0565:こんな所に。
2022.11.08投稿 1/2回目
ドワーフさんの所に顔を出すと、以前対応してくれたドワーフさんが姿を現して鞘と柄の説明をしてくれた。剣の方が良い素材を使っているから、鞘と柄もそれに対応できるものじゃないと駄目なのだそうだ。素材は何を使ったのかと首を傾げれば、竜の鱗を使用したのだとか。ディアンさまとベリルさまの鱗を提供してくれたので、二振りの剣に黒の鞘と白の鞘を用意したのだとか。
鞘と柄に魔力を込めるから、刀身の形が変わってしまっても鞘と柄も刀身に合わせて変化するらしい。本当に不思議だなあと説明を聞きながら、ドワーフさんたちに促されるまま魔力を込める。
竜の鱗、しかもディアンさまとベリルさまのものなので、魔力の耐性値が高いとのことで遠慮なく注ぎ込んで良いと助言をくれた。それならばと、前回より多く魔力を注いでみる。
ハイテンションのドワーフ職人さんに、私たちと一緒に集落に来ていたダリア姉さんとアイリス姉さんが『職人って馬鹿よねえ』としみじみと呟いていたのが興味深かった。お二人ならば『もっとやっても大丈夫』なんて言い出しそうだけれど、踏み入れない部分なのか、ドワーフさんたちのやり方に口を出すことはなかったのだ。
嬢ちゃんありがとな、と陽気に笑うドワーフさん。ジークとリンの長剣をオーダーした時よりも仲良くなったと思いたい。
気軽に依頼をくれとも言われ、どうしたものかと頭を抱えそうになった。ドワーフ職人さんが製作した品物は、亜人連合国を出ると一気に価値が上がる。王族の皆さまへの献上品を贈ることはしばらくないし、公爵さまや辺境伯さまの誕生日は来年。しばらくは製作を依頼することはないなと、ドワーフさんの言葉に返事をした、その時。
「さ、代表の所へ行きましょう」
「行こう、行こう~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが私に声を掛けた。どうやらタイミングを見計らっていたようで、ドワーフさんたちと私の会話を遮らないように配慮していたようだ。
お二人の言葉に『はい』と声を返してエルフの街へと足を運び、最初にディアンさまたちと最初に出会った家の前に辿り着いた。――あれ? 見知った姿が視界の端に映る。翼の生えた白い馬が二頭、木の根元に生えた草を食んでいた。
「エル、ジョセ?」
私が呟くと、肩に乗っているクロが『あの二頭みたいだね』と教えてくれた。ルカの旅立ちを見送ると、エルとジョセも少しお出かけしますと言い残して、どこかへ飛び立っていたのだけれど。ゆっくりと移動しながら亜人連合国へと辿り着いたのかな。久方ぶりだし、セレスティアさまがアンニュイになっていることを伝えたいと、私の横を歩いているアイリス姉さんとダリア姉さんへ顔を向けた。
「あ、そうそう。何日か前にあの子たちが街に降り立ったの」
「畑に魔力を放出していたでしょ~。ナイちゃんの気配に誘引されたみたいだよ~」
お二人は私がなにかを言う前に、エルとジョセに既に気付いていたようで、ここに来ている経緯を簡単に説明してくれ、二頭の下へと連れて行ってくれた。
『聖女さま、お久しぶりです』
『お久しぶりでございます、聖女さま』
エルとジョセが私の下に数歩歩いて、首を下げて私の顔に顔を寄せてきた。久しぶりだなあと感慨深く、エルの頬を撫でたあと、ジョセもエルと同じように顔を寄せたので手で頬を撫でた。
「エル、ジョセ。久しぶりだね。なんだか凄く懐かしい気がするよ」
二頭は私の顔から離すと前脚を何度か掻く。もう一度顔を撫でたくて手を伸ばすと、エルとジョセは目を細めて手に顔を寄せた。
『申し訳ありません、直ぐに聖女さまのお屋敷に戻る予定でしたが、仲間が出産場所を探していたり、食糧が豊富な場所を教えて欲しいと請われまして』
『聖女さまの痕跡がある場所であれば、強い子が産まれましょうと方々を回っておりました』
で、ここに辿り着いたと。少し様子を見ながら、仲間を案内するつもりだったらしいのだけれど、許可とか大丈夫なのだろうか。亜人連合国だから、害のない魔獣や幻獣ならば受け入れてくれるはずだけれど、ちゃんとした方針を知らないので、エルフのお姉さんズを見る。
「問題なんてないわね」
「むしろ喜ぶべきことだよ~。数が少なくて心配していたから良いことだしね~」
エルフの皆さまも竜の皆さま他の亜人の方々も大歓迎なんだって。亜人連合国ならば誰かに捕まることもないだろうし、生まれた仔馬を取られることもあるまい。人が良すぎる天馬さまたちなので、ちょっとおまぬけ気味だから妙な場所だと生きて行けるか心配だし。
『では、数組の天馬をこちらへ案内させて頂いてもよろしいでしょうか?』
「もちろん」
エルの言葉にダリア姉さんが同意。
『自然が多い場所ですし、聖女さまの魔力の気配があります。仲間も喜びましょう』
「多すぎると困るけれど数組くらいなら問題ないよ~」
ジョセの言葉にアイリス姉さんに同意する。あれ、こっちにやってきてからエルとジョセはエルフの皆さんと会話を交わしていないのだろうか。エルとジョセは人懐っこいから、誰とでも打ち解けられるはずなのに。
「私たちエルフは不干渉を貫いているから。もちろんこうして縁があれば喋るけれどね」
「声を掛けられればいいんだけれどね。向こうから声を掛けられない限りは、手を出すことも会話も禁止だから~」
エルフの皆さまは不干渉だけれど、竜の方たちは別なのだとか。ドワーフさんたちにもルールがあるようで、種族でまちまちな決まりなのだとか。
エルとジョセはエルフの街へ降りたので、エルフの皆さまに一任されていたと。このまま居付くならそれでも良いし、去るならそれで構わないと判断されていたのだって。ダリア姉さんとアイリス姉さんは声を掛けるのも禁止となっている為、近づいて確かめることも出来なくて、ようやくジョセとエルだと分かったそうだ。
『なるほど。声を掛けて頂けなかったのにはそういった理由があったのですね』
『私たちは嫌われているのかと悩みました』
エルとジョセは苦笑いを浮かべ、許可が取れたので仲間を呼びに行くと空へと飛び立って行った。子爵邸にはもう直ぐ戻るのだとか。ルカも旅立って手が空いたので次の子供を産む準備も済ませているとのこと。また子爵邸で産ませて欲しいとお願いされたのだけれど、断れるはずもなく。天馬さまの出産期間がイマイチ分からないけれど、毎年ポンポン産むものなのだろうか。
「天馬は子供が旅立ってから次の子を宿すには早くて十年、長いと百年以上空くことがあるわね。もちろん個体差があるから、一概には言えないけれど」
「強い個体だと早くなるって伝えられてるよ~。エルとジョセは強い個体なのかも。――代表の所に行こう~」
お姉さんズから衝撃の事実が伝えられた。え、天馬って一年毎に産まないのか。馬と同じに考えない方が良さそうかな。
幻想種に位置する生き物だし、長生きだから百年かかるというのは理解できるけど、ルカを産んだあと直ぐに次の子を宿すなんて。天馬さまたちの生態を聞きながら、家にお邪魔させて頂くとディアンさまとベリルさまが歓待してくれた。
「アルバトロスから許可を取れたようでなによりだ。手間を掛けさせて済まないな」
「ダリアとアイリスが無茶を言い出しましたから、大変でしたでしょう?」
ディアンさまとベリルさまが私を労ってくれるが、ダリア姉さんとアイリス姉さんが微妙な顔になっていた。手間は掛かっていない。私がやったことはアルバトロス上層部にお伺いを立てただけ。
「いえ。私はアルバトロス王国の皆さまに許可を取り付けただけで、これから動かねばならないのは王国上層部の方々です」
簡単にお姉さんズの言葉に同意して協力すると言ってしまったが、お店を構える事よりも、そこから波及することの方が大事だった。
エルフやドワーフさんたちが作った品が売られるとなると、王国中、いや西大陸の商人がこぞって買いにくると教えてくれた。そこまで規模が大きくなるとは考えていなくて、大事に発展しているが公共事業だし王都に人が入ってくるならば悪くはない話のはず。
「礼状でも認めておくか。確か街道や王都の宿屋の整備をすると聞いた。荷運びであれば我々も協力できよう」
ディアンさまは陛下やアルバトロス上層部に向けてお礼状を認めてくれるようだ。労力が一番かかるであろう力仕事には竜の方たちの協力を得られるようだから、工期が少しでも短くなると良いけれど。あと少しすれば、王都の物件の下見に行くし、お姉さんズがどんなお店を開くのか楽しみな私だった。






