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0513:【⑤】頑張りどころの大聖女さま。

 アルバトロス王国教会が催している治癒院の見学許可が下りた。


 ナイさまは学院がお休みの日に顔をよく出すと聞いた。念の為、ナイさまに直接の確認と手紙での確認をし許可を頂いている。アリサに妙な感情を向けられているというのに、当の本人はどこ吹く風。アリサとの接点がないので仕方ないのかもしれないが、それにしたって少しくらいは気にしても良いのでは。

 

 「さあ、行きましょうか、アリサ」


 「はい、お姉さま!」


 アルバトロス王城の来賓室。凄く気合が入った返事をするアリサに苦笑いを浮かべる。ナイさまの魔力量は凄く多いから、私たちの出番はこないだろう。とはいえ聖王国の教会が開く治療院にしか参加したことがないので、アルバトロスの治癒院がどんなものなのか興味がある。

 なにか参考になることがあるなら聖王国も採用すればいいし、逆もあるだろうから、その時はアルバトロスの教会に提案書を出せばいい。アリサもなにか得るものがあればいいと願いつつ聖女の格好に着替えた彼女と私は、用意された馬車に乗り込んでアルバトロス王都の教会へと向かうのだった。

 

 「ようこそ、聖王国大聖女さま、聖女さま。私はアルバトロス教会枢機卿を務めております、アウグスト・カルヴァインと申します」


 馬車から降りた私たちを、かなり年若い枢機卿さまが私たちを出迎えてくれた。自己紹介を済ませると、最近枢機卿の座に就きまだまだ勉強中の身なのだとか。

 アルバトロスの王立学院の三年生ながら、二足の草鞋を履いているだなんて。しかも今回開催される治癒院に治癒師として参加されるとのこと。聖王国の治療院では、治癒は聖女の仕事だといって男性が治癒師として場に立つことはない。


 あれ。アリサの事に気を取られていたけれど、目の前の彼はAシリーズ二期のヒーローの一人だ。そうだ、そうだったと記憶が蘇る。ゲームではアリアと教会の不正を暴き、悪事を働いていた教会上層部の人を捕まえるけれど、ナイさまが関わったことによって枢機卿の座に就いたのか。本当にゲームのシナリオが崩れていて笑えてくる。

 

 「まさか聖王国の大聖女さまが我が国の教会へ顔を出してくださるとは、この上もない喜びです。我が国の聖女さまたちと肩を並べれば、皆さん喜ばれます」


 にっこりと笑うカルヴァイン枢機卿。その顔には一点も疑いもないような澄んだ笑みを浮かべている。一度でいいから聖王国の教会へ行ってみたいと、目を輝かせながら私に語る彼の熱量が凄い。ナイさまがお金を取られてキレたことで、枢機卿の座に就いたそうなのだが、その経緯を聞くと冷や汗が流れる。

 あの枢機卿がお金を使い込んだ証拠を掴み、ナイさまを巻き込んで大問題に発展させたようだ。熱く語るカルヴァイン枢機卿の話を聞きつつ、アルバトロスと聖王国にリーム王国、そして聖王国教会から派遣されていた問題児はほぼ一掃されたからいいか。後ろを向いて後悔しても仕方ないのだから。


 とはいえ、聖王国の教会が派遣した枢機卿がアルバトロスでやらかしているというのに、どうしてそんな顔で私たちを迎え入れてくれるのだろうか。彼の後ろにはシスター二人に教会関係者が数名控えていた。彼らもニコニコと笑みを浮かべて、やり取りを眺めている。

 なんだか胃が痛いなあと、目の前に聳え立つアルバトロスの教会――王都の教会で一番大きいそうだ――に足を踏み入れた。聖王国の教会より質素というか、派手さが感じられない。まあ聖王国の教会は観光も担っているから、派手になるのは仕方ないのかもしれないが。


 「…………」


 アリサが私の後ろを黙ってついてくる。教会内にいた神父さまやシスターたちや、職員の方々が頭を丁寧に下げてくれた。私は会釈程度に留め、治癒院が開かれている場所へと案内される。聖王国もアルバトロスも患者さんは変わらず多いようで、人がごった返している。

 聖女さま方はまだいらっしゃっていないようで、間仕切りされ簡易的な個室となっている場所には丸椅子が二席置かれ。片方の席には聖女さまが座るのだろう。聖王国では大聖堂の長椅子にバラバラに座って対応している。他国の方もいらっしゃっているので仕方ないかもしれないが、簡易的な個室の方がいいのかも。

 

 「そろそろ始まりますね。では私も治癒師として参加して参りますので、対応はシスター・ジルとシスター・リズに任せます」


 カルヴァイン枢機卿の後ろに控えていたシスター二人が頭を下げた。綺麗な方たちだが、お一方、シスター・リズは目が不自由なようだ。軽い挨拶を済ませていると、アルバトロスの聖女さまが登場したようで、待っていた方たちからどよめきが起きる。

 奥から聖女たちが現れて最後にナイさまが顔を出した。ナイさまの前にいるのはAシリーズ二期の主人公のアリア。そしてもう一人、第一期と二期にモブとして登場していた高慢ちきなご令嬢のロザリンデ……だったはず。ナイさまの後方にはカルヴァイン枢機卿の姿もあった。

 彼は聖人さまと呼ばれているそうで、民の間でそれなりに顔が広いのだとか。アリアとロザリンデは筆頭聖女候補といわれていたけれど、その座に就くことはないのだろう。ナイさましかいないだろうし、ゲームでは一番座に近いといわれていた一期主人公はアレだったし。

 

 「アルバトロスでは聖女さまと対面される前に、聞き取りが行われます」


 シスター・ジルが説明を始めた。聖王国では一人に時間を掛けると大変なことになるので、患者さんの話は聞かない。表情や怪我の具合をみて聖女が判断して治癒を施すのが普通。アルバトロスは係の人が来院者に聞き取りを行い、症状ごとに聖女さまを振り分けていくのだとか。病気を治したいならば、病気を治すことが得意な聖女へと案内され。怪我を治したいならば、それが得意な聖女に。

 治って残ってしまった傷を消したいという方は、それが得意な聖女へ。治癒魔術と一括りにしているが、効果が微妙に違ったり、使い手によって効果が異なる場合がある。アルバトロスでは寄付として治療代を頂いているので、何度も訪れることが難しい人もいるから無駄はないように心がけているのだとか。それでも治らなければ、指名依頼をだして前回の治癒院で治らなかったと理由を告げると、寄付金を免除されるそうだ。

 

 聖王国では治癒代は無料となっているので、完治するまで通い続けることができる。どちらが良いとは判断を下せない。


 「アルバトロスの聖女さまは仕事としてその座に就いています。無料で施すべきという話もありますが、何度も訪れる方もいらっしゃるだろうと、お気持ちを頂くことになっているのです」


 どうやら迷惑な方を追い出す為の手段でもあるあらしい。確かに聖王国の治療院で、何度も同じ顔を見たことがある。事務的に魔術を掛けているだけだし、訪れた人も礼儀的に聖女からの施しを受けているだけだ。これ、聖王国もお金を取るべきだろうか。タダで受け取ることができるが故に、症状の聞き取りなんておざなりだもんなあ。

 科学的技術が発展していないから仕方ないけれど、ちょっとした医療技術を広めるべきだろう。あとは病気の予防法も。栄養バランスと睡眠と運動を取れば、割と改善される気がする。とはいえ、貧富の差が大きいから貧しい人たちには難しい。施しで配給をやることもあるけれど、それだけじゃあ足りないだろうし。


 聖王国とアルバトロスの違いが浮き出てきた。院にくる患者さんは圧倒的に聖王国の方が多い。おそらく無料で開かれていることと、他国から観光できた人たちも受けられることが大きな理由だろう。

 聖女さまの質は変わらないはずだ。使う魔術に差はないのだから、あとは魔力量が左右されるだけ。馬鹿魔力のナイさまは、何人診ても疲れた様子をみせていないけれど、魔力量に劣る聖女さまは裏手に戻っていた。

 アリアとロザリンデも笑みを浮かべながら患者さんと向き合っているし、ナイさまも同様に数多くの方たちに魔術を施していた。時間が過ぎると、扉が閉められ新たな来場は不可能となった。そして暫く最後の患者を診終えて聖女たちが朗らかに『お疲れさまでした』と声を出していた。

 

 「出番がありませんでした……」


 しょぼん、と落ち込んでいるアリサを見る。ナイさまのことだから、大事を引き寄せるのかと期待していたけれどなにも起こらなかった。とはいえ、聖女としての活躍の場なんて誰かの命の危険。無事に済んで良かったと息を吐く。どうしてここまでナイさまに拘るのか分からないままだけれど、少しは蟠りが解けただろうか。


 「アリサ、聖王国に戻れば沢山あります」


 私たちは聖王国の聖女なのだから、アルバトロスで名を広めても仕方ないのだから。


 「お姉さま……――」


 アリサは聖王国の聖女よりもアルバトロスの聖女の方が質が高いと認めざるを得ないようだ。多くの患者さんを診ても、疲れをみせていない方が残っている。

 聖王国では治療院が終わると死屍累々で疲れ果て、そそくさと家に戻る方が沢山いるというのに、ナイさまはたちは炊き出しを手伝う上に支援している孤児院にも顔を出すと聞いた。アリサは完全に気落ちしており、先日話していたことの続きを訥々と語り始めた。


 「私はお母さんを捨てた父が嫌いです」


 貧乏を理由になにもしなかったお父さんが駄目なのだそうだ。だからこそお父さんとは決別したといった。家族は居ないようなものだし、一生一人で生きていくと考えていたそうだ。

 私の下に就くことになって、彼女は私に母親の影を感じたらしい。そんなに歳を取っていないけれど、アリサのお母さんと似たところがあるんだとか。聖王国を恐怖のどん底に陥れたアルバトロスの黒髪の聖女――勘違いだったけれど――は許せなかったし、そんな人間が聖王国の大聖女に叶うはずがないと思い込むようにしていたって。

 

 「アリサ、そのように落ち込む必要はありません。貴女には未来があります。きっかけさえあれば黒髪の聖女さまのようになることだってできるはずです」

 

 魔力量では敵わないかもしれないけれど、聖王国で活躍する場がきっとあるはず。ナイさまを敵視していたことは間違っているけれど、その矛先が良い方向へ進むなら。きっと彼女には良い未来があるはずなのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] お返事感謝です! いっその事アリアちゃんとアリサちゃんも偉大なるナイちゃんと愉快な仲間たちの調味料開発計画に巻き込んでしまいましょう!(この世界の一般人視点で完成品の味見とかしてもらう) …
[気になる点] 実はナイさんがエリアヒールを使えば一人で殆どの人の対応出来ると知った場合、今以上の混乱を招きそう… [一言] 〉ナイさまを敵視していたことは間違っているけれど、その矛先が良い方向へ進む…
[一言] 連日更新お疲れ様です。 そうですよねぇ・・・ 親父殿にも言い分はあるでしょうが、お母さんを「金が無い」と見捨てた様なものです。せめて教会に助けを求める事もしなかったのでしょうか? まぁ、当…
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