0547:ダリア姉さんの計画って。
2022.10.31投稿 1/2回目
お城のホールで催されていた立食会と銘打った商談会が終わった。
会場から出て行く人たちは、ホクホク顔で足取り軽く帰っていく人に、難しい顔を浮かべながら帰っていく人たちに分かれていて明暗が分かりやすいというかなんというか。私はアガレス帝国から、西大陸では珍しくて入手困難なお野菜をいくつか仕入れるようにした。といってもアルバトロスとアガレス帝国とは距離がある為、日持ちする物しか買い付けできない。
できないけれど、仕入れ品の中にさつまいもさんが手に入ったので私は上機嫌である。アルバトロスの人たちにとっては珍しい、というか食したことがない物なので訝しんでいたけれど、蒸かしたさつまいもさんを試食すると、お芋さん自体の甘みに驚いたようで。
焼き芋さん、スイートポテトさん、大学芋さん……他にもいろいろ使い道があるだろうし、届くのが楽しみ。お砂糖が高いけれど、お金を出せば手に入れられるから。託児所の子供たちのおやつにも丁度良いかなあと考えつつ、輸送費が随分と高くつくからどうしたものか。
孤児院にもお裾分けしたいけれど、高価な品を使用したものをホイホイ送るのは憚られる。それらを解決するには、買ったさつまいもさんをいくつかを種芋にして育てても良いけれど、許可なく勝手に育てるのも問題があるような。こういうのってウーノさまや商人さんに許可を取れば良いのかなあ。法律の整備もないから勝手に植えても怒られないが、良心が痛むというかなんというか。バランス感覚が難しいよねと首を捻りながら、ホールから出ようとしたその時。
「ふふふ、カモ……じゃないわね、取引先が沢山増えてお姉さん嬉しいわ」
「ね。でも外貨を得ても使わないよね、私たちって~?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんと合流した。お二人はご機嫌だけれど、後ろにいるディアンさまとベリルさまが煤けているような気がする。
あの人だかりの中で何があったのか分からないけれど、お姉さんズがはっちゃけたのかなあ。で、ストッパー役のディアンさまとベリルさまは大変な思いをしていたと。想像が安易にできてしまうので、あながち間違いではないのだろう。
「少しやりたいことがあるから、稼げるときに稼いでおくわ。ドワーフの職人連中も説得しなきゃ!」
どうやらドワーフの職人さんたちもダリア姉さんの壮大な計画に巻き込まれるらしい。エルフの反物を放出すれば市場価値は自然と下がるから、ドワーフの職人さんたちを巻き込みたいのだとか。
大陸各国のお貴族さまに反物が気に入られれば、ブランド品として値段の維持はそう難しいものじゃないはずだけど。ブランド品って意味があまり通じないから、説明するのも難しいかな。あとは一気に放出し過ぎないことが要になるけど、ダリア姉さんならその辺りのことは理解してるだろう。
「……まだ稼ぐ気なのか?」
「もうよろしいのでは?」
またふふふと笑うダリア姉さんに、呆れ顔のディアンさまとベリルさまが彼女に問いかける。ディアンさまとベリルさまから見ると、今回の商談ではそれなりに稼げたような台詞だ。逆にダリア姉さんは、まだまだ稼ぐ気満々。
「武力で脅すよりはいいでしょう? 契約を結んで約束するのだし、何も問題はないわ」
亜人の方々は人間よりも強いから、一対十でも勝てないだろうなあ。余裕でいなすだろうし、細身で筋肉がついていないエルフさんたちだけど、魔力が多いので身体強化をしているだろうし。人間が喧嘩を売ってはならないのだけれど、昔の人はよく迫害していたなあ。まあ、怖さ故に孤立させて追いやったのだろうけど。
で、亜人連合国という集団が出来て手出し無用となった。彼らが外に出なかったのは、過去の苦い思い出故だろうか。長い時間を生きる方たちが多いから、人間よりも迫害されていた記憶は鮮明に残っている可能性がある。
竜の皆さまが出張れば、武力攻撃に移る前に戦意喪失で折れそうだ。確かに武力で脅すより、お金でどうにかするのが平和だけれど……。
本当、ダリア姉さんは何を画策しているのやら。契約を交わすということは相手がいるということ。ダリア姉さんの甘言に乗って、痛い目を見なきゃいいけれど。
聞いたら聞いたで巻き込まれそうなので、知らないフリをしておこう。見ざる、言わざる、聞かざる……とても素敵なことわざ――格言だっけ?――だと思う。悪魔の契約になりませんようにと願うばかりだ。
「あまり無理をするな。加減を間違えるんじゃないぞ」
「ええ。貴女は知恵があり切れ者で、それ故に周囲が付いていけない時がありますから」
ディアンさまとベリルさまが妙な顔でダリアねえさんを諭している。
「大丈夫。国に迷惑は掛けないはずだから」
ダリア姉さんは片目を瞑って茶目っ気をだしているけれど、『迷惑はかけない』ではなく『かけないハズだから』と安牌を取っているからなあ。亜人連合国が被害を受けることはないだろうが、相手はどうなるのか。
「島も順調に竜が移住しているし、東大陸にも許可を貰うのでしょう? なら、いろいろと準備を進めなきゃ」
東と西大陸を挟む大海の真ん中辺りに浮いている島は、竜の方々の実効支配が始まっているから、事後報告のようなものだけれど。西の国々には確認をすでに終えており、どの国も島の存在は知らなかったとのこと。まあ、西と東大陸の交流は途絶えていたから、知らなくても仕方ない。
大きなガレー船が存在するけれど、人力で大海を渡るのは難しく近海が精々だ。要するに西大陸沿岸部に沿って海路がある程度。唯一、東の共和国が時間を掛けて西大陸へと自力で渡れるくらいのようだし。それでも命を懸けてという状態だから、難しい部類に入るのだろう。
「ダリア姉さん」
ダリア姉さんの思惑がどんなものかは分からない。べリルさまがダリア姉さんに対する評価が、賢く切れ者と言っていたので心配はいらないだろうけど。ストッパー役であるディアンさまとベリルさまがタジタジのようだし、なんだか不安。四人の会話が一通り終わったタイミングを見計らって声を掛けた。
「どうしたの、ナイちゃん」
ん、とダリア姉さんが顔を向けて私を見下ろした。
「あまり無理はしないでくださいね」
ダリア姉さんや亜人連合国に被害はなさそうだけれど、目を付けられた国が涙目になりそうだし。
「……うっ。わ、分かったわ。お姉さん、なるべく迷惑はかけないように動くから」
ぐっと拳を握り、反対側の手を顔に当てながらダリア姉さんが頷いてくれた。アイリス姉さんはともかく、ディアンさまとベリルさまが心配そうな顔をしているので大丈夫かな。
まあ、痛い目を見るのがアルバトロスじゃなければ良いかな。あとは犠牲者が出ないなら問題ないかも。ダリア姉さんの画策に振り回される人や国が出るかもしれないが、その時はその時だし。
なんにしたって、さつまいもさんの入荷が楽しみだと、子爵邸に戻る準備をし始めるのだった。