0543:【後】アルバトロスとアガレス。
2022.10.30投稿 1/4回目
ガッチガチじゃん。大丈夫だろうか……。
アガレス帝国が引き起こした拉致事件の責任を取って頂くために協議の場に入った訳なんだけれど、メンガー伯爵さまが可哀そうなくらいガッチガチである。息子であるメンガーさまは緊張しつつも周りは見えているようなので、こういう経験が前世であったのかも。
アルバトロスの陛下にアガレス皇帝――お飾りというか置物だけど――にアガレス帝国上層部がいらっしゃるものなあ。聖王国も大聖女さまであるフィーネさまと政治面のお偉いさんが顔を揃えているし、亜人連合国の方々もいる。
メンガーさまが『親父は俺と同じで平凡枠だから』とぼやいていたけれど、自国どころか他国のお偉いさんまで揃っている状況。生粋のお貴族さま思考であろう伯爵さまなのだから、青い顔をしている彼の緊張は仕方ないのかもしれないが。
「では、始めよう」
アルバトロス王の言葉で協議が始まった。陛下の隣に立っている宰相さまが進行役だ。んで、今回の席で帝国から賠償をぶん取らなければならないメンガー伯爵親子。
公爵さまはアガレスへ直接足を運んだから、事の顛末を知っているので同席しているし、私はオマケ。アガレス皇帝と同じ置物である。でも、席順が公爵さまの隣なので、不満であります。口をはさむ気はないし、黙って聞いているだけだから端っこで良かったのに。
陛下の対面にはアガレス皇帝、左隣にウーノさま、右隣にアガレス宰相閣下。で、彼ら彼女の横にはアガレス帝国のお偉いさんたちに、後ろには護衛役の帝国兵。亜人連合国の皆さまは、アルバトロス側の左に、聖王国は右側。当たり前だけれど、対立図式となっていて面白い……といったら怒られるだろうか。
「まず、確認だ。ミナーヴァ子爵に対しての賠償はアガレス帝国で決着が付いていると聞くが、それで合っているか?」
陛下が私を見て問いかけた。アガレス側にも聞いてくださいと言いたくなるが、今回はアガレスが引き起こした不祥事となるので、口出し無用ということなのだろう。
「はい。ハイゼンベルク公爵閣下がアガレスの地で交渉を行って下さいました。わたくし個人としての賠償は、帝国から受け取る手筈となっております。あとは私が不在となったことでアルバトロスが被った損害をアルバトロス王国が請求すべきかと」
ということで個人の問題は解決済み。あとはアルバトロスが被った被害を請求すればいいし、メンガーさまも個人として失った時間やお金を請求すれば良い。聖王国のフィーネさまも同様である。まあフィーネさまの方が立場や個人の価値が上となるだろうから、明確な差があるのだろう。
「承知した。まずミナーヴァ子爵が不在となったことで我々アルバトロスが被ったことから話し合おう」
陛下が私から視線を外してアガレス皇帝へと顔を向けると、陛下の視線を受けた皇帝は隣に座るウーノさまを見て大きく頷いた。
マジで人任せなのだなあと目を細めるが、ウーノさまの方が話が早いだろうから有難いと考えよう。アガレス皇帝が政治に向いていないとか、早く退位すれば良いのにとか、他国の問題だから考えちゃ駄目。
「承った。話の折衝はウーノに頼む。宜しいか?」
アガレス皇帝はウーノさまに丸投げしちゃった。公式の場でアガレス皇帝が行うべきことを、第一皇女殿下であるウーノさまに任せたということは、次代も頼むということで良いのかな。
「彼女の言葉はアガレスとしての発言と受け取っても?」
陛下が皇帝に確認を取っている。言葉はカッコいいけれど、内容が低レベルな気がしてならない。
「左様である。ウーノ」
「はい、皇帝陛下。お初にお目に掛かります、アガレス帝国第一皇女ウーノと申します」
ウーノさまが皇帝の言葉を受け取って、ゆっくりと優雅に立ち上がり、アルバトロスの面々や亜人連合国と聖王国の面々を見据えながら言葉を放つ。やっぱり雰囲気変わったよね。一本の筋が通ったというかなんというか。
アガレス皇帝の行動を咎める人もいないし、宰相閣下も止める様子はないのでアガレス帝国的には問題ないのだろう。アルバトロスの面々は、アガレス皇帝は無能の女好きという事実は知っているし、無能でありながら無能を利用してハーレムを維持する為に周囲を頼って玉座に就いていることも。
ウーノさまは今回の件を謝罪すると、しずしずと腰を下ろした。アルバトロスも帝国、亜人連合国も聖王国も無駄話をする気はないらしく、協議が静かに開幕したのだった。先ずはアルバトロスの言い分から始まり、私やメンガー伯爵子息とヒロインちゃんが居なくなり被った被害や問題を告げる。そしてあらかじめ見積もった被害額をアガレス帝国側に突き付ける。
予想よりも大きい金額だったのか、帝国側が驚いた顔をするがウーノさまは黙って受け取った。でも、条件付き。額が額なので分割払いにして欲しいらしい。物で代用できるなら、品物で換金して欲しいとも。そういえば日本は戦後賠償で軍艦を他国へ受け渡していたから、お金ではなく物品で補償することも可能なのだろう。政治的やり取りに慣れている人が選出されているからか、話はすぐ終わってしまった。
「次は聖王国の番だな」
陛下はアガレスとの話が纏まると、聖王国側へ顔を向ける。
「感謝いたします、アルバトロス王」
フィーネさまは陛下へ向けて頭を下げ、左隣に座っていた方へと視線を移す。それを受けて隣に座っていた男性が立ち上がり、口上を述べた。
「大聖女さまは聖女であり、政治の面ではまだまだ未熟。わたくしが代理を務めさせて頂きます」
フィーネさまは聖女であって、政治屋さんではないから仕方ない。アガレス皇帝は問題外だと思う。聖王国もアルバトロスと同じ内容だ。フィーネさまが居なくなったことで被った被害とフィーネさま個人への賠償。
あとフィーネさまから聞いた通り宣教師を派遣したいようで、彼らを受け入れてくれるなら国としての賠償を安くするって。賠償が安くなると聞いて、アガレスの政治を司っている人たちの顔に安堵が浮かぶ。彼らはウーノさまに詰め寄って、受け入れるべきだと耳打ちしていた。
それを知ったフィーネさまが顔色を悪くしているが、宣教師の人たちってそんなにヤバい人たちなのだろうか。
私の知る宣教師のイメージは、洗脳者である。文化が熟成していない国に派遣して、新しい考えを広めて洗脳している人。もしくは破滅の使者というか。宣教師を先に送り込んで洗脳して、植民地支配受けているのだから良いイメージは全くない。
てことは、聖王国の宣教師もソレに準ずる方たちなのだろうか。でも聖王国は武力を持ち合わせていないので、他国や未開の地を植民地支配することが可能かと問われれば否だ。新しい教会を立てて、就職先の確保が精々だろう。それにアガレスや東大陸では黒髪黒目信仰がある。聖王国の神の教えが根付くには時間が掛かりそうだけれど。
結局、補償金が安くなるということで聖王国の宣教師が受け入れられた。ちょっと心配ではあるが、受け入れたのはアガレス帝国だから、問題があった時の責任はアガレス帝国が取るもの。フィーネさまはあわあわしているが諦めて欲しい。私は話を聞いているだけの置物だから、何もできないので。
「次はメンガー伯爵か。伯爵、任せてよいな?」
「は、はいぃ!」
陛下に名前を呼ばれたメンガー伯爵さまは、びくりと肩を揺らして返事をしたのだった。大丈夫かなあと、伯爵さまの横に座るメンガーさまは目を線にして座しているだけだった。
熱から復活です!