0473:何をしたのかなあ……。
2022.09.10投稿 4/4回目
凄く怖い雰囲気を保ったままのディアンさまとベリルさま。強い個体の竜というだけあって、険しい視線だけでも威力は抜群だったようだ。
ひいと声を漏らして恐れている捕まった過激派の人たちがそろそろ卒倒しそう。魔力内包量が低い所為か魔力を纏ったモノに耐性がないようで、ウーノさまを始めとした帝国の方々も限界を迎えようとしている。
「はいはい。そこまで!」
「みんな驚いているよ~。馬鹿だけに向けるなら問題ないけれど、他の人まで影響してる~」
ふ、と影が差し込むとダリア姉さんとアイリス姉さんがお二人の怖い雰囲気を物ともせず、突っ込んでいた。慣れているのか、竜のお二人の眼光をガン無視できる胆力は凄い。やはり逆らっちゃ駄目な人だよね、ダリア姉さんとアイリス姉さんは。
「……すまん」
「失礼を。どうにもいけませんね」
お姉さんズとは違って真面目なお二人は反省の色をアリアリと見せていた。腕の中に居るクロもまだまだ未熟だねえと他人事のように言い放っていた。クロは同族故の気安さなのか、ディアンさまとベリルさまに割と手厳しい。
以前私にディアンさまは名乗る機会を失っただけと暴露していた。亜人連合国の今後を担う方たちだし、教育も兼ねているのかもしれないけれど。
『東大陸の黒髪黒目信仰も大変だね。神格化されちゃって、雁字搦めになっているというか……』
確かに。黒髪黒目信仰に囚われて、前に進めなくなるならば本末転倒である。現に、過激派の人たちの国はあまり発展していないようで、帝国よりも数段劣っているとのこと。
東大陸に聖王国の教会でも派遣出来ないかなあ。経典の内容は、面白おかしく分かりやすい話となっているので、教会が建立されれば信者を獲得できそう。地球での一大宗教も古き時代は、地道な広報活動が功を奏して根付いた訳だし。植民地化して現地の人たちを洗脳――言い方は悪いけど――する手法もある。
『何を考えているの、ナイ?』
「ん。聖王国の教会に宣教師さんが居るなら、東大陸に派遣できないかなって。黒髪黒目信仰が大手を振っているみたいだし、矮小化させるなら丁度良いのかなあ」
私の声に、一同がフィーネさまに視線を向けた。本人はびくんと肩を揺らして、目を点にして驚いている。申し訳ないと思いつつも、非公式ではあるが証人が多くいるこの場で言質は取っておきたいかも。流れでウーノさまの許可も取れると良いのだけれど。
「へ? ――た、確かに宣教師の方はいらっしゃいます。その方は信仰深い方でいらっしゃいますので、お話があれば喜んで東大陸へ派遣されましょう」
目を点にしたフィーネさまは、一瞬で正気を取り戻し、私の言葉に答えてくれた。腐敗していた聖王国に教義に熱心な人が居たのねと思うと同時、何故かカルヴァインさまの顔が浮かぶ。彼も随分と熱心だけれど、それを上回るのだろうか。
「大丈夫かな……」
「?」
ぼそりと呟いたフィーネさまの声は、私たちの耳には届かず。彼女の一番近くにいたメンガーさまが首を傾げていたけれど、今は目の前の人たちへの対処だ。
私は死んだら大地に還るのが本来の姿と考えているから、生肉でも死肉でも食べるのは止めて頂きたい。カニバリズムなんて創作の中だけなんて考えていたけれど、思えばニュースで死体を食べたなんてセンセーショナルなことがあったなあ。随分と懐かしいと目を細めていると、捕らえた一人を近衛兵がボコスカ殴っている。一体何だろうと不思議に感じて、つい口を開いてしまった。
「どうしました?」
考え事をしている内に、いつの間にか状況が動いていたようだ。
「女性が知るべきことではありません! お気になさらず!」
「黒髪黒目のお方を襲うことも重罪ですが、それと同じようなことをした事を咎めているだけですので!!」
ディアンさまとベリルさまの気迫に圧されていたのに、回復して何かを仕出かそうとしたらしい。割と重い音が響いているのだけれど。東大陸の方たちの魔力量は低いイコール、身体強化をされていないということだ。仮にされていたとしても西大陸の方々よりも微々たるもの。だというのに、重い重い一撃が振り下ろされている。
「ナイ、下がれ。近寄るべきではない」
「そうですわ。あのような仕打ちは当然でございましょう。彼らに任せ、放っておくべきですわ」
ソフィーアさまとセレスティアさまが私の肩を持って後ろへ下がらせる。ジークとリンもこちらへ寄って、捕らえた人たちを視界に入れないようにと立ちふさがる。
「……ふざけた真似をしおってからに」
「あり得ん」
「最低ね」
「頭、大丈夫なのかな~?」
公爵さま、ディアンさまにダリア姉さん、アイリス姉さんが口々に相手を罵っている。黒いオーラを放ちつつ彼らにここまで言わせるなんて、一体何をしたというのだろうか。
『ナイは知らない方が良いよ』
『そうね! あり得ないもの!』
クロとお婆さままで言う始末。気になって仕方ないから、問いただしても良いだろうか。今は聞ける雰囲気じゃないから、後回しにするしかないけれど。近衛兵の方は息を切らしつつも、まだ続けているんだけれど。見えないけれど、息遣いや気配で分かってしまうので、何があったか分からないが故に恐怖を感じている。
「この不始末は必ず帝国が責任をもって対処いたします。――その辺りで止めなさい。憂さを晴らしたいのであれば、情報を全て吐き出させた後になさい」
ウーノさまは私たち一行に頭を下げた後に近衛兵へ向き直って、無慈悲な暴力を止めていた。と思えば、割と酷い言葉が追加されていた。容赦ないなと思うけれど、帝国のトップに立つならばこういう面も持ち合わせていないとやっていけないのだろう。
「はっ!」
「は!」
カニバリズムは頂けないけれど、その内に顔が腫れあがって大変なことになるから治癒でも施した方が良いような。もちろん対価は本人に払っていただくけれど。周りの人たちは立腹していても、理由を私に教えてくれないので、一人だけ置き去り状態だ。顔に青あざが目立ち始めた人を視界の隅で捉える。
――彼は何をしたのだろう。
疑問が残る一幕だったが、怒っている方たちを宥めるのに苦労したのは言うまでもない。






