撫で下ろしていたとのこと。ソフィーアさまとセレスティアさまは魔術を使えても、攻撃一辺倒なので治癒を施せないからかなり慌ててしまったと。ご令嬢らしからぬ足の速さは、身体能力が高い証拠。私は運動関係はあまり得意ではないので羨ましい限り。


 「みんな、お疲れさま。空飛び鯨を見られるなんて思っていなかったから良かったわ」


 「お疲れさま~。凄く傷ついていたけれど、無事に空を飛べたみたいだから。私たちだけじゃあ無理だったし、ありがとね~」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんもお礼を告げていた。流れ着いた鯨はあちこちに付いた傷の所為で、息も絶え絶えだったから。お姉さんズだけでも危なかったと言っているなら、私一人の力では間に合わなかっただろう。みんなで助けた命なのだから、先ほどの空飛び鯨には元気で長く生きて欲しいと空を見上げた。


 随分と小さくなった空飛び鯨二頭は、悠々と青い空を泳いでいる。暫く見ていると米粒程の大きさになって、肉眼で捕らえることが難しくなってきた。

 

 ――ぎゅるるるる。


 魔力を使用した所為か、私のお腹が盛大に鳴った。お姉さんズは別として、アリアさまとロザリンデさまのお腹は静か。何故、こんなにも違いがあるのかと片手でお腹を擦る。


 「魔力を沢山使っちゃったからお腹が空いたのね」


 「仕方ないよ~。戻ってご飯にしようよ」


 ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉に同意して、走ってきた浜辺を歩いて戻る。みんな顔が明るいから、鯨が助かったことはやはり嬉しいようだ。


 「緊張感なさすぎじゃないか、ナイ?」


 私の少し離れた横を歩いていたクレイグ。緊張感はあるつもりなのだけれど、彼にはそう見えなかったのだろうか。


 「そうかな?」


 「なんであんな所で腹の虫が鳴るんだ……雰囲気が台無しだ!」


 あ、そっち……と納得する。でも仕方ないじゃないか。魔力を使うとどうしてもお腹が空く。アリアさまとロザリンデさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんだってお腹が空いている筈なのだ。私のお腹のように正直じゃないだけで。


 「クレイグ、ナイが一番大きい傷を治していたから。それに、ナイらしいじゃない」


 サフィールがクレイグに対してフォローを試みていた。優しいサフィール、もっとクレイグに言ってあげてくださいな。仕事を終えたあとのご飯は美味しいし、食べ甲斐もあるのに。


 「そりゃそうかもしれんが、コイツは一応女だからなあ。もうちっと恥じらいつーもんを……」


 「まあ、それは……」


 サフィールは一度私を見て視線を直ぐに反らした。なんでそこで反撃を試みてくれないかなあ。まあ、サフィールだから強く言えないのは知っているけれど。いつものやり取りに花を咲かせながら、ゆっくりと歩いていく。

 お腹空いたなあと大海原を見る。そういえば釣り竿を持ってこなかったから、手製で作らないとなあ。磯があるなら、そっちで蟹や海老に蛸が獲れるといいなあなんて考えている。島の調査も兼ねているから、一ヶ月という長丁場だ。遊びと仕事にメリハリをつけて楽しまないと、直ぐに飽きてしまうだろう。


 元居た場所へと辿り着いた。残っていた方たちが昼食を用意してくれていたようで、直ぐに食べられる手筈になっていた。空飛び鯨を見たとテンションが高いダークエルフさんたち。子爵邸の侍女さんは空飛び鯨を見て驚きを隠せていないけれど、ダークエルフさんたちの話を聞き縁起の良い生き物と聞いて喜んでいるみたいで。


 ダークエルフさんたちに焼肉文化があるのかは謎だけれど、用意されていたものは『肉!』と叫びたくなるくらいになる量だった。お肉以外にも用意されているものはあるけれど、肉との対比が凄い。お野菜は気持ち程度のものだ。

 お野菜がないことを危惧した子爵邸の侍女さんに公爵家、辺境伯家、侯爵家から派遣されている侍女さんたちが意気投合したようだ。持参してきた食料から、バーベキュー用の串にお肉と野菜が刺されていた。お魚も用意されており、下処理を済ませたお魚さんが大きな葉っぱの上に並べられている。


 「張り切って用意しました。聖女さまのお口に合えばいいのですが」


 ダークエルフさんたちの長が私に頭を下げた。島を大きくしたことに感謝をしているようだった。島を竜やダークエルフさんたちの移住先にと提案したのはダリア姉さんとアイリス姉さんである。魔力を注ぎ込んで島が大きくなったのはオマケの話であり、ダークエルフの方々は私に感謝するよりダリア姉さんとアイリス姉さんに感謝すべきだと伝える。


 「ダリアとアイリスにも申しました。――島が大きくなった根本的な理由は聖女さまです。我々は亜人連合国だと少々不都合がありましたので」

  

 ふ、と笑みを浮かべたダークエルフさん。あまり否定するのも失礼だし、お腹が減っているからご飯を沢山食べないと。

 食べ終われば、持参してきた麦と大豆を蒸して暗くてジメジメした場所でしばらく放置する予定。

 お味噌さんとお醤油さんを口にできる日がくればいいけれど、こればかりは試行錯誤するしかない。

 失敗に終わっても良い経験だと割り切って、他の物に力を入れれば良いのだし。


 「さ、皆さん。お楽しみください」


 火の付いた炭がはじけて良い音を鳴らし始めた。ダークエルフさんたちのご厚意に甘えて、遠慮なくお肉や野菜を網の上に並べ、みんなでわいわいとバーベキューを楽しむのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] さらっと流したけど、鯨が座礁した理由って人間じゃないかな~って予想してます。 魔獣等が理由って可能性も捨てきれないけど(汗)
[一言] 孤島でのバーベキューパーティーなのに、魚以外の海産物は無いのか。 まあナーロッパだと、イカとかタコとか、クラーケンや、海魔なんぞは食べないのかも知れないけど。
[一言] 何を言っているんだ、クレイグ 腹の虫の制御ができるナイは、もう君たちの知るナイではなくなるってことなんだぞ
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