0510:【②】頑張りどころの大聖女さま。
2022.10.12投稿 1/2回目
――アリサがはっちゃけている。
真っ直ぐな性格で裏表があまりないからか、彼女はある意味わかりやすい。ものの見事に、アルバトロスの聖女さまに、しかも一番手を出してはならないナイさまに目を付けるなんて。アリサがナイさまに喧嘩を吹っ掛けたとしても負け試合は確実だし、聖女としてどちらが格上かなんて競っても仕方ないこと。
どうして、アリサがそこまでしてこだわるのか、近々で聞き出してみなければ大変な事態に陥ってしまいそうで怖い。なにせAシリーズ三期の攻略対象は没落済み。ゲームのイベントは全て起きていないのだから、どこか別の場所での皺寄せが起きてもおかしくはない。
おかしくはないのだけれど、どうして西大陸の一番危険な国であるアルバトロスで起きなければいけないのか。ナイさまの所為ではないのは分かっているけれど、どうしても愚痴りたくなるのは人間の性というものだろう。
魂が口からちょっと抜けながら、机の上に並べた手紙を見る。
先日出した手紙の返事が聖王国、アルバトロス王国、そしてナイさまからきた。私が手紙を出したタイミングは、三通とも一緒。聖王国へは魔術を使った転送装置――人間を運ぶのは大変だけれど、手紙などのちょっとしたものならば簡単に送れる――を使って。
アルバトロスとナイさまには使者の方にお願いした。一番早く返事がきたのは、聖王国から。次にアルバトロスとナイさまからほとんど同時に手紙の返事が。
たまたまタイミングが揃ったようで、三通同時に目を通すこととなった。
聖王国は、アルバトロスでアリサがやらかしそうと送った手紙を読んで直ぐに、対策会議を開いたらしい。アルバトロスの王城にある賓客用の部屋で、机に座ってペーパーナイフで封を切って中身を取り出し広げて目を通す。
――絶対に阻止しろ。できなければ、被害がでる前に戻ってきなさい。
意訳であるが……。聖王国へ波及するからなんとしてでも阻止を、アリサに全てを話していいから納得させろとも記されていた。他にも一緒に送られてきた手紙に目を通す。先々代の教皇さまには『苦労をかけてすまない』と震えた字で書かれ、聖王国を共に立て直した方には『貴女であれば乗り越えられます』と確りとした文字で。
彼ら以外にも頂いているが、同じ内容なので割愛。とりあえずアリサにあの事件を全て話しても良いという許可は下りた。聖王国上層部の大失態なので、真実を知る人は限られている。
何故、そんなことになったのか。事実を告知して正しい情報をみんなに知って貰うべきか、自分たちの失態をできうる限り広めないの二派にわかれており、意見が合わないまま今となってしまった。これ、妙なことを考える人が出ないように、聖王国が恥をかいてでも全てを明らかにすべきかも。ナイさまが悪となって、手を出そうとする人たちの命が危ない。無謀を働いた人たちを助ける必要はないけれど、ことなかれ主義の日本人魂を持っているのだ。できれば平和であって欲しい。
とりあえず、聖王国からの許可は得た。次、アルバトロス王国からの返事に目を通す。
――君たち二人には未来があるのだから、彼女が馬鹿な行動に移る前に説得なりなんなりしなさい。
アルバトロス王国には連れのアリサが黒髪の聖女さまに対抗心を燃やして、なにか考えているようだと送っておいたのだけれど。国王陛下直々の書状には、アルバトロスの黒髪の聖女に手を出せばどうなるかは、私が身に沁みて理解しているだろう。
問題が起こってからでしか我々は対応ができぬから、全力を以て事にあたって欲しい。流石に私一人に任せきりなのは心配だから、アルバトロスとしてもできることがあるのならば協力する。聖王国、アルバトロス、ナイさまとの橋渡し役が必要ならば遠慮なく申しなさい、と書かれていたのだ。ううう、他国からの留学生が問題を起こしそうだというのに、なんだか凄く優しい気がする。
頑張ります、アルバトロス王。次、ナイさまからの返事。
――うーん……なんでそうなるの? あ、お醤油とお味噌のレポート楽しみにしています。
抜けた顔で首を傾げているナイさまの顔が浮かんでしまった。私も聞きたい。そういえば、アリサがあんなにもアルバトロスの聖女に固執する理由を私は知らない。
まずはアリサと話してみるべきだ。彼女相手であれば難しく考える必要はない。表裏がなく根が素直な子のはずだから、聞けば答えてくれる。しかし、ナイさま。手紙の返事の最後にちゃっかりと醤油と味噌の催促を添えてくるとは。どれだけ食い意地が……って彼女の生い立ちを考えればしかたない。
アルバトロス王都の貧民街で幼い頃から生きていたようだから。ジークフリードの双子の妹であるジークリンデが生きているのは、一緒に貧民街で過ごしていたというナイさまのお陰だし、ジークフリードとジークリンデが騎士として既に身を立てているのもナイさまが聖女だから。
不幸にも幼くして死んでしまっていたはずの子が生きていたのは素直に嬉しいことだ。ナイさまの後ろに寡黙に控えているジークフリードも、ナイさまとジークリンデを大切にしているのは見ていれば分かる。アガレス帝国の第一皇子であるアインとの決闘はもの凄くカッコ良かったし。あ、話が逸れた。
頂いた手紙にはまた丁寧に返信しておく。ナイさまには、アリサと私との話し合いでナイさまの過去に触れても――前世は除く――いいかと伺いを立てておく。椅子から立ち上がり、アルバトロスから私に宛がわれた侍女さんを呼ぶ。アリサを呼んできて欲しいこととお茶を二人分お願いすると、しずしずと頭を下げて部屋の扉をでて行った。
文字数多いので、本日二回投稿です。