0529:副団長さまの特別講義。
2022.10.23投稿 4/4回目
ドワーフ職人さんが作った物やエルフの皆さまが織った反物が、貴重だとソフィーアさまとセレスティアさまから教えられた。子爵邸で働く方たちからも口を酸っぱくして教えられる羽目になった。
ドワーフさんに料理長さんたち用に包丁製作頼んじゃったし、陛下にも日頃お世話になっている……迷惑を掛けているので、豪華な素材を使って長剣を鍛えてくださいとお願いしているし、装飾も豪華にお願いしますと伝えてある。
宝石類はそれなりにして頂いて彫り物の方に気合を注ぎ込んで貰えば、他国の王さまと差別化できるかななんて考えて、ノリノリでドワーフさんたちと話していたのだ。で、陛下に贈るならば王妃さまに贈らない訳にはいけないので、リームの方たちと同じようにエルフの反物を買い付ける予定だ。リームに贈ったものより、ちょっとだけ質を上げるつもり。
王太子殿下の就任式用の贈り物と建国記念の催しの際に理由を付けて渡す。製作はもう依頼しているし、後戻りできないから。喜んでくれればいいなあ。
リーム王国の戴冠式から戻って数日後。学院へとまた通う。リームから留学の為にアルバトロスへ戻ったギド殿下が、私に対して凄く気を使っている。
ソフィーアさまとセレスティアさまが言っていたのはこういう事か。納期が短くて竜の素材ではなく鉄製のものを素材としたから申し訳ないと考えていたのに。
まさかドワーフさんが鍛えたもの自体が貴重だったなんて。そういえば公爵さまも普通に受け取ってくれたし、普通に日常使いしてくれているのだけど。アガレス帝国でノリノリで賠償を毟り取っていたから、公爵さまをアルバトロスの陛下やリーム王族の皆さまと同列に並べちゃいけないのかな。
ドワーフの職人さんたちが鍛えた物が貴重だというならば、珍しくないものにすれば価値は下がるから、出回るように根回しできないかな。
腕のある方が燻っているのは勿体ないし、ディアンさまが外貨獲得できると以前に言っていたので、大陸へ売り込む気があるようだし。血の気の多い国に武器が出回ってしまうと、ひとつ心配しなきゃならないことがあるから、それだけには気を配らなければ。
「おはようございます。本日の特別講師を務める、ヴァレンシュタインです」
今日の一限目の講義は副団長さまによる魔術講座だった。二年生になっても副団長様による特別講義が時折開催されるみたい。
ロゼさんが私の影の中で『ハインツだ!』と騒いでいるけれど、授業中だから外には出てこない。ロゼさんと副団長さまは仲良しだからすぐ飛び出てきてもおかしくはないのだけれど、ロゼさんも我慢できるように成長できたようで嬉しい限り。
副団長さまは魔術師として名を馳せているので、魔術を扱える人たちからの視線が熱い。魔力を外に放出できない人にも、授業を受ける意味を見出せるように内容を考えている。
「本日は魔導書を使って、魔術を発動させてみましょう」
副団長さまの発言に教室がざわめく。魔導書って凄く珍しいものと聞いているし、術者の相性とかあるから簡単に扱えるものではないと聞いている。子爵邸で見つかった魔導書は禁書レベルだそうだ。死者蘇生の方法が記されている為に一発認定だった。一応、浄化魔術を施したから、危険度は下がったらしいけど。
「ああ、そう驚かないでください。魔導書といっても価値が低い物ですし、貴族である皆さまが本気を出せば手に入る代物を使用します」
禁書や有名なものは危ないので使いませんと副団長さま。そのタイミングで私を見るのは止めてください。貴方の場合は使わないんじゃなくって、使っている所を見たいといって騒ぐタイプじゃないですか。
学院だから立場がある為にはっちゃけていないけれど、子爵邸でならば迷惑が掛からない所に向かって魔導書を使ってみましょうと提案していただろうなあ。副団長さまの興味は魔導書の中身だったから、今の所使ってみましょうとは言われていない。そう遠くない未来で絶対に言われそうな台詞である。
副団長さまが小脇に抱えていた数冊の本を教壇の上に置いた。見るからに古そうで、いかがわしそうな趣きである。魔導書と知ってしまったから余計にそう感じるのかもしれないけれど。
「さて、魔術科の訓練場を借りる手配をしていますから、場所を移動しましょう」
魔術を使える人は魔導書を使って術を発動させ、出来ない人は魔導書に書かれている体内の魔力生成効率を上げる術を、補助を受けつつ使ってみるらしい。
術者の魔力を奪って自動発動できる魔導書も用意しているから、使えない人も申し出すれば副団長さまの手ほどきを受けて魔術を使うことができるんだって。特進科二年生が教室から出て移動を始める。授業中ということで、授業を受け持っていない教諭が学院内を時々歩いている姿を見るくらい。
「最初に魔導書を使いたい方は挙手をお願いします」
訓練場に辿り着いて、開口一番に副団長さまが声を上げると、聖王国の聖女さまであるイクスプロードさまが静かに手を上げた。彼女の隣に静かに立っていたフィーネさまがぎょっとした顔になった。特進科のお貴族さま意識が高い方たちがざわめく。聖王国からアルバトロスに留学している身だというのに、出しゃばるような態度が気に入らなかったようで。
乙女ゲームの主人公と聞いているし実力は高いだろうから、聖王国の聖女として彼らの鼻っ柱をへし折って欲しいな。ざわついた人たちが嫌いなのではなく、一緒の学び舎で学んでいるのだから、そういう強い気持ちは隠しておくべきものだから。
聖王国の『聖女』さまを務めるイクスプロードさまではなく、聖王国の『大聖女』さまを務めているフィーネさまが手を上げていれば、ざわつくことはなかっただろう。
本当に選民意識が強いし、階級社会の中で生きている方たちなのだなあ。
イクスプロードさまの行動を黙って見守っているのは、ソフィーアさまとセレスティアさま、ギド殿下とマルクスさまにメンガーさまだった。高位貴族故の余裕かなあ。私も見習わなければと、イクスプロードさまの行動を黙って見守る。
「貴方は確か……聖王国で聖女さまを務めていらっしゃいましたね。聖王国の聖女さまの実力、期待しておりますよ」
「はい! よろしくお願いいたします!」
副団長さまの挑発染みた言葉を意に介さず、元気よく返事を返したイクスプロードさま。フィーネさまが横で凄く心配そうな顔を浮かべて、胃のあたりを抑えている。
流石に授業だから問題は起こらないように配慮されているはずだ。あとは副団長さまのテンションが妙な方向に走らなければ、無事に乗り越えるはず。
副団長さまがイクスプロードさまに向けて、魔導書の説明を開始した。もちろん彼女だけではなく特進科の方々に向けられた説明でもある。アルバトロス王国最高峰の魔術師による授業なので、一言一句聞き逃すまいとみんな真面目に聞いていた。
今回用意した魔導書は使い手の能力を底上げするものなのだそうだ。魔導書と一纏めにして呼んでいるが、個々によって魔導書の力や能力は様々。使い手の能力を底上げする、バフのような効果が得られるもの。高威力の魔術を少ない魔力で発動できるもの。
変わったものは呪術を網羅して術者に憑りつくものとか、呪いを単体でばら撒いたりとか。著作者の人格も引き継ぐようで、欲に塗れた方が書いたものは欲に塗れた人物を主に選んで悪事を働いたり、善性の強い人が書いた魔導書は善い行いをする人物を好むとか。魔術を永遠に探し求める魔導書もあれば、相応しい主人を見つける為に世界を旅している魔導書もあるんだって。魔導書単体で好き勝手できるものは、魔導書としての位が高いのだとか。
「では始めましょう!」
ちょっとテンションが上がっている副団長さまに釣られて、イクスプロードさまもテンション高めに返事をして魔導書を開いて、術を発動させるのだった。






