0524:リーム王族の皆さまが来た。
2022.10.22投稿 1/2回目
――あれよあれよという間に戴冠式が終わった。
凄く豪華なマントに身に纏ったリームの王太子殿下は王冠を被り渡された王笏を持って、それで終わりというなんともあっさりとしたもの。
そこからは城の城壁に立って、リームの王国民に顔見せするのだとか。夜になると晩餐会があり外交の場と化す。
リーム周辺国のお偉いさんが沢山来ているから、影が薄いと噂の外務卿さまは張り切っていた。
聖樹に頼り切った政治から切り替え、聖樹から脱却した運営を掲げた新たなリーム王。まだまだ先は長いけれど、国の人たちの意識も少しづつ変わって行っているようでなにより。
聖樹が枯れたと大騒ぎになったけれど、なければないで生活しなければならないので踏ん張っているようだ。文句をいうよりも生活の為に手足を動かさなければ、飢えるのはその地に生きている人たちだもんね。
逞しいなあと感心しながら、集まった人たちを上から見下ろしていた。
「あっさり終わったね」
「だな」
「ね」
私たちに用意された来賓室で休憩を取っていた。晩餐会まで時間があるので、興味がある人はリームの王城の庭園を散策しているのだとか。
私は無用な接触は避けようと、借りている部屋に引き籠っておくと伝えてある。リーム王国とアルバトロス王国の方たちしか入室できないので、それ以外の人が訪れると門前払いである。
アリアさまとロザリンデさまは庭園へ出て散策するようだ。私も誘われたけれど、理由を告げると納得してくれた。その代わり、リームのお城の庭園がどんなものか教えて貰うことと、子爵邸の庭師の小父さまの参考になるようにと魔術具をお渡しして、写真に収めて欲しいと頼んでおいた。
庭師の小父さまは、他の庭師の方がどんな仕事をしているのか興味があると以前漏らしていた。アルバトロスのお城やリームのお城で働く庭師さんなら一流だろうし、参考になるかなあと魔術具を持参した訳だけど。私は出歩く訳にはいかないので、ジークかリンにお願いしようとしていたけれど、丁度良かった。ジークとリンは庭に無頓着だから、興味がある人に撮って貰った方が良いだろう。
「ナイ、リーム王がお越しだ」
リームの護衛騎士さんとやり取りを終えたソフィーアさまが私に声を掛けた。
「え?」
なんで、と疑問の声がでてしまった。新リーム王は外交に忙しいはずなのだけれど。アルバトロスの第一王子殿下と外務卿さまも外交してくると張り切っていたのに、そちらを放っておいて大丈夫なのだろうか。
「贈答品の礼を伝えたいそうだ」
用件は聞いていたようだ。私が送ったものはドワーフの職人さんに拵えて貰ったけれど、子爵家の当主が無理のない範囲で贈れる品物。エルフの反物も、極上反物より劣るものなんだけれど……お礼を直接言われるほどのものではない。
でも部屋まで来ちゃったから追い返す訳にもいかず、ソフィーアさまにお通しくださいと伝えて、暫く待っているとリーム王族勢揃いだった。
先頭には新リーム王、左隣には新王妃さま、後ろには第二王子殿下とギド殿下、その横に前王妃さまがいらっしゃった。座っていた椅子から立ち上がって、彼らを出迎える。着替えはまだ済んでいないようで、戴冠式の時の格好のままだった。どうやら急いでこちらへとやって来たらしい。
「聖女殿、国を救って頂いただけでなく、我らへの気遣いまで……深く感謝する」
神妙な顔でリーム王が目で礼を執ると、後ろに控えている面々も小さく頭を下げた。
私はリームを救ってない。むしろ聖樹を枯らした犯人だ。馬鹿みたいな魔力を注ぎ込んだから、聖樹が生きて妖精さんが誕生したけれど、いろいろな偶然が重なって起きた奇跡である。一番は、リームを持ち直させようと奮闘したリーム王を始めとした上層部とリームに生きる人たちの努力なのだから。
聖樹を頼り切ったままの意志ならば、こうしてリームは国として形を成していなかった可能性もあるのだし、私にお礼なんて不要なんだけれど。贈り物も、参加するだけじゃ駄目だから体裁を整えただけなのに。なんだか胃が痛くなってきた。
「陛下、お気になさらず。ドワーフ職人の方々やエルフの皆さまが丹精込めて作ったものです。彼らは日常使いをして欲しいと願っておりました」
剣や布なんて使ってナンボだ。腕のある職人さんが用意してくれたものだから、飾っておくだけじゃあ勿体ない。リーム王に贈ったものは儀礼用だけれど見栄えは凄く良い仕上がりとなっているから、帯剣しておくだけでも恰好がつくはずだ。
まあ、私が用意したものだからそこまで高価じゃないけれど。丁度、ヴァイセンベルク辺境伯さまに、お礼として宝石類を頂いたものを転用したから費用が浮いたし。
ギド殿下は騎士として現場に立つようだから、実戦重視にしてもらった。エルフの反物も質が良いので、喜んでくれるといいな。夜会やお茶会に参加しないので、布の良し悪しでマウント合戦が始まるなんて信じられないけど。
「……あ、ああ。善処しよう」
王族の方々が持っているであろうお宝がどんなものか知らないけれど、宝物庫に入れっぱなしはちょっと悲しい。繰り返しになるけれど、折角贈ったのだから使って欲しいよね。なんだか煤けているリーム王が言いたいことを告げて、部屋から出て行く。パタン、と扉が閉じると外が騒がしくなる。一体なんだろうかと気になるけれど、他国の王城だから勝手に部屋からでるのも問題だ。
ジークとリンに顔を向けると首を傾げ、ソフィーアさまとセレスティアさまに視線を移すと、呆れた顔と鉄扇で口元を隠したお二人。本当になんだろうと疑問に思いながら、時間が過ぎていくのだった。






