0552:打ち合わせ。
2022.11.02投稿 2/2回目
ダリア姉さんとアイリス姉さんのお願いを聞いて、子爵邸へと戻りご飯を済ませると、私は直ぐに筆を執った。私が頼れる人となれば、ハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまにラウ男爵。
アルバトロス王家も頼れるけれど、陛下方には亜人連合国の方々がお店を開く許可を貰わないと。王家やアルバトロス上層部が亜人連合国の方たちが王都に店を構えたことを知らなかったなんて問題だから、そちらの打診を先に終えるべきだと王家へのお伺いを真っ先に書く。
明日の朝一番にお城に届けて貰って、学院でソフィーアさまとセレスティアさまにも話をして、夕方に公爵さまと辺境伯さまに打診してみよう。二家が駄目ならロザリンデさまも頼ってみようか。
良い不動産さんを用意して頂いて、ダリア姉さんとアイリス姉さんと一緒に内見できれば良いのだけれど。王都の不動産事情がイマイチ分かっていないので、借りるのか買い上げるのか。まあ、お二人の考えがあるだろうから、その辺りは踏み込んじゃ駄目な所かな。アルバトロスの住人でないと借りれない、買えないというなら私の名義でやればいいんだし。
噂が広がれば、国外から買い付けにくる商人さんもいるだろうし、ついでに王都の他のお店にもついでになにか買うかもしれないから、悪い話じゃない……はず。
素人考えだし、アルバトロス王家や上層部に拒否されたら、ダリア姉さんとアイリス姉さんの計画は頓挫することになる。商談会に出席することが許されていたから、王都にお店を構えることを駄目だとは言わないだろうけれど、心配は心配。
「ダリア姉さんとアイリス姉さんの願いが叶うと良いけれど」
『うん。王都の人たち買ってくれるかなあ?』
「珍しさと品質は保証されてるし、あんなに人だかりができていたから、大丈夫だよ」
売れない、ということはないだろう。ただエルフの反物が出回る……出回り過ぎると価値が下がることと、同業の人が困る場合があるから、流通制限を掛けて欲しいとお願いしている。この辺りは気にしておかなければならない事だから、気をつけるに越したことはない。路頭に迷う人が出たとなれば、心が痛むし。
「ん。書けた」
綺麗な文字とは言い難いけれど。手紙の封をする為に蝋を垂らして、子爵家の紋章が彫られた判子を押すと封蝋が完成した。固まるまで触らないようにと気をつけながら、丁寧に机の上へ乗せてベッドの中に潜り込む。
「おやすみ、クロ。ロゼさんとヴァナルもおやすみ」
『おやすみ、ナイ』
『マスター、おやすみ』
『オヤスミ』
疲れていたのか、ベッドの中に入ると睡魔が私を襲い、直ぐに意識が落ちるのだった。
翌朝。ふあーと欠伸をしながらベッドから抜け出る。侍女さんたちに手伝ってもらいながら着替えをして、昨夜書いた手紙をお城に届けて貰うようにお願いした。ご飯を済ませて学院に赴く。
今日はメンガーさまとフィーネさまによって、お醤油さんとお味噌さんの作り方や材料を纏めたレポートが提出される日だった。学院が終わった放課後のサロンの一室を借りて、これからどう動くかの打ち合わせだ。
ミナーヴァ子爵家のお金が動くことになるから、ソフィーアさまとセレスティアさまが側に控えてくれるし、護衛としてジークとリンも一緒だ。肩の上に乗っているクロも、影の中にいるロゼさんとヴァナルも共に居る。
フィーネさまは聖王国から派遣されている護衛騎士も一緒。メンガーさまは単身でサロンに来る予定となっている。同じクラスだしサロンまで一緒に赴ければいいのだけれど、フィーネさまの連れであるイクスプロードさまの機嫌が急降下するから。
フィーネさまは彼女を宥めすかしてから、サロンに足を向けている。イクスプロードさまも一緒に来られると良いのだけれど、『前世』『乙女ゲーム』なんて言葉が飛び交うから。フィーネさまは聖王国上層部には、自身が生まれ変わって別世界で生きていた記憶を持っていると伝えているが、イクスプロードさまには教えていないのだとか。
伝えても良いけれど、機会を逃して今日まで日が過ぎたのだとか。メンガーさまも私たち以外には誰にも話していないそうで、ご家族にも打ち明けていないそうだ。伝えたら当主にされそうだし、面倒なことは回避したいんだって。確かに貴族家の当主を務めるのは大変だろう。
私のように新設された家なら自由がまだ利くけれど、歴史ある伯爵家だから寄り親寄り子の関係が凄く複雑で、どこかの家を贔屓すると顰蹙を買ったりする。頼られることもあるし、問題を投げつけられることもある上に寄り子の面倒も見なくちゃならない。メンガーさまが負のオーラを背負いながら語ってくれた、メンガー伯爵家の実態であった。
「遅くなりました。ミナーヴァ子爵」
「お待たせしました、ナイさま」
先にサロンにやってきていた私に、遅れてサロンに辿り着いたメンガーさまとフィーネさまが少し急いだ様子で中へと足を踏み入れた。
「いえ、私も今きたところですから。今日はよろしくお願いします」
各々が席に着くと、学院が用意している侍女さんがお茶を出してくれた。お茶請け用にお菓子も用意して貰っている。
「俺が纏めたものです」
「私が纏めたものがこちらになります」
メンガーさまとフィーネさまがノートを机の上に出した。割と分厚いものとなっているから、丁寧に纏めてくれたようだ。
「目を通させて頂いても?」
どうぞ、とお二人から告げられ、ペラペラと項を捲る。やはり確りとした知識があるようで、かなり丁寧に纏められてある。
レポートとか論文とか書いていたのだろうか。分かりやすいし、字が綺麗で羨ましい限り。メンガーさまは男性らしく、少しばかり乱雑だけれど。お醤油さんに必要なものは、大豆、麦、塩に麹菌。お味噌は素材が数種類あるようで、麦味噌、豆味噌と違いがあるみたい。味噌って商品名が表示されていて、値段が安ければ何でもいいやとスーパーで買っていたツケがここできたようだ。
後からでもいいから大学通っておけばよかったか。学費を捻出できなかったし、奨学金も返済が必要なものになると大変だったから、早々に諦めて就職先を探したから。お陰で、ブラック企業に当たって体を壊し、優良企業に途中入社できたけど。
「一番大変なのは麹菌みたいですね」
「ええ。菌を見つけることと、保管することが最大の障害になるかと」
「魔術具で温度管理はどうにかなりますが、メンガーさまが仰った通り麹菌の発見が難しいでしょうね」
麹菌は高温多湿の場所に置いていたものに菌が育ったそうだから、ディアンさまにお願いして島に少しの間置かせてもらおうかな。
菌が居付かなければ諦めるしかない。降ってわいた菌も麹菌か分からないしなあ。うーん、難しい。でもせっかくこうして纏めて貰ったのだ。挑戦しない手はない。最悪、妖精さんたちに頼れば麹菌を見つけてくれそうだし。
「えっと。麹菌の発見の為に、例の島で様子を見てみようかと」
取り敢えず、目の前でやるべきことを進めるべきだ。あと二兎追う者は一兎も得ずなんて言葉があるから、まずはお醤油さんから取り組もう。
「確かに島は高温多湿でしたね」
「あとは菌が着床するまでが勝負でしょうか」
ふむ、と考えているメンガーさまとフィーネさま。お互いのノートに書かれていたことの相違点の洗い出しや、疑問を出し合って話を纏めていく。私は知識が乏しいので、お金を出すだけのスポンサーだ。私の道楽に巻き込んで申し訳ないけれど、出来上がったらお二人にもお裾分けしないと。
やっぱり日本人ならばお醤油さんやお味噌さんは懐かしいだろうし。もし嫌いならば子爵邸か領で採れた物を贈ろう。お金でも良いけれど、お二人は受け取ってくれなさそうだし。
「では、本日は解散しましょう。お集まり頂き、ありがとうございました」
めぼしい所まで話を終えると解散を告げる。私が頭を下げると、お二人は慌てて頭を上げろという。何故と目を細めると、アガレスで助けて貰った礼もあるから気にするなって。
気にするなといわれても、感謝の気持ちは伝えるべきだし、今回の件は長丁場になりそうだから、お二人の時間を頂いている訳である。これを言い始めると終わらないだろうなと考えて、適当に誤魔化して解散となったのだ。何かお礼を考えておかないとなあと、サロンを後にするお二人の背を見送る。
「ナイ、どこで誰が聞いているか分からん。十分に気を付けろ」
「ならば学院ではなく、子爵邸で行った方が良いのかもしれませんわね」
後ろで控えていたソフィーアさまとセレスティアさまが、助言をくれた。お醤油さんとお味噌さんはこの世界にはないものだから、聞き耳を立てられている可能性もあるし、万が一聞かれて先に売り出された場合には私たちの苦労が無駄に終わる。
この世界の方たちの口に合わないかもしれないし、悪い噂は立てられないように対策を打っておけとのこと。
「次から子爵邸で打ち合わせができるように、メンガーさまとフィーネさまに提案してみますね」
ならば学院よりも自分のテリトリーで話し合いをした方が良いかと、次の打ち合わせは子爵邸だなあと頭に刻んでおくのだった。
担当さまからキャラシートが届いたので、キャラの外見を決める時期となりました。仕事が休みの日は4回更新を目指していたのですが、11/13日くらいまで二回更新に落とさせてくださいませ。┏○))ペコ