0054:処分決定前。
2022.03.22投稿 1/2回目
ヒロインちゃんが魔眼持ちと発覚してから、一週間。どうやら殿下と側近くんたちとヒロインちゃんの処分が決まった。
それまでにはちょっとしたこともあって、ヒロインちゃんが隔離されている牢屋へとまた来るようにと公爵さま経由で命令がきた。
なんでまた招喚されるのだろうと疑問に感じつつ、割と厳重な護衛の騎士たちとジークとリンで塔の前に足を運んだ時だった。
「またお会いしましたね、聖女さま。――再会できて嬉しいですよ」
足音を立てながら他の護衛の騎士とともに魔術師団副団長さまが現れて、銀髪を風に揺らしながらこちらへとやって来た。
「副団長さま……――お久しぶり、というにはまだ早いかも知れませんが、魔獣討伐の際は本当にお世話になりました」
「いえいえ。こちらこそ、あのように遠慮せず魔術を使ったのは久方ぶりでしたから」
左様ですか、と無言のままで会話を流すと、まだ終わっていないのかこの場を離れない副団長さまはじっと私を見つめる。
「――どうしました?」
「いえ、何故そんなに私を凝視しているのかな、と」
「それについては、後ほどご理解いただけることでしょう。――さあ、参りましょうか」
「ちょ!」
ふふっと笑って私の背をやんわりと押す副団長さま。身長差があるので歩幅の差が明確にでる。副団長さまの一歩が私の約三歩くらいなので、私だけ早足になっているんだけれど。周りの人は普通に歩いてついて来てるし……畜生。ってその前に言わなきゃならないことがある。
「待ってくださいっ!」
「おや、如何しましたか?」
私の言葉に立ち止まる副団長さまが不思議そうな顔をして私を見る。
「彼女の下へと行くのならば、ジークとリンを護衛から外してください」
ふむと考える仕草を見せる彼よりも先に反応する人が居た。
「おいっ!」
「駄目だよ、ナイ」
「でもまた何か影響が出るかもしれないから、二人はここで待ってて」
私の護衛としてついてきているのだから、二人の反対は理解している。
「――お二人の事が心配なのですね」
「ええ。彼女の魔眼のこともありますが、それ以前に二人に関わらせたくありませんので」
魔眼の影響というよりも不快な発言をしまくるヒロインちゃんと会わせたくないというのが、正直な気持ちである。
「と、聖女さまは仰っていますが、お二人はどうしますか?」
見下ろしていた私から視線を外してジークとリンの方へと向く副団長さまに、二人がばっと敬礼のポーズをとった。
「俺たちは聖女さまの護衛騎士です。なにがあろうとも側にいます」
「兄さんと同じです」
「だそうですよ、聖女さま。――許してあげればいいではないですか。それに貴女が心配しているようなことにはなりませんし、彼らならば何を言われても受け流しそうですけれどねえ」
副団長さまの言葉にこくりと頷いたジークとリン。ここで問答しても仕方ないかと諦める。あと副団長さまには私の心配を打ち消すような確信があるみたいだし。
そうしてまた一行は進み始め前に護衛の騎士二人、そして副団長さまと私が、少し離れてジークとリンがついて来て、更にその後ろにも護衛の騎士が二名。塔の外にも護衛が待機しているので、王城の中でここまで厳重なのは初めてのような気がする。
「……だあれ?」
入口の扉を開いて直ぐに、ヒロインちゃんの声が聞こえる。顔は知っているはずだというのに、なぜ疑問を呈したのかは直ぐに理解できた。
「目隠し……」
「ええ。単純ですが一番効果がありますから。まあ術者……彼女には酷な処置かもしれませんがねえ」
ヒロインちゃんは『ハインツさまぁ!』と副団長さまの名前を連呼しているのだけれど、彼はガン無視を決め込んでいた。
何かあったのかなと勘ぐってみるけれど、そういえば彼女の魔眼について調べると言っていたから、その時にでも名乗ったのだろう。私は彼女に用はないので、無視を決め込む。
「というか私が居る意味あります?」
「ありますよ。――聖女さまは尋常ではない魔力量をお持ちのお方。無意識下で常に外へと魔力が放出されているので、魔眼の呪いにある程度は対抗できているのです。そしてその恩恵は周囲の者にも効果があります」
「それ、不味いのでは……」
周囲に何かしらの悪影響を及ぼしそうなのだけれど。感情がフラットな時は良いけれど、ヒロインちゃんの胸倉を掴んだ時のように、金属が音を鳴らしてなにかしらの影響が出ていたし。
「ああ、心配はいりません。聖女さまは魔力操作が下手糞ですから、周囲に悪影響を及ぼすほどの力がないのですよ」
「…………」
にっこりと微笑みながら遠慮のないドストレートな酷い言われように、無言になってしまう私。
「ふふ、それに関しては追々きちんと魔術のお勉強をしましょうね。――で、これを見てくださいますか?」
懐から小さな箱を取り出す副団長さまが、手のひらに乗せて反対の手で小箱を開く。
「魔術具ですね」
指輪型の魔術具だった。見た目はただのシルバーリングだけれど、刻んだ術式で効果は千差万別なので見た目では判断がつかない。
「ええ、魔術具です。僕が作りました。――そしてこちらも」
もう一度懐に手を入れてまた小箱を取り出す。
「見た目は同じですが……」
どちらもただのシルバーリング。魔術具の見た目を凝る人はゴテゴテのものを好んで作るそうだけれど、副団長さまはシンプル志向のご様子。火力と魔術馬鹿の副団長さまだから派手なものを好みそうなので、これは意外だった。
「ええ。見た目は同じですが、効果は少々違います」
「?」
「貴女用とそこに居る人用ですね」
「はあ」
「反応が薄いですねえ。ハイゼンベルグ公爵からの魔力を抑える魔道具を作って欲しいと依頼がきましてね。普段は個別依頼は受けないのですが、内容を読むと貴女が使うものだと直ぐに理解し了承しました」
そこは気付かずに断って欲しかったなあ。副団長さま、察しが良いのはどうなのだろう。
「術式自体は簡単なものなのでそれほど手は掛かりません。直ぐにできたのでお届けに参ろうとしたのですが、王家から勅命がありまして……」
少し間をおいてヒロインちゃんを見る副団長さまの目が細くなる。
「魔眼持ちを見つけたというではありませんか。そして魔眼の効果を抑える道具を作れという命令も同時に僕に下ったのです」
両手を広げて嬉しそうに語る彼はまだ言葉を続けていた。
「いやあ、魔眼持ちが現れるなんて奇跡ですよ。あとであの人の一族全て調べ上げませんと。貴重な魔眼持ちがまだいる可能性もありますからねえ!」
「はあ。――でもそれとこれとに私に関係があるようには……」
「聖女さまをここへと呼んだのは、僕たちの盾役になって欲しかっただけです。そこの人は無意識下で効力を発揮しているようですから対抗手段を立てにくい。そこで魔力を無駄に駄々洩れさせている聖女さまの出番という訳です」
「……」
魔術具が壊れ自分の多すぎる魔力量の制御がなっていないから、ヒロインちゃんの魔眼の威力を下げているだなんて思ってもみなかった。
「あ、もちろん公爵さまや教会の許可は取っていますからね。このことを後で知られると怖いですし、敵には回したくありませんから。――まあ無意識下で良かったですよ。指向性を持つと狙い撃ちや威力の調整もできてしまうでしょうから」
ああ、貴女が居てくれてよかったと嬉しそうに笑う副団長さまが、片方の魔術具を手に取る。
「――さて、魔眼の効果を下げられるか実験してみましょうか」
その言葉に騎士の一人が鍵束を取り出して牢の鍵穴へと刺すと、錆びた鉄の音が部屋に鳴り響くのだった。