0051:違和感の正体。
2022.03.20投稿 4/4回目
急に喋らなくなったジークに違和感を感じて、ヒロインちゃんを見る。一体彼女はジークになにをしたのだろう。
「ジーク?」
「……兄さん?」
「っ! すまない、なにか……」
顔を押さえて数歩下がるジークはリンに任せて、鉄格子の向こうに居るヒロインちゃんを睨む。
「何をしたの?」
「え?」
「……何をしたと聞いている」
自分でも驚くくらいに声色が下がっていた。
「な、なにも……私は何もしてないよ!」
「何もしていないのに、ジークがあの状態になるはずがないでしょう!?」
「でも……でもっ!」
怒りで魔力が体の中で渦巻くのがわかってしまう。ぶわりと溢れる魔力と同時に私の髪も揺れて、鉄格子の金属が魔力と反応して声高い妙な音を奏で始めた。
「ナイっ!」
「聖女さまっ!」
リンと護衛だとついて来た騎士が声を張るけれど、構っている余裕はない。目の前のコレはジークに一体何をしたというのだ。
鉄格子の隙間に手を入れて、目の前の物体の胸倉を掴んで顔を引き寄せて互いの鼻先まで近づける。至近距離で合う目と目。若草色の瞳に私の顔が映り込んでいるけれどそれより奥から何かを感じ取る。
「――っ!! ……魔眼」
「え?」
きょとんとした顔を浮かべ呆けたままの目の前のアレを何の遠慮もなしに突き放すと、石畳の床にどさりと尻餅をついたのを横目にジークとリン、そして見張り役でついて来ていた指揮官の人に声を掛ける。
「すみません、急いで魔術師もしくは呪術師の手配を。――ジーク、大丈夫?」
私の言葉に指揮官さんは同じ場所にいる他の騎士へと伝達。走って塔の階段を昇って行ったので、手配はしてくれるようだ。
「あ、ああ。少しくらっときただけだ……」
額に手を充てて片膝をついて耐えているジークに治癒魔術を掛けるけれど、効果があるのかは分からない。
「無理しないでいいから、取り敢えずここから出て外の空気吸おうか」
「行こう、兄さん」
「聖女さま……!」
「申し訳ないのですが、先に彼を外に出させてください」
「それは勿論です。――お時間を取らせて申し訳ないのですが、あとで事情の説明をお願いしたく」
「ええ、承りました」
押し倒されたことから回復したのか、ヒロインちゃんが鉄格子に縋りながら髪を振り乱して叫ぶ。
「待ってっ! 待ってよぉ!! 私を置いて行かないでジークっ!! 大好きなのにどうしてアタシに振り向いてくれないのっ!!」
「…………アンタじゃあ勃たねえんだよ。趣味じゃない」
「……っ!!」
女として完全否定されたなあ、ヒロインちゃん。
ジークがこうして口を荒げるのは珍しいからよほど腹に据えかねてたんだろう。きょとんとしたのちに顔を真っ赤に染めていたヒロインちゃんを置いてけぼりにして、入口へと向かう。
ちょっとアンバランスだけれど左側にリン、右側を私が支えてようやく外にでて、王城の敷地内で少し行儀が悪いけれど緊急事態だとジークを芝生の上に座らせる。
「――すまん」
「ジークの所為じゃあないでしょ。一応治癒を施してるけれど、気持ち悪いとかある?」
「お水貰ってくる!」
どうやら騒ぎを知って駆け付けた騎士団の人たちがこちらへとやってくる。それならば護衛は不要だろうとリンが水を貰いに走っていった。
「…………ジーク」
「どうした?」
少し顔色の戻ったジークにふと湧いた疑問を投げかける。
「不能なの?」
「……っ! 言葉を慎めっ!!」
「あだっ」
頭に遠慮のないジークの手刀が落とされるのだった。