0474:今後の予定。
2022.09.11投稿 1/4回目
キレている方たちを宥めつつ、捕らえられた人が何をしていたか聞いても、みんな口を揃えて『知らなくていい』と固く口を閉ざしたままなので真実は知れないまま。
私に対して一番口が緩そうなリンに聞くも、同じ言葉が返ってくる。ぬー……と口をへの字にしていても誰も答えてくれない。重要なことであれば必ず教えてくれるから、知らなくても問題ない事案なのだろう。ならば忘れた方が精神衛生的にも良いかと、さらりと流す。心の切り替えって大事だし、会談終わりの歓談は続いているのだから。
「皇帝陛下は彼女にご執心だったようですが……」
私はウーノさまへ視線を向けた後、地面に転がっているヒロインちゃんへと視線を変える。ウーノさまは私が何を言いたいのか理解したようで、片眉を上げて何とも言えない表情になった。
「ええ。陛下は自身の下へ来ることを望んでいます」
自分の父親が無類の女好きだなんて、普通の感覚であれば嫌だろう。しかし彼女はアガレス帝国第一皇女という地位のお方。そんなこと言っていられない身だし、子供が多いのは良い側面もある。もちろん悪い側面もあるから、一概には言えないけれども。
「その割には至極あっさりと引きましたね」
「流石にこの場の緊張感に堪えられなかったのでしょう」
ウーノさまが言葉を言い終わると、顔を竜の皆さまが居る場所へと視線を向ける。気付いた竜の皆さまが『どうしたの?』というように一斉に首を上げて、こちらを見て首を傾げる。何でもないよと首を振れば、竜の皆さまは顔を元の位置へ戻して何事もなかったように待機していた。
「あー……」
私が微妙な顔になっていると、くすくすとウーノさまは笑っている。この状況を耐えられる人はそう居ないのか。亜人連合国でクロが卵の時に取り囲まれた時点で、感覚がマヒしているから。凶暴な竜も知らないし、みんな良い方ばかりなのに。
そりゃ、まだ小さい竜は悪戯好きであったり、物事の分別が付いていないこともあるが、教えると直ぐに理解してくれる。竜の皆さまが恐れられている理由がイマイチ分からないとでも言うべきか。皇帝も竜の皆さまと触れ合ってみれば良いのに。
「ナイさま。皆さまは今から帰路に着かれるのでしょうか?」
もう陽が暮れそうな時間になっていた。直ぐにでも帰りたい所だけれど、一人だけ勝手な行動を取る訳にはいかず。
「閣下の話によれば夜に移動するのは危険なので、この場で一夜明かすと仰っていました」
公爵さまはウーノさまに、この件を伝えていなかったのだろうか。場を任されたウーノさまの許可があれば、多少は落ち着いて夜を迎えられそうだけれど。
「であれば、皇宮で一泊なさいませんか? すべての方を迎え入れるのは無理ですが、貴族の方やご迷惑をお掛けした方々を歓待致したいのです」
表面上の和解を終えたとはいえ、蟠りが解けた訳もなく。ウーノさまの気持ちは有難いことである。
「申し訳ありませんが……」
今回はアルバトロスと亜人連合国は怒っているぞというパフォーマンスもあるので、彼女の言葉をおいそれと受け入れる訳にはいかない。皇宮に再度訪れるのはきちんとした手順を踏み、正式な使者や賓客として向かうべきであろう。
個人的な繋がりを持ったから、ウーノさまに招かれてもおかしくはない。その時は飛空艇を飛ばして頂き、送り迎えは帝国にお任せコースだろう。貴重な巨大魔石を壊したから、まともに動かせる飛空艇があるのか謎だが。気持ちは本当に有難いけれどね。堅い簡易ベッドよりも、柔らかいベッドの方が安眠できるので。
「やはり無理でしたか」
ウーノさまは苦笑いを浮かべているので、誘ったという体裁も欲しかったのだろう。分かっていながら誘ったのかと理解して、私も苦笑いを浮かべる。
第一皇子とかどうなっているのか知る由もないが、動ける身ならば『何故黒髪黒目の者を逃したっ!!』と凄い剣幕で迫りそうだし。第一皇子以外の黒髪黒目に対して過激な感情を抱いている人が居ないとも限らない。
『我の城が気に入らんのか?』
黙っていてください。貴方が喋ると帝国側の皆さまの調子を狂わせるんだよね。無理矢理この地を奪ったことに思う事があるのか、雰囲気が重くなる。髑髏の幽霊は死んでいる上に精霊化を果たして気が晴れているようだけど、真実を今し方知った人たちは微妙な空気を醸し出すのだから。
『いやあ、少しでも魔素の量を増やしておきたいのじゃよ! 我は魔素で構成されておる。巨大魔石が減ったからちったあマシになるだろうが、魔素量は少ないからの』
どこまでも自分の都合だった。晴れやかな自己中だなと無視を決め込んでいれば、髑髏の幽霊は私の態度に対して勝手に落ち込んでいる。
皇宮にあった飛行艇の動力である魔石二十個と召喚に使われた魔石五個は完全破壊しているから、再生は不可能。魔石が溜め込んでいた魔素は放出されたはずだけれど、髑髏の幽霊にはまだ物足りないらしい。
「げ、元気を出してください!」
「そうです。これから第一皇女殿下を支えていくのでしょう?」
側に居た二人が、落ち込んでいる髑髏の幽霊の肩を持っていた。
『お嬢ちゃんとメンガー少年は優しいのう……我、肉体はないが心はあるから胸に染みるぞぅ……』
フィーネさまとメンガーさまは思う所があったのか、髑髏の幽霊に語り掛けている。優しいなあと見守っていると、フィーネさまが一歩踏み出した。
「聖王国には優秀な浄霊師さまが居ますから、この世に未練がなくなればご依頼くださいね!」
フィーネさまはチラリと私を見た。へえ、そんな職業の方がいらっしゃるのか。聖王国の大聖女さまが言うのだから、浄霊師さんは実力がある方なのだろう。幽霊が出たら聖王国に連絡すれば、払って頂けるのかと心のメモに刻んでおく。絶対に一生忘れない言葉だなあ。これで怯えなくて済むと、心がちょっと晴れやかになる。
『いや我、まだ空へ還る気はないぞい!』
フィーネさまの割と酷い言葉に怒る様子も見せず、おどけて髑髏の幽霊は言葉を紡ぐ。お金も必要ならば払えないしと言い訳をしていた。この世に未練がアリアリなのねと髑髏の幽霊を見上げた。
「お金ならば私が出しますよ」
うん、未練が消えたら教えて欲しい。私が生きている間ならば除霊費用を払うから。
『え……?』
「へ?」
私の言葉が意外だったのか、髑髏の幽霊とフィーネさまの目が点になっている。メンガーさまはやれやれと言った感じで、私たちのやり取りを見ていた。
「では我々一同は引き揚げます。護衛の近衛兵を残すことのみお許しください」
ウーノさまは私たちに深々と頭を下げると、他の面々も深々と頭を下げる。浅く下げている人は注意すべき人物かなと、顔をなんとなく覚えておこう。
「承知した」
「寝床の提供感謝する」
公爵さまとディアンさまがウーノさまの言葉に返事をした後、ちょっとだけ今後の事を打ち合わせ。第一皇子が取りそうな行動とかをウーノさまは私たちに教えてくれ、公爵さまが悪ノリしてた。
彼女たちと捕らえられた人が戻っていく姿を見送りつつ、野営の準備に取り掛かるのだった。