0557:【後】ドワーフ職人さんの道楽。
2022.11.05投稿 1/3回目
今日はドワーフさんたちの現場を見学させて頂くし魔力も注ぐから、昨日はご飯と睡眠は確りと取って準備をしてきたから絶好調である。ぶっ倒れたとしても、二、三日ならば、お城の魔術陣への魔力補填まで間に合うし、仕事に支障はないので無問題。
ドワーフさんが事前にある程度鍛えた剣を見せられたのだが、魔石で鍛えられているからか、不思議な色合いをしていた。
「刀身が透明で綺麗ですね……」
「魔石で鍛えたからな。嬢ちゃんが注いだ魔力と最後の仕上げで金属感がでるぞ。俺たちも最後までどんなものができるのか分からないから楽しみだ」
話もほどほどに剣を鍛える準備が整った。カン、カンと剣を打つ音が鍛冶場に鳴り響く。軽快なリズムで剣の形を整えられていた。魔力を注ぐタイミングはドワーフさんたちに一任され、声を掛けられたら魔力を一気に注ぎ込む。注ぎ込む魔力量は、いくらでもとドワーフさんたちから助言を頂いている。
同席しているディアンさまはなにも言わないので問題ないのだろう。最初に邪竜の意志を閉じ込めた魔石を鍛えていた。
「堅いな……流石、悪さをしていた竜の意志が閉じ込められているこたーある!」
鎚を打ちながら、声を上げるドワーフ職人さん。使用している魔石が堅くて苦心しているようだ。
もう少し先かなあと待っていると、剣を打つ音が変わり、音が高くなってきた気がする。
「嬢ちゃん、頼む!」
「はい!」
側に控えていた私はドワーフさんの合図で魔力を剣へ注ぎ込む。注ぎ込む量は適当で良いらしいが、せっかくなので陛下に贈る剣の時よりも多く注ぎ込む。
魔力を注ぎ込むと剣を打つ音が更に変質した。表現するのが難しいけれど、聞き心地の良い音になっている。注ぎ込む量を調整していると、汗が流れてくる。魔力の放出はなにも考えずに放出する方が楽だけれど、やりすぎると素材の魔石が壊れてしまう可能性があるから、割と気を使う。ドワーフさんたちが打ち続ける間、少量だけ注ぎ込むというのがとても難しい。
「嬢ちゃんもういいぞ。後は俺たちの仕事だ!!」
魔力を注ぎ込むのを止めて、ドワーフさんたちが打ち続ける姿をしばらく眺めていると、打ち終わったようだ。
「刀身が藍色だな。これはこれで味がある色に仕上がったし、嬢ちゃんの魔力の影響で持ち主の特性に合わせて刀身が変化するはずだ」
なんだか凄い代物が仕上がったなあと、邪竜の意志が宿った魔石を鍛えた剣を見下ろす。陛下に贈った剣のように淡く光っているけれど、刀身が藍色だった。もしかして邪竜の鱗の色なのかと考えていると、
「長老!? どうしてこちらに!」
ドワーフさんたちが驚き、長老と呼ばれた長く伸ばした白髪と髭に垂れ下がった眉毛が特徴的なドワーフさんが現れた。
長老と呼ばれたその人は、職人さんが持っていた鎚を受け取って側にきて私を見る。
「面白いことをしていると聞いてな。血が騒いで見にきたのじゃよ」
長老さんの現役時代は、ドワーフさんたちの間で伝説の鍛冶師と呼ばれていたのだとか。引退して時間が経っているが、面白そうなことをしているので様子を見に来て血が疼いたのだとか。次に鍛える剣は長老さんも加わるようだ。伝説の鍛冶師と言われていただけあって、また打つ姿がみられるとドワーフさんたちが盛り上がっていた。小休止を取って、体力を回復させてから取り組むことになった。
差し入れしたレモンのはちみつ漬けも好評なようでなによりだ。フィーネさま曰くオレンジとかでも代用できるそうなので、今度試してみないと。
「次、さらに気合入れていくぞ!」
ドワーフさんの掛け声に応えて、鎚を高く掲げる皆さま。長老さんが現れたことで士気が上がっていた。そうしてまた魔石を打つ音が、鍛冶場に響いて暫く。
「嬢ちゃん、長老が鍛えてくれたからなんの遠慮も要らねえ! 全力で注いじまっても問題ねえぞ!」
ドワーフさんがサムズアップしそうな勢いで、そんな言葉を私に投げた。お世話になったのだから彼らの期待に応えるべきだと、魔力を練って剣に注ぎ込む。流石に島に注ぎ込んだ時のようにはいかないけれど、それでもいつもより多めというか結構な魔力を注ぎ込もうと、魔力を練り放出していた。
『協力する!』
『魔力、魔力!!』
『手伝う!』
私の魔力に惹かれたのか、妖精さんたちが鍛冶場に現れた。協力するっていったい何をと妖精さんたちの行動を見ていると、剣に鱗粉を掛けていた。
なにか効果があるのかなあと首を傾げながら、魔力を更に注ぎ込む。ドワーフさんたちは気まぐれな妖精さんが現れたことで一瞬驚いていたけれど、直ぐに鍛えることに意識を戻した。急な事態に臨機応変に対応する姿はプロだなと感心しながら魔力を注ぎ込む。大丈夫という声が掛からないし、まだ注ぎ込んでも大丈夫なようだ。
ならばもう少しギアを上げるかと放出量を上げれば、妖精さんがさらに増えて剣に降る鱗粉の量が増した。
「……やべえ! 嬢ちゃんもういい! 限界だ!」
「流石にこれ以上は魔石が持たぬのう。お嬢ちゃん、もうよいぞ、ありがとうな」
ドワーフさんと長老さんに止められたので、放出していた魔力を閉じる。鍛冶場には随分と私の魔力が満ちているようで、妖精さんたちがきゃっきゃと魔素を吸い取っていた。仕上がった剣に群がっているドワーフさんたちと、魔素を吸い取ることに必死な妖精さんたち。なんだかカオスな光景だけれど、剣はどんな感じに仕上がったのだろうか。
「嬢ちゃん、こりゃすげえぞ! 妖精が鱗粉を掛けたお陰で、持ち主の傷は軽いものなら勝手に治るし、魔力が込められているから魔法や魔術を使える奴には重宝されるだろうな!」
「本当にこりゃ凄いわい。惜しむらくはワシが現役だったらもっと良い物を打てたのじゃが……」
テンションの高いドワーフさんに、昔を懐かしんでいる長老さん。お二人にお願いして剣を見せて貰うと、見る角度によって色が変わるし、なんだか淡く光っている。妖精さんの鱗粉が剣の周りを飛んでいるし、不思議な剣が仕上がっていた。
「凄いですね……こんなものが打てるなんて」
本当に凄い一品だと思える。剣が放つ空気が通常の品より段違いだ。
「嬢ちゃんが協力してくれたからな」
「ワシ、もう一度現役に戻るかのう……」
ドワーフさんたちの声を聞きつつ、これから鞘と柄を拵えると聞いた。せっかくなら鞘にも魔力を仕込もうと、もう一度ドワーフさんたちの鍛冶場に訪れる約束を取り付けるのだった。