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0500:二年生一学期開始。

 子爵邸の図書室にいつの間にか鎮座していた魔導書を見つけて。流石にこれを放置する訳にはいかないと、アルバトロス上層部に報告すると、直ぐに副団長さまが子爵邸へ訪れた。副団長さまに魔導書を見せると大喜びしながら、嬉々として手を伸ばしたのだけれど……魔導書に弾かれた。『僕には貴方に触れる資格はないのですね……』と昼ドラの負け男みたいな台詞を吐いていた。この世界は乙女ゲーに強く影響されている上に、副団長さまは攻略キャラらしいのでもっと自信を持てば良いのに。奥さんがいるようだけれど、愛人作ってもおかしくはない……駄目だアガレス帝国の皇帝を見て、価値観がおかしくなっている。


 とはいえ、副団長さまが恋愛にかまけている所を想像できないから、一生魔術馬鹿のままなのだろう。凄く残念そうな副団長さまを見ていると不憫になってきたので、隣に座って頂き、私が魔導書の頁を捲りながら中身を確認した次第。内容は秘術や禁術が沢山記されており、魔導書を書いた魔術師の質の高さが伺えるらしい。私にはさっぱりだけれど、副団長さまと私の時間が許される限り複写していた。


 死者蘇生魔術が記されており、ヴァンディリアの元第四王子殿下の顔が浮かぶ。術式を知っていたとしても死者蘇生なんて、自然の法則を冒涜しているからやらないけれどね。彼が手に入れていたら嬉々として執り行ったのだろうなあ。他にも四肢再生、臓器再生が記述されていたから術式を理解しようと、ページを覗き込むと頭痛がしたので私に適性はないらしい。

 地道に聖女として治癒を施すしかないなと苦笑い。副団長さまは攻撃系の複雑な術式を直ぐに理解し覚えていた。魔術師の森にでも行って試し撃ちでもするのだろう。新しい玩具を手に入れた子供みたいな顔をしていたし。


 『ク』のつくヤバそうなものがなくて良かったと安堵して。


 そんなこんなで数日が過ぎ、ベッドから起きる。朝の冷え込みも随分と緩くなり、ベッドの布団から起きやすくなった。自室のカーテンを開けて外を見ると、朝陽が昇り始めている。澄んだ空気を肺一杯に取り込んで、深く長く息を吐く。


 『おはよう、ナイ』


 クロが籠から飛んできて私の肩の上に乗る。ロゼさんとヴァナルも私の足元にやってきた。


 「クロ、おはよう。ロゼさんとヴァナルもおはよう」


 『マスター、おはよう!』

 

 『オハヨウ』


 さて着替えるかと呼び鈴を鳴らす。暫くすると侍女さんたちがやってきて、ノリの効いた学院の制服を着せてくれた。自分で着替えを出来るけれど、お貴族さまの当主としてやっちゃ駄目なことのひとつである。侍女さんたちやメイドさんたちの仕事を取ってしまうから駄目なんだって。

 お風呂にも介添えが付くし、勘弁してくださいと最初は思っていたけれど慣れつつあるのが恐ろしい。お風呂はリンと偶に一緒に入るので、その時だけは介添えがないので、ソフィーアさまとセレスティアさまが侍女さんたちに根回ししてくれたのだろう。

 着替えを終えて食堂へと足を向けると、ジークとリン、クレイグとサフィールが席に座って待っていてくれた。挨拶と待たせたことを謝罪して、自分の席へ着く。当主なので主人用の席なのがちょっと恥ずかしい。料理長さんが丹精込めて作ってくれた朝ごはんを綺麗に平らげて、屋敷で働く方たちに『いってきます』と告げ、子爵邸の別館で居候しているアリアさまと一緒に馬車に乗り込む。


 一年前とは全然違う光景だ。教会宿舎から乗合馬車の停車場までジークとリンと私で歩いて行き、そこから学院を目指していたというのに。今では自分の屋敷から自前の馬車に乗り込み、ジークとリンは護衛の騎士として歩いて学院を目指す。他にも軍や騎士の方たちが警護に付いている。

 これ以上爵位が上がる可能性は低い――むしろ必要ない――けれど、この先は一体どうなるのか。政治的催しにいくつか参加する予定になっているので、妙なことにならなければいいけれど。クロが肩の上で足踏みし、ロゼさんは私の足にちょこんと触れて、ヴァナルは影の中で控えている馬車の中。暫く揺られていると、学院に着いたようでゆっくりと馬車が止まった。ジークのエスコートを受けて馬車から降りる。


 ――今日から新学期。


 新一年生もチラホラと居るようだ。ネクタイの色で学年が分かる仕組みになっており、ピカピカの一年生は直ぐに分かった。

 ソフィーアさまとセレスティアさまから、今年の一年生で高位貴族は少なく顔を覚えるほどではないと言われ、一年生の顔を全く知らない。王族やそれに近しい方たちが居れば、覚えておけと姿絵を見せられたのだろう。本当、お貴族さまの世界は厄介である。

 

 背の高い正門を抜ける前、私の到着を待っていたソフィーアさまとセレスティアさまと合流した。今日は何故かリーム王国の第三王子殿下であるギド殿下まで一緒に待っていたらしく、白い歯を見せてにっと豪快に笑った彼に頭を下げた。

 アリアさまがおっかなびっくりで殿下に挨拶をしていた。ギド殿下はとっつきやすいから、今の内に慣れた方が楽だと思う。王立学院なので王族の方が普通にいらっしゃるし。アルバトロスの第一王子であるゲルハルトさまは卒業したから、アルバトロス王家の方は居なくなっちゃったけれど。

 

 学院の正門を抜けて正面の並木道を抜けて、各々の教室へと向かう為に途中で別れる。ところどころに配置されている警備の方に頭を軽く下げながら、ソフィーアさまとセレスティアさまを後ろに引き連れて、ギド殿下は少し距離を空けて私の横を歩いていた。

 そういえば聖王国の大聖女さまであるフィーネさまともう一方が留学してくると聞いているのに姿が見えない。教室で会うかと一人で納得して、教室に入るのだけれど二人の姿は見えず。首を傾げているとメンガーさまがいらしたので、彼に頭を下げるとびくりと驚かれた。何故……と少々不満に感じつつ自席で同時、始業式が始まるぞと担当教諭が教室に顔を出して私たちを講堂へと導いて。


 始業式開催のアナウンスが流れ、新な生徒会長の挨拶に学院長の話を終えると、留学生を二名紹介するという声が響いた。壇上に上がったその人は銀髪の長い髪を靡かせながら、小柄でありながら制服の上からでもわかる豊満な胸を抱えて私たちの前に立った。


 『聖王国から参りました。フィーネ・ミューラーと申します。アルバトロス王国で学んだ知識を国で役立てたいと考えております。――』


 フィーネさまの挨拶が少し続いて、次にもう一方が壇の前に立って一礼した。


 『アリサ・イクスプロードです。アルバトロスの聖女さま方の質は高いとお聞きしました。私も聖王国で聖女を担っており、ご一緒に切磋琢磨させていただければ嬉しく思います』


 フィーネさまよりは短い挨拶だったけれど、確りとした声と韻の踏み方で聞きやすい言葉だった。フィーネさまから彼女は乙女ゲームファーストIP三期の主人公だと聞き及んでいる。

 主人公らしく、真っ青な長い髪に青い大きな瞳、フィーネさまよりも背が高く、この世界における同年代女性の平均辺り。胸も大きいし、出る所は出ていた。舌打ちしそうになっていると、彼女と視線がばっちりと合った。彼女から火花が飛んだ気がするけれど、受け止める義理はないので流しておく。

 

 周囲の男子生徒が色めき立っている。フィーネさまも三期主人公ちゃんも容姿が優れているし、聖王国の聖女さまだから婿になりたい人は狙うのだろうなあ。声を掛ける機会が得られるかどうか謎だけれど、その点に関してならば先行でフィーネさまと面識のあるメンガーさまが一歩抜きんでてる。

 メンガー伯爵家の次代は彼のお兄さまが継ぐので、安気な官僚狙いなんだとか。部署次第で奔走する羽目になりそうだし、アルバトロス上層部には転生者とバレているから、これからの立ち回り次第で爵位を手に入れられるはず。


 悲しいかなメンガーさまには出世欲が全くないから、貴族の爵位なんて御免だというタイプ。でも前世の最終学歴が大卒だから知識を沢山持っていそう。醤油や出汁とかの生産方法しらないかな……。新しい島ではお魚さんが沢山採れるみたいだし、生で食せなくても焼き魚に醤油は鉄板。

 マヨネーズは料理長さんによって作り出してくれたから。レシピは料理長さんが好きにして良いよと伝えてあるから、お金儲けできるはず。マヨネーズは調味料として誰にでも気に入られるよね。この世界を巡ればマヨネーズの原型くらいはありそうだけれど、探す為の時間がないし本当に料理長さんには感謝だ。


 さて、特進科二年生に配属されるフィーネさまとイクスプロードさまと仲良くなれるかなと、講堂を後にするのだった。



 活動報告にキャラ紹介を載せてみました。アクが強い紹介となっておりますので、いろいろとお気を付けください。反応があれば、来週にでも第二段投げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ピッコマでスキル調味料の漫画も読みましたね。
[一言] 醤油関連、発酵食品関連の参考になるサイトかな。(https://www.hakko-blend.com/study/hakkofood/01.html) 日本や東アジア、東南アジアのように湿…
[一言] 醤油は発酵食品があれば可能性が上がりそうですね。鉄腕ダッシュでダッシュ島で見つけた豆類で味噌擬きを造ってましたね。麹はTOKIOが育てた米と譲って貰った麹菌で造ったかな。米麹以外にも豆麹、麦…
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