0554:【中】二度目の建国祭。
2022.11.03投稿 2/2回目
学院が主催する、建国を祝うパーティーが始まった。生徒会長や陛下方お偉いさん方の挨拶を終えると、楽団の演奏が始まり生徒会長と婚約者のファーストダンスが披露される。
一曲演奏が終わり、二曲目に入ると一気に踊る人たちが増えた。会場の隅っこで踊っている人たちを眺めていた。ある程度時間が流れれば、会場から抜け出す予定である。今度は国が主催する建国祭に出席しなければならないのだ。面倒だけれど、陛下に贈り物を渡すいい機会なので、参加すると返事をしておいたのだ。
次は学院生ではなくちゃんと聖女としての出席である。去年の学院主催の建国記念パーティーはあんなことになったので、ちゃんとした進行を知らない。
ソフィーアさまとセレスティアさま曰く、挨拶回りを済ませれば退場しても問題ないとのこと。お偉いさん方もある程度の時間が経てば、学院のホールから王城へ移るのだとか。ソフィーアさまとセレスティアさまは寄り子の方たちと話をしてくると、私の下を離れている。今、私の側に居るのはジークとリン、何故かアリアさまが一緒。
「クラスの方とお話をしなくても良いのですか? このまま壁の花では勿体ないでしょうし……」
私はアリアさまの顔を見上げながら問いけると、彼女はにっこりと笑みを浮かべる。
「大丈夫です! クラスのお友達にはナイさまとご一緒することを告げていますから。初めての参加なのだから、楽しんでとも仰って頂いたんです!」
アリアさまは普通科の方たちと仲良く過ごしているようで安堵する。せっかくアルバトロス王国内の最高学府で学んでいるのだから、勉学以外にも友人関係も築いておくべきだよね。
二学期からは特進科に転科となるから、勉学については問題ないし、彼女の明るさならば誰とでも接することができるだろう。相手が一歩引くと半歩詰め寄る子だから、距離感は間違えないだろうし。
「……私は話すことが得意ではないので、側に居ても面白くないかと」
話すネタも少ないし、私といてもアリアさまが喋るばかりで話題を提供できないから。
『アリアはナイと一緒にいたいんだよ。ね、アリア』
クロが私の肩から飛んで、アリアさまの顔の横で滞空飛行をしている。ドレスなので肩は素肌となっているから、乗れないと判断したようだ。
女の子の肌に傷が残るなんて駄目だし、ナイスな判断だなあとクロとアリアさまを見る。
「はい! クロさまもナイさまとご一緒したいから側にいらっしゃるんですよね?」
アリアさまはクロを滞空飛行させたままでは不味いと判断したようで、腕を差し出した。腕は肘まで隠れる手袋で覆われているからだろう。クロもゆっくりとアリアさまの腕に乗る。
『もちろんだよ。ナイの側は落ち着くしね』
「私と同じですね!」
『同じだねえ』
波長が合うのか、クロとアリアさまが意気投合していた。クロはアリアさまの腕から私の肩に移って、ぐしぐしと顔を擦り付ける。
なんだかなあと思いつつ、結局お喋りは始終アリアさまがリードしてくれた。
話題の引き出しを増やすべきだなあと、あれこれ考えていると学院主催のパーティーは一段落したようで退場する人が増えてきた。人ごみをかき分けて、見知った姿がこちらへ来るのを捕えた。向こうも私に気が付いたようで、少しばかり顔が緩んだ気が。
「ナイ、そろそろ時間だ」
「ええ。今度は王国主催の式典に出席ですわね」
挨拶を終えたソフィーアさまとセレスティアさまが戻ってきた。どうやら次の会場に移動となるようで、学院の軽食が食べられなかったことが心残りだけれど諦めるほかない。今度は陛下と直接会って贈り物を渡す手筈となっている。
ドワーフさんたちが鍛えたものなので、一級品だから喜んで貰えると良いのだけれど。ソフィーアさまとセレスティアさまに亜人連合国で作られた物の価値を教えて頂いたが、比較対象を見たことがないのでなんとも言えないんだよね。
以前、遠目からみた陛下が佩いている剣はものすごく豪華な飾りが施されていた。頂いたものを流用するのではなく、ちゃんと宝石商さんを通して買い付けるべきだった。
間がなかったので、辺境伯さまから報酬として頂いた宝石を使用させて貰った――ドワーフさん曰く質はかなり良い物なのだとか――のだけれど、宝石の価値も分からないからなあ。確かに宝石は綺麗だけれど、石ころを磨いただけと一度思うと、どうにも価値が一気に下がり食べ物のほうが貴重に思えてならない。
「さて、遅れると不味いからな。急ごう」
ソフィーアさまの言葉に頷く。今回、アリアさまにも招待状が届いていたそうで、聖女として参加するそうだ。
招待状が送られた理由は、リーム王国の聖樹に魔力補填したことやマグデレーベンの王女さまであるイルフリーデさまの傷を綺麗に治したからだろう。ロザリンデさまにも招待状が届いているそうだ。何気に子爵邸に住む人たちは、凄い活躍をしているのでは。
私も聖女として参加するので、一度子爵邸に戻って準備をする。
そこから転移魔術陣を使用してお城に直行するので、馬車を使用して王城へ参るよりも時間短縮となっていた。学院から馬車で子爵邸に戻ると、屋敷で働く人たちが出迎えてくれて急いで準備を行った。アリアさまとロザリンデさま、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまも準備が必要なので、子爵邸の皆さまはてんやわんやしている。
でも、なんだか楽しそうだなあと、着付けをしている侍女さんたちや補助に入っているメイドさんたちを見ていると面白い。それぞれの性格が出ているし、手元が綺麗な方やおぼつかない方、様々だ。戦場のような部屋の中、隅っこで小さくなっている私。こういう時は指示は侍女さんたちに任せる方が的確だから、きょろきょろと部屋の中を見回すだけに留まるに限る。
「ご当主さまのご用意を!」
待っていると私の番が来たようで、いそいそと部屋の真ん中へと進み、着せ替え人形状態に。髪を結い直し化粧も施される。地味顔だからあまり変わらないのだけれど、流石『化ける』の文字が使われているだけあって、お化粧の効果で少しだけ大人っぽくなっていた。
準備が整ったのでみんなで地下室へと向かう。魔力を注ぐと魔力陣が反応して、王城までは一瞬だった。お出迎えの騎士さまたちに案内されて、会場へと足を向ける。贈り物は子爵邸の方にお願いして、先に届けて貰っている。今は一時保管庫に預けられている筈だ。
式典が始まり挨拶を経て、陛下方やアルバトロス上層部の皆さまは王都を見下ろすバルコニーへと足を運ぶ。そこには王都のみなさまが大勢集まっており、壮観な光景を描いていた。陛下や王太子殿下を始めとした王族の方々がバルコニーに立つと、大きな歓声が上がった。陛下の人気は盤石なようで安堵する。これで罵詈雑言が飛んでいたら、大変なことである。
時間が過ぎ、夜の帳が落ちると夜会が始まった。主催者は陛下となるので、陛下に挨拶をしようとする列に並ぶ。しばらくすると私たちの番がやってきた。高い場所にあるステージの上で豪華な椅子に腰を下ろしている陛下の前に立つ。
聖女としての礼を執ると、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさま、そして一緒にこの場に来ているアリアさまとロザリンデさまも最上位の礼を執る。私たち一同を見た陛下は、面を上げろと声を上げた。
「黒髪の聖女よ。――アルバトロスへの貢献、大儀である。今後もよろしく頼む」
陛下は神妙な顔で私に告げる。彼の隣や周りに控える王太子殿下と王妃さまに王太子妃殿下、第三王子殿下と王女さまも息を呑んでいるような。
「はい、陛下。――陛下には日頃お世話になっております。わたくしの少しばかりの気持ちをご用意いたしました。是非、受け取って頂きたく存じます」
「…………気を使わせて済まない。ゲルハルトの就任式の際も世話になった。他の者も我が国への忠誠――」
少し間を置き私へ感謝の言葉を告げた陛下は、アリアさまとロザリンデさまに、ジークとリンに、ソフィーアさまとセレスティアさまにもお言葉を下さった。アルバトロスへの忠誠心が高い人には凄く効果的なようだ。こんなやりとりを何度もしなくちゃならないのかと、陛下も陛下で大変だなあと、挨拶を終えて場を後にする。
「陛下も大変ですね。まだまだ列が続いていますし……」
素直な気持ちを吐露して、一段高くなっているステージを見る。まだまだ挨拶は終わる気配はなく、長い列が続いたままだ。直ぐに終える人もいれば、時間が長い人もいるようだ。
「確かにな。だがそれが国を背負うということだ」
「ですわね。規模は違うとはいえ、地主貴族でも陛下のように領の者を歓待しますから」
ソフィーアさまとセレスティアさまの評価が厳しいけれど、何かを背負うってそういうことなのだろうと、夜会の人ごみの中に私たちは混じるのだった。






