0516:【③】催しが続く予定。
2022.10.16投稿 2/2回目
子竜たちに囲まれながら戯れていると、監視小屋が騒がしくなって顔を向けると、辺境伯さまの姿が見えた。領主さま直々にいらっしゃったのだから、監視小屋が騒がしくなるのは仕方ない。大人組の竜の方々は辺境伯さまがいらっしゃったことで、挨拶をするらしく私の後ろに控えている。
「待たせて申し訳ない、ミナーヴァ子爵」
「お久しぶりです、閣下」
少し失礼だけれど、腕の中に子竜を抱えたまま頭を下げた。
「大木が大きくなり、卵がここ数日で一気に孵りましてな。竜の皆さまの話だと、何故か貴女の魔力が流れてきたと申されまして。――原因はあの島ですかな?」
辺境伯さまは、私が島で魔力補填をしたことは知っている。目を細めながら私を見ているけれど、口元が引きつっているような気がしなくもない。
「クロが立ててくれた仮説だと、そうなります。注ぎ込んだ魔力が地中を伝って、私の魔力と縁がある場所を探し当てたのではないかと」
あれ、それだと島が大きくならない可能性があるのかな。繋がったということは、魔力を使うということだし。
むむむ。島が大きくなってくれないのはちょっと困るかなあ。竜の皆さまとダークエルフの方たちが移住計画を立てているのだから。ダリア姉さんとアイリス姉さんに話を通して、長期休暇の時に様子を伺いに行ってみよう。
「なるほど。時間の差は距離の差といったところでしょうな」
うわ。なんの疑いもなく辺境伯さまが信じちゃったんだけれど良いのかな。これアルバトロスにも報告しなきゃなあ。辺境伯さまが国に報告を怠るなんて思えないが、見ちゃったから報告しなくちゃ。辺境伯さまとこれからの事について話し合う。竜の方たちが増え、辺境伯領では抱えきれないらしい。島に移住がベストなのかなあ。まあ竜の皆さまの意志もあるから、強引に話を進める訳にはならないけれど。
むしろ、好きな場所で生きるのが彼らの本来の姿。大空を自由に飛び、好きな場所で好きなように生きるのが普通。ご意見番さまの意志を継いでいる竜の方たちが多い所為か、人間を慮ってくれて我慢しているものなあ。
『確かに我々本来の姿ですが、魔素が濃い場所は貴重です。それだけでも有難いことですよ』
心の内を読んだのか、一匹の成竜さまが大きな顔を私に近づけて教えてくれた。ぺちぺちと顔を撫でると、大きな目を細めながら私を見ている。
「私の個人的なものだけれど、空を自由に飛んでるところも見たいなあ」
住んでいる人たちが驚いて騒ぎになるからと、なるべく控えているらしい。最近、理由があって大陸の空を竜の大群が飛んだけれど、ノーカウントで。
『亜人連合国以外では、竜は珍しいですから。聖女さまのお陰で増えたので、我々に敵意がないと知って頂ければその内に受け入れられましょう』
その証拠に、警備に就いている人たちと仲良くなったと教えてくれた。偶にご家族を連れて見学に来ているのだとか。
「ミナーヴァ子爵。話が逸れますが、こちらを」
辺境伯さまがいつの間にか用意していたようで、ある場所を指差した。そこには金銀財宝と竜の鱗や牙が……なんのこっちゃと首を傾げると辺境伯さまが苦笑いを浮かべた。大規模討伐遠征による個人的なお礼なのだとか。辺境伯さまの後ろ盾を頂いているし、教会にもお金がちゃんと入っているから必要ないのだけれど。
「これでも足りないくらいですが……一先ず形としてお返ししておきます」
「ヴァイセンベルク辺境伯領を救って頂き感謝いたします。更に明るい未来も約束してくださりました。ナイ、受け取ってくださいませ」
辺境伯さまとセレスティアさまに頭を下げられて――もちろん貴族としての立場があるので最低限――こう言われてしまうと断れない。相手は辺境伯さまで、私は子爵だし。金銀財宝以外の竜の牙や鱗は、辺境伯領で生活している竜の皆さまからだそうだ。ぺろんと時々剥がれるので回収して、質の良いモノを選んだのだとか。
「ありがとうございます。ヴァイセンベルク辺境伯領が益々繁栄致しますよう願っております」
聖女としての礼を執りながらそう口にした。辺境伯といえば国境警備を担う重要な場所だから、ヴァイセンベルク辺境伯領が落ちると困る。若干の下心を混ぜながら顔を上げると、クロが私の肩へと戻って辺境伯さまとセレスティアさまを見た。
『ボクもお手伝いできることがあれば、教えてね』
クロはご意見番さまの時に迷惑を掛けたと考えているようだ。セレスティアさまがまん丸に目を見開いて、デレッとした顔を浮かべる。誰も咎めないけれど、良いのかな。まあ私も美味しいものを食べている時は顔が崩れているから、人のことは言えない。しかしまあ、頂いたコレをどうしたものか。子爵邸の金庫に放り込むのは決定として、眠らせるのはもったいないしなあ。
あ、リームの戴冠式とアルバトロスの王太子就任式があるから、プレゼントを用意しなくちゃだった。亜人連合国の職人さんたちに頼んで、両刃の剣か短剣あたりでも拵えてもらおう。王族の方へ渡すものだから、装飾も必要なので丁度いい。
「セレスティアさま。少しお願いがあるのですが」
ふと思い出したことがある。以前、辺境伯領主邸でみた黒い薔薇。その時は言えなかったけれど、今ならお願いしても構わないだろう。とはいえ領主である辺境伯さまに直接言えないチキンっぷりであるが。あ、辺境伯さまが微妙な顔になっている。申し訳ないと思いつつ、セレスティアさまの方が話しかけやすいんだもの仕方ない。
「厚かましいとは思いますが、以前邸でお見かけした黒い薔薇を株分けして欲しいのですが……」
育てるのは庭師の小父さまだけれど。駄目なら家庭菜園の片隅にでも植えよう。
「そのようなことで宜しいのですか?」
きょとんとした顔でセレスティアさまが私を見た。そういえば以前に私が気にしていたと、彼女は思い出してくれたらしい。
「はい」
あと、もう少し注文があるのでお願いをすると快く引き受けてくれた。話を終えて辺境伯領から子爵邸へ戻り、お隣さんに報告する為と鍛冶依頼を出す為に亜人連合国領事館に赴く。ディアンさまにダリア姉さんとアイリス姉さんに話をすると、驚きと呆れ顔を浮かべつつも受け入れてくれて。
鍛冶依頼も定価で受けてくれた。式も近いから特急料金を上乗せすると伝えれば、それは受け取れないとのこと。口をへの字にしていると、お姉さんズから揶揄われ。ありがとうございますと頭を下げて子爵邸へと戻るのだった。






