0471:今後の事。
2022.09.10投稿 2/4回目
髑髏の幽霊の独白に、周囲に居た人たちはしんみりしていた。国を預かっている者として、他人事ではなかったようだ。明日は我が身の可能性もある。突然、凶暴で強い人が現れて、寝首をかかれる可能性もあるのだから。
『というかお前さん、女帝になるならば武力は必要じゃ! 舐められては、国が荒れよう。纏まりのない国なんぞ、民が迷惑を被るだけじゃ!』
髑髏の幽霊は以前の調子に戻った。シリアスな空気は長持ちしないようで、話題を変えウーノさまが皇帝の座に就く算段を語っている。
「武力ですか。確かに大事なことでございましょう。陛下から次期皇帝としての指名を頂くことが出来れば、近衛兵を預かることも出来ましょうが、まだ皇女でしかない身」
そういえば皇太子殿下は居ないんだよね。第一皇子はその座に居てもおかしくはない年齢だが、第一皇子殿下という呼び名だし。彼がその座に就いていれば、周りの方々はそう呼ぶはずだし、気の強い第一皇子は呼ばないひとをかなりキツイ言葉で糾弾しそうだ。
『ケチくさいのう。女が好きなら、女のお前さんを贔屓すれば良いのに』
ああ、確かに。女性が好きだというならば、陛下が見ればむさ苦しいであろう男性なんて排除しそうだけれど。
やらないのはやはりハーレムを維持する為なのだろうか。かなり生粋の女好きのようだし、発言も女性好きだからと一貫しているものなあ。第一皇子が両刀になった経緯は不明だけれど、まさか父親を見て反発心からじゃないよね。複雑な心の機微があるのだろうけれど、理解するにはまだまだ人生経験が足りない。
「陛下は何も考えていないようにみえて、考えていらっしゃるのです。――まあ、後宮を維持する為ですが……」
ウーノさまが最後にぼそりと呟いた言葉は、どうにか耳に捕らえることが出来た。本当に無類の女性好きなんだねえと、視線を空へと向ける。
青空が綺麗だな、さっきまでの第一皇子の不躾な態度を洗い流せそうなくらいに晴れ渡った綺麗な空……なんだけれど、ワイバーンに乗った騎士さまたちが上空を警戒している。落ちないでねと祈りつつ視線を下へ戻すと、いつの間にか私の左右に立ったお二人が口を開いた。
「確かに武力は必要だな。あとは功績か」
「今回の事で彼女を疎ましく思う者、恨む者が居るだろう。警備は厳重にしておいた方が良いな」
む、と考える素振りを見せるけれど、口を出し過ぎると内政干渉だと言われてしまう。公爵さまとディアンさまだから、線引きは確りなされているだろうが、助言なんて珍しい気がする。アルバトロス万歳な公爵さまに、ルールや掟を慮るディアンさまだから、このやり取りに口出しすることはないと考えていたのに。
お二人もウーノさまに皇帝の座に就いて欲しいのだろうか。第一皇子殿下から次も次の次も六番目くらいまでは、あまり期待できそうにないしなあ。七番目からは幼さがまだ残る感じだし、大人になるまで時間が掛かるだろう。ならばやはりウーノさまが一番手の候補となるのか。茨の道だけれど本人は覚悟済みだし、道を突き進んでいくしかない。
『我も気を配るぞ! アガレスは忌々しいが、アレに帝位は無理であろうて!』
アレって第一皇子だろうか。髑髏の幽霊は呵々と笑っているのだけれど、周囲は微妙な顔。だって恨み節をさっきまで垂れていたのに、この変わりようである。普通の方は付いていけないだろうなあ。
会談で、ウーノさまの立場は確立されたようなものだけれどね。皇帝がウーノさまに他国の者が同席している所で、場を任せると告げられたのだから。ちゃんと理解している人なら、帝国の未来を担う方に乱暴は働かない。ただ第一皇子一派は考えなしに襲ったりしそうだよね……。のし上がる為にも、身を守る為にも功績と武力は必須か。
「感謝いたします、ヴァエールさま」
頭を下げるウーノさま。良いのだろうか、皇族が幽霊に頭を下げて。しかも帝国を恨んでいるとはっきり言った人に対して。
『うむ。其方が誤った道を進まぬ限り、我は其方の支持者だ!』
髑髏の幽霊が彼女の下に居るのならば、ある程度の役には立つのかもしれない。王族としての教育は十分受けていただろうし、将来は王さまとなるのだから帝王学も修めているはず。
「ウーノさま。わたくし、ミナーヴァ子爵個人との繋がりを持ちませんか?」
国との繋がりは無理でも、個人の繋がりであれば問題ないだろう。彼女が帝位を手に入れるのは何年先か分からないけれど、帝国との繋がりがあれば何かしら役に立つかもしれないし。
アルバトロスの繋がりとなれば、陛下や公爵さまが決めなければならないことなので、おいそれと約束出来ない。
「え……?」
「ただし、条件があります。同じことは二度と起こさぬことを約束してください。私からも、今回の召喚儀式を執り行った魔術師の取り調べをアルバトロスの魔術師の方々へ許可を頂きたく」
側に控えている副団長さまや、影の中に居るロゼさんが凄く喜んでいるし、警備に付いている魔術師の皆さんはこっそりガッツポーズを見せていた。本当に欲望に忠実な人たちだなあと目を細めつつ、ウーノさまへどうだろうと目を合わせ直した。
「それは勿論。魔術師の件は帝国での調べが終わった後となりますが、場をご用意いたしましょう。しかし……ナイさまを拉致した帝国との繋がりがあるとなれば、快く思わない方もいらっしゃるのでは?」
そりゃ、怒れる人たちが目の前にいらっしゃるけれど。個人としての繋がりだし、私と帝国が繋がる訳ではない。あくまでもウーノさま個人との繋がり。
そこの所は間違えて頂いては困るので、確りと念を押しておく。駄目ならば公爵さまとディアンさまが止めているだろうし、止められないならばセーフかグレーゾーンと言ったところか。公には出来ないけれど、こっそりと関係があると伝わればそれで良いのだし。
「その時はその時でしょうか。言いたいことがあるならわたくしに直接伝えてくださればいい事です。子爵位しか持ち合わせていないわたくしであれば、言いたい放題でしょう」
後ろ盾の人たちが控えているから、文句は言いづらいだろうなあ。ウーノさまは知らない事実だし、後で知ってももう遅いのだから。保護者公認みたいだし、あとで辺境伯さまやラウ男爵さまにも伝えておけば、問題あるまい。また厄介ごとを持ち込んだと苦言を呈されるかもしれないけれど。
「…………」
無言で微妙な顔となるウーノさまに、髑髏の幽霊が呵々と隣で笑っている。ウーノさまと髑髏の幽霊は良いコンビになるんじゃないのかなあ。彼女が振り回される未来しか見えないけれど。まあ、とりあえず。まだ課題は残っているけれど、大きな山場は超えたなあと、大きく息を吐く私だった。