0469:補償の話。
2022.09.09投稿 2/2回目
急いでこちらへとやって来た馬車から、ウーノさまがエスコートを受けながら降りてきた。議題の一つに入った所だったけれど、彼女の登場により一時中断。足早にやってきた彼女は、私たちの前に立って深々と頭を下げる。
「陛下、アルバトロスの皆さま。遅れてしまいましたが、同席をお願い致したく。アガレス帝国第一皇女、ウーノと申します」
頭を上げたあと同席の許可と名乗りを上げた。皇帝はウーノさまの同席を快く認めたあと、私たちへと顔を向けて同意を求める。
「構わんよ」
「ああ」
公爵さまもディアンさまにもウーノさまに関する説明は終えてある。帝国でまともに話が出来そうな数少ない人だと告げているので、拒否をする理由はない。
「ありがとうございます。先ほどはアインが無礼な態度を取り、私の頭では足りぬやもしれませんが申し訳ございませんでした」
そういえば皇帝の口から殿下が不躾な態度を取った事への謝罪はなかったなあ。そこまで頭は回っていなかったのだろうし、宰相閣下も第一皇子の対処だけで手一杯だったか。国それぞれに内情をいろいろと抱えているよねえ。アルバトロスも元第二王子がああなってしまったのだから。
「今度こそ始めようぞ。ウーノ、吾の代わりを務めてくれ」
あれ、皇帝はウーノさまを割と信頼をしているようだ。ハーレムを維持する為に本能的に選んだのかもしれないけれど。ウーノさまが皇帝の座に就くには、男尊女卑だという帝国では難しいというのに彼女はその座を目指している。
もしかして皇帝の後ろ盾をすでに手に入れているのだろうか。で、あれば先は明るいのかも。あんなのと言ってはアレだが、皇子たちよりも優秀なようだから、まだ信頼は出来る。
全幅の信頼は出来ないけれど、第一皇子と交渉するよりもずっと楽だ。第一皇子の失礼な態度を諫めようとしていたし、謝罪をしてくれたのは彼女たちのみ。謝罪の場が皇帝の名代であれば一番良かったけれど、望めそうもないから諦めるしかない。
「承りました、陛下。――アルバトロス王国、亜人連合国の皆さま、若輩な身ですが陛下に代わり場を預からせて頂きます」
皇帝に頭を下げた後、ウーノさまはこちらへも頭を下げた。ようやく本題に入れると息を吐くと、公爵さまがふっと笑い。
「色よい返事を期待する」
「道理に反しなければ問題ない」
公爵さまは帝国から分捕る気満々だ。ディアンさまは決まり事に反しない限りは強く出る気はないのだろうが、問答無用で拉致されたことは怒っているはず。だからこそアルバトロスと亜人連合国の共闘戦線が出来上がったのだから。まずはウーノさまの出方を拝見だろう。
彼女ならば大丈夫なはずだけれど、政治の場面に確りと関わったことは少ないだろうから。私も人の事は言えないが表舞台へと立つこともあった。もの凄く不本意だけれど、必要な事態となってしまったのだから仕方ない。
「再度になってしまいますが、此度は我が国の第一皇子であるアインがアルバトロス、亜人連合国、そして聖王国の皆さまへ多大なご迷惑をお掛けしたこと真に申し訳ありませんでした」
あ、第一皇子は切られるかな。中央広場で彼の地位が落ちるように、帝都に住む人たちへ今回の事を吹聴しておいた甲斐があった。聖王国の大聖女さままで巻き込んでいるから、帝国は大変だろう。謝る国が多くなるんだし、補償もしなければならない。
巨大な国だから資金は多いかもしれないが、本来充てるはずだった場所へお金を回せなくなるだろうから。発展という意味では今回の件は、痛手でしかない。
「謝って済む問題ではありませんが、なにとぞお許しくださいませ」
ウーノさまは謝罪の言葉の後に第一皇子殿下を処罰することと、この件を手引きした第六皇子も処罰の対象だと告げて補償の話に入るけれど、公爵さまが彼女の言葉を右手で遮った。
「話の途中で済まないが、まずは東大陸における黒髪黒目信仰をどうにかせねば、同じことが起こりかねん。根付いた信仰を我々がどうこう出来る立場ではないのだが、何かしら手を打たねばなるまいて」
「そうだな。しかし、どうしたものか……。東大陸で我々の顔が利くとは思えない」
あれ、もしかしてウーノさまに花を持たせようとしているのだろうか。東と西の各国で召喚儀式魔術を禁止する条約を結べば、多少の抑止にはなるはずと提案しておいた。
もちろん、公爵さまとディアンさま、ウーノさま双方に説明済み。帝国は東の覇権を握っているのだから、どうにかなるはずだろう。黒髪黒目を信仰しているならば、黒髪黒目の者が提案者だと告げれば納得しやすいだろうし。
「では、東と西の大陸双方で条約を結びませんか? 召喚儀式を禁止すれば多少の効果はあるはずかと」
条文に黒髪黒目の意志を尊重しろと付け加えてくれると尚有難い。交渉開始したばかりだから、これから何度も協議しなければならないだろうけれど、第一皇子みたいな目先の利益だけを求める輩は排除できる……はず。あとは副団長さまとロゼさんに術式を解析して頂いて、抵抗出来る魔術具を作ってもらうとか。
「では西大陸は我らと亜人連合国が賛同者を求めよう」
「東大陸はアガレスが集めましょう」
本当に順調だなあと、目を細める。出来る人たちで纏めれば、こうもすんなりと進むものなのか。グダグダな展開しかみたことがないし、こういうのって長引くイメージが頭の中に根付いているから意外というか。
「では補償の話に移るかね。――」
召喚禁止条約の話しも大枠がまとまると、公爵さまが補償の話に変える。矢継ぎ早にお金のことを告げる公爵さまに帝国側の顔色が悪くなっていくけれど、謝ってしまった手前反論も出来ずに頷くことしか出来ない。
お互いに書記官を帯同させているから、公式記録として残る。
金額に納得できず帝国の方が反論しようものならば、ウーノさまの謝罪が無意味なものになってしまうし場が荒れるだけ。ついでとばかりに遠征費とかも請求しているし、公爵さまやるなと感心する。
お金にあまり執着していない亜人連合国の分まで求めているので、容赦がない。聖王国やメンガー伯爵家による補償の話は、後日別口で場を設けて欲しいとも願い出ていた。
煤けている帝国上層部とウーノさまたちの顔を見つつ、第一皇子の行動を知っておきながら事前に止められなかったツケが、今になって回ってきただけ。両手を上げてジャンプしてもお金は出てこない、という状況までにはなっていないのだから、素直に諦めてくださいと心の中で両手を合わせるのだった。