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0476:古いしきたり。

2022.09.11投稿 3/4回目

 ――黒髪黒目の者を出せっ!


 第一皇子は凄い剣幕で私たちの前へ姿を現した。彼の横には第二、第三皇子も一緒に付いてきたようで。彼らが率いている兵士の顔色は悪い。分が悪いと理解しつつも、上の命令に逆らう事が出来なかったか。


 この場で威圧的な行動を取る意味合いを、彼らは正確に理解していないようだ。頭は筋肉で出来ていますからと、別れ際にウーノさまが零した言葉を思い出す。本人も意識はしていなかったが、思わず呟いてしまったらしい。

 恥ずかしい所を見せたと頭を下げていたので、本当に意識していなかったのだろう。ということは紛れもない本音ということで。


 竜の皆さまは静かに見守っている。公爵さまが軍のみで対応可能と判断したことと、帰り道もあるのだから無駄に疲れさせてはいけないという配慮だそうで。

 ディアンさまとベリルさまは我々も動いてもなんら問題はないと言っていたけれど、公爵さまが押し切った。暴れ足りないのかもとソフィーアさまが仰っていたから、帝国に爪痕を残していくつもりなのだろう。


 「行くか。馬鹿の相手は愉快だな」


 「はい、閣下」


 公爵さまと私が第一皇子殿下の相手を務める。護衛に最低限の数名と私の専属護衛であるジークとリンが供に付く。


 「気を付けろ。相手は追い詰められている状況、何をやるか分からん」


 「ええ。大丈夫でしょうが、何が起こるかわかりませんので」


 ソフィーアさまが心配している顔を見せ、セレスティアさまは第一皇子一行を厳しい視線で捉えたままだ。お二人の言葉にはいと返して、公爵さまと一緒に前へ出る。


 「来たな。――最後通告だ! 俺の下へ来い!!」


 滅茶苦茶上から目線な発言だ。帝国へ来いではなく、第一皇子の下へ行けと言うのか。追い込まれてしまった所為か、本心が明け透けになってしまっている。

 ウーノさまもこんなのと帝位の座を争っていたのか。そりゃ苦労が絶えない。尻拭いもしていそうだし、助言とかも沢山したのだろう。男尊女卑が根強い帝国だから、男系血統の維持を先ず考えるのが普通。第一皇子以下の皇子たちがどうしようもないから、ウーノさまは帝位に就く決意をしたと。


 「何度でも言いますが、お断り致します」


 私は叫ぶ第一皇子に、同じ言葉を告げる。なんで諦めてくれないのやら。黒髪黒目の者を崇めているのは嘘だったのだろうか。猪直情男に常識を説くのは無理かも知れないが、微粒子レベルで可能性があるならば言い続けるべきかなあ。


 「貴様のような男にこの者は扱えんよ。自滅するのが精々だ」


 私の隣に立つ公爵さまは、地面に杖を一度突いて低い声で言葉を放つ。ただ視線は子供を見るような慈悲深いものなので、いろいろと思うことはあるようだ。公爵さまと私の言葉に、第一皇子は肩を怒らせた。


 「はあ? お前のような爺に言われる筋合いはない! 渡せっ! ――渡さぬというならば決闘だ! 受けぬならば貴族の恥と知れ!」


 第一皇子の言葉に目をぱちくりする。私は、決闘なにそれ美味しいの状態。条件を告げる第一皇子殿下を、第二、第三皇子は期待の目で見つめている。

 随分と古い習慣を持ちだしたものだ。一対一で、剣一本での勝負。もちろん真剣。負けて命を失っても文句は言えないというもの。今回は負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くという、子供の喧嘩染みたもの。本当は名誉の回復とか復讐の為に行われるはずだけど。


 アルバトロスで決闘なんてほぼ廃れた文化である。軍や騎士団で警察権のようなものを持っている上に、裁くことも出来るのだ。そちらへ任せるのが一番だという考えが浸透し始めているのだから。

 お貴族さまであれば私刑も可能だが、周囲の視線が制している状況で。噂やゴシップがご法度のお貴族さまだと、重大問題となりうる為に本音はどうであれ控えている状況。


 捜査権とか逮捕権とか司法権は綺麗に分かれれば良いけれど、まだ少し時間の掛かる分野。帝国はアルバトロスでは古い習慣を今なお続けているみたい。


 「受けて立とう! ――決闘なれば確実に約束を守って頂く!」


 公爵さまがにぃと口元を伸ばして、第一皇子の言葉に答えた。本当は受けて立たなくても良いけれど、第一皇子のメンタルをへし折る為に公爵さまは条件を呑んだ。彼の声を聴いた目の前の皇子も、同じように口元を伸ばした。


 「俺が勝てば黒髪黒目を渡せ!」


 第一皇子はドヤ顔になる。第二、第三皇子も同様だけど、連れてこられた兵士の顔色は更に青くなる。

 味方にも勝てると信じてない状況を察知出来ていないのは如何なものか。ま、ウーノさまの地位を固める為のデモンストレーションだとでも考えれば良いか。そう思っていないとやっていられないという、残念な気持ちもあるけれど。


 「我らの代表者が勝てば、第一皇子の称号を捨て皇籍から抜けろ!」


 公爵さま、黒髪黒目の者を手に入れるのは諦めろと言わないあたり、勝つことを前提としているな。もちろんコレも出来レースというか、ウーノさまが予想した範疇だった。

 自決しろと言えれば楽だけど、プライドの高い第一皇子だから皇籍離脱が一番堪えるとウーノさまから聞き出していた。ならば一番本人が悔やむであろうことを望むべきと、公爵さまは考えたようである。


 「っ! 分かった条件を飲もう! 貴様らは飲むのか否か!」


 第一皇子は、公爵さまが告げた条件に一瞬息を呑むが直ぐに感情を隠していた。第二皇子と第三皇子は兄上頑張れ状態である。金ピカの鎧を纏った第一皇子は腰に佩いている、派手で豪華な剣へ手を伸ばした。


 「ここまできて尻込みすれば興覚めも良い所だ。そのような無様はせんよ。条件を承諾しようではないか!」


ふふんと互いに笑いあっている。公爵さまも第一皇子もノリノリだし。公爵さまに自信があるのは、勝つ道筋しか見えていないからだろう。こうなった時の為にジークが代表者を務める手筈となっている。公爵さまからは殺すなと言われているので、ジークよりも実力があるリンは選ばれず。

 リンが選ばれたら問答無用で第一皇子の命が散ってしまうのは、公爵さまも私も分かっている。私の事となると容赦がなくなり、歯止めが利かなくなる節もあるからなあ。条件を出し合いながら、納得できるまで話し合いで擦り合わせた後、紙を用意し血判を押せば。

 

 「――では!」


 「――成立!!」


 声を張り上げてお互いに頷く。決闘の正式なやり方なんて知らないけれど、お互いに条件を決め合った後に勝負となるのだろう。立会人は必要ないのかと疑問になる。


 「閣下、立会人は?」


 「そんなもの必要ない。周りの観衆で十分だ」


 なるほど、お互いに人員を派遣しているし、第三者を選出するとなれば時間が掛かる。簡易的にお互いの関係者が立会人を務めると。結果がどうなろうとも無用な噂を流したり、誹謗中傷はお互いの名誉を守る為に厳禁なんだとか。


 さて、決闘なんて古いしきたりを持ち出したけれど、代表者に指名されているジークは亜人連合国から賜った剣の柄を握りしめている。第一皇子の態度は悪いので腹立たしいのだろうと、ジークへ顔を向けると一つ頷いて前へと進み始めるのだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『私の公爵さまは』はぇ?いつからナイと公爵はそのような関係に?! 『公爵さまが自信があるのは、勝つ道筋しか見えていないからだろう。』 これ、『勝つ』の前に『相手の』をいれないとナイ側の…
[一言] 決闘で何でも解決するのは楽だけど、相手の実力も理解出来ずに挑むのは無謀で、こいつに限っては無能な証拠になってます。 多分ですが、こいつ等育てた教育係間でも起こるのでは?優劣を決める何かが …
[気になる点] 昼間の会見場から弾き出された不穏分子なんだから、マトモに受け答えしてやる必要さえなかったと思えるんですけど……(-.-) 結界(障壁)の中に閉じ込めといて、翌朝まで放置プレーで良かっ…
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