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0567:ルカの行方。

2022.11.09投稿 1/2回目

 アガレス帝国のウーノさまから手紙が届いた。私的なものと公的なものが同時に送られた訳なのだけれど、ウーノさまが手紙を認めた日は昨日。アルバトロス王国とアガレス帝国は海を隔てている為に随分と距離があり、たった一日で届くことなんてあり得ない。

 それを覆すことができる魔術が存在するので、随分と移動時間が早くなることもある。アルバトロス王国とアガレス帝国との縁ができたとのことで、手紙や書状を転移させることができる魔術具を帝国に渡したようだ。距離がある所為で中継国を一度挟まなければならないが、飛空艇でやってくるよりも時間と経費が掛からない。


 ウーノさまからの手紙には、陛下から譲位宣言を受けたとのこと。まだ少し時間は掛かるだろうけれど、立太子した後にアガレス皇帝の座に彼女が就くことになった。周囲の人たちも彼女の立太子と皇帝の座に就くことに反対する者は少数で、順調に移譲が進んでいるのだとか。


 公的なものは執務室でみんなと確認して、ウーノさまがアガレス皇帝に代わり実質の支配者となったことを確認。その旨はアルバトロスにもきちんと公的な書状が届けられている。執務を終えて自室に戻り、ウーノさまが私的に送られた手紙に目を通していた。


 定型文の挨拶を読んで、皇帝の座に就く目処が立ったことが記されている。同じものを書かなくても問題ない気がするけれど、個人としてもお付き合いを続けて欲しいというアピールなのだろうか。兎にも角にも、元第一皇子以下五名と銀髪くんは鉱山送りとなって、騒がしい日々を送っているのだとか。重労働だからかなり大変なはずなのだけれど、まだまだ元気だとのこと。銀髪くんの様子が少しおかしい時があるそうだが、元気だというならば問題ないだろう。

 ヒロインちゃんはアガレス皇帝に凄く気に入られているようで、猫なで声でヒロインちゃんにすり寄り気を引こうとしているが効果がないとのこと。痩せればワンチャンあるかもしれないと、忘れず返事に書いておかないと。アガレスの皇子や皇女さまたちは美男美女だったから、漏れず皇帝もイケメンのはずだから。

 

 「アガレスは大丈夫かな……たぶん」


 ベッドの上で胡坐をかきながら手紙を読みつつ、アガレスの未来を憂う……私は他国の人間だから気にしても仕方ないけれど。頑張るべきはその国の人間でなければならない。自然災害で甚大な被害を被った、とかであれば手を差し伸べるべきかもしれないが、国の未来を切り開くのは自国民であるべきだよね。

 ベッドに寝転がろうとすると、ロゼさんが三倍くらい大きくなってクッション代わりを務めてくれた。なんだか凄く大きい例のクッションみたいで、ダメ人間になりそうだ。体温調節もできるから、ちょっとひんやりしてて冷たい。冬は体温を上げてくれると以前にロゼさんが言っていた。魔術以外にも小技ができるなんて。一体どんなスライムさんを目指しているのだろう。


 『ナイが随分と無茶をしたからねえ』


 私の横で手紙を覗き込んでいたクロが、目を細めてそんなことを言った。無茶をしなきゃならない状況だったから、ああなったのはアガレスの責任だ。初手の段階で話し合いの席に応じてくれていれば、ああはならなかったから。


 「召喚儀式なんて執り行うからだよ。巻き込まれた私はたまったものじゃないからね?」


 『それはそうだけれど……ナイは自分の身は自分で守れるから』


 クロは私が消えて慌てたけれど、ふと私であればどこに行っても平気だと直ぐに考えを変えたのだとか。酷いなあと目を細めるけれど、信頼の表れなのかな。

 副団長さまとダリア姉さんとアイリス姉さんにシスター・リズに、魔術関連を教え込まれていたから功を奏した。ウーノさま頑張ってとエールを送りつつ、手紙を読み進める。


 「あ……ルカがアガレスの帝都まで飛んで行ったみたいだね」


 どうやらルカは放浪の旅を楽しんでいるようだ。手紙には黒い天馬が降り立ったことで、随分と騒いだと記されてあり、私の関係だと知るとみんな納得したのだとか。腑に落ちないけれど、ルカが元気であればなによりだ。痩せていたり怪我をしていなきゃいいけれど。聞いてみても問題ないだろうから、返事にはルカの事も書かないとなあ。


 『ルカはあの時『付いて行く』って珍しくゴネていたから。興味があったんじゃないかな』


 大人しく留守番していたのかと思いきや、一悶着があったのか。ルカのことだから諭されれば理解できただろうが、やはり興味があったのだろう。でなければ、わざわざ東大陸まで単独で飛ぶ理由がない。お嫁さんを連れて戻ってくるのはまだまだ先かなと、口の端が伸びた。

 エルとジョセが、ルカは強いからお嫁さんが沢山できるに違いないと自信満々にいっていたけれど、その日はいつになるのやら。ウーノさまへの返信を書いて、その日は就寝するのだった。


 ――数週間後。


 明日から長期休暇となる。この数週間は、亜人連合国の皆さまと一緒に、不動産屋さんに王都の空き店舗を紹介して貰い、構えるお店を決定させていた。不動産屋さんから借りるか買うかどちらか迷っていたみたいだけれど、最終的に買うことになり、今はお店の改修工事中だ。傷んでいる部分は新しくして、内装や外壁もいろいろと変えるみたい。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんにディアンさまとベリルさまたちと一緒に王都の街を闊歩した訳だけれど、やはり亜人の方は珍しいようで、好奇の視線を受けていた。

 いつか、こんな視線が刺さらなくなりますようにと願うばかりだ。人間って慣れてしまうとスルーしてくれるから、時間の問題のような気もするけれど。学院にも通いつつ、ロザリンデさまの授業を受けたり、合間にお城の魔力補填や教会の礼拝に参加、子爵領に顔を出して畑の様子や統合した領地の視察に精を出していた。


 あと、エルとジョセが戻ってきて、セレスティアさまが大喜びしていた。どうやら、やることをやってきたみたい。出産はまた子爵邸でとのことだった。


 去年の長期休暇前半は大規模討伐遠征に駆り出され、後半はお城で閉じこもり生活。学生らしいことなんて全く出来なかったので、今年こそ楽しもうとジークとリン、クレイグとサフィールで話していた。

 でも別荘を持っている訳でもなく、ご近所さまに迷惑となってしまうので子爵邸でバーベキューを楽しむ訳にもいかず。王都の街を闊歩するにも騒ぎになってしまうだろうと頭を抱えていたが、お味噌さんとお醤油さんプロジェクトが始動していたことを思い出した。高温多湿なあの島で、麹菌をどうにかして見つけようとフィーネさまとメンガーさまと私で決めていたのだった。

 

 島の海で泳ぐこともできるし、バーベキューをしても怒られない。ディアンさまたちの許可が下りれば、みんなで南の島に行こうと話が纏まったのだ。


 で、お隣さんに打診しにいくと即オッケーを頂けた。お仕事がないならば、亜人連合国の皆さんも夏休みを楽しみませんかと誘うと、これも即時オッケーが。島の設備が整っていないので野宿に近い形になるけれど、孤児時代を過ごしてきた身とすれば屋根があれば十分だし、気候が良いなら砂浜に寝転がって寝るのも乙だ。


 いつもお留守番だったクレイグとサフィールも一緒。ソフィーアさまとセレスティアさまは例年別荘で過ごすそうだが、島が気になるし私たちと一緒の方が楽しそうとのことで、彼女たちも島で休暇を楽しむ。この際ならとアリアさまとロザリンデさまも誘い、身の回りのお世話をしてくれる侍女さんたちも同行することになっている。もちろんサバイバルが得意な方限定だけれど。


 フィーネさまとメンガーさまも誘ったが、遠慮したのだろう。フィーネさまは聖王国に一度戻り、メンガーさまは自領に戻って過ごすとのこと。

 レポートがあるので私一人でも問題ないけれど、知識不足が否めない。お二人に教えて貰ったのだけれど、お醤油さんよりもお味噌さんの開発が先と教えてもらった。お味噌ができる過程で『たまり醤油』が得られるのだって。ちょっと不安な面もあるけれど。


 とにもかくにも、長期休暇前半は海の島で、お醤油さんとお味噌さんの麹菌確保と遊び三昧するぞ、と意気込むのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この南の島に、固有名詞は付かないのでしょうか?……水も食材となる動植物も豊富で温泉まで有るんだから一大リゾート地ですよね♪ ってか数多のドラゴンが飛び回る有り様は、ナイの感想通り『ジュ…
[一言] ナイちゃん初めての夏休み・・・なにも起きないわけない
[気になる点] ナイは気軽に誘ったが、実はエーリヒは行くても行かないでも問題あるですね、胃痛案件。 まあ、流石に人前でやってない、まだ大丈夫ですけど。 しかし、子爵当主と大聖女と頻繁に密談のことも(…
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