0468:次に出てくるのは誰。
2022.09.09投稿 1/2回目
第一皇子が近衛兵の方々によって会談の場から下げられた。彼の声がまだ届いているけれど、誰も気にする様子はなく。始まる前に直情な第一皇子が排除されたのは、アルバトロスと亜人連合国にとっては良い事だろう。
ただ会談場所には皇帝と上層部しか居ないので、少し心もとないというべきか。やはり、ウーノさまが居ないと話が進み辛くなりそうだ。宰相閣下は有能だろうけれど、全権を握っている訳ではない。やはりそこは皇帝が握っているようで、最終決定は皇帝自身が下しているのだから。
他の人たちも同席しているし、一筋縄ではいかないだろうなあ。第一皇子が退場しただけで、他にも皇子たちは居る。第一皇子殿下に成り代わって、皇太子の立場を手に入れたいと考えるだろうし。
『居たわよ。こっちに来るのを邪魔されていたみたいね。彼女の邪魔をしていた子たちは眠らせておいたから、遅れてこちらへ来るんじゃないかしら』
良かった。ウーノさまは無事だそうで、会談場所に姿を現すことを塞がれていたようだ。お婆さまが邪魔者は昏倒させたようなので、彼女が現れるのは時間の問題だろう。ふうと息を吐いて前を見る。皇帝を中心に宰相閣下、重臣の人たちに残りの皇子が数名。
次は誰が喋り始めるのか観察している私を、見つめる人物がいた。誰だろうと同じように見つめていると、にへらと笑って一歩前に出た。座る為の椅子が用意されていない時点で、会談で喋る機会は与えられていないということなのに。誰も止めないし、他の皇子殿下が失脚したとしても関係ない。ウーノさまの地位が盤石なものになるならば、今仕出かしてくれた方が良いのだろう。
「第六皇子、ゼクス・アガレス。今回の召喚儀式を第一皇子殿下に教えたのは俺なんだあ」
公式な場での言葉遣いがなっていない上に、皇子殿下の一人だというのに態度が軽い気がする。彼が今回の事の発端のようだ。
どうやって召喚儀式を執り行ったのか興味があるのか、副団長さまの雰囲気が変わった。影の中に居るロゼさんも、テンションが上がっている。ロゼさんと副団長さまは本当に魔術が好きねと呆れてしまうが、そのお陰で古代魔術を習得することが出来たので文句は言えない。
伸し上がる気はないけれど、お金儲けして自分の地位を盤石なものにしたいらしい。このままだと帝国貴族のどこかの家へ婿入りコースが確実。一生、皇宮で暮らす為に第一皇子殿下へと提案したんだって。本当はここではない何処かの世界から黒髪黒目を召喚するはずが、何の手違いか自分たちが住む世界の黒髪黒目を呼んでしまったと。
「ねえ、俺をアルバトロスへ連れて行ってよ。君が竜を従えているというなら、金に困ることもなさそうだ。――」
好き勝手な発言がまだ続いている。婿入りは嫌だけれど、贅沢が出来そうなので一緒に暮らすのはアリなんだとか。……食客扱いならばいけるかと一瞬考えを巡らすが、タダ飯喰らいは遠慮願う。ビキビキと顔が引きつっていくのが分かるけれど、言いたいだけ言わせてしまえばいいかと我慢していれば、宰相閣下がまた皇帝へ耳打ちしている。自分で判断して欲しいと陛下へ視線を変えると、第六皇子に顔を向けた。
「ゼクス。ここは会談の場、静かにしろ。――失礼した、彼の者へは確りと言い聞かせよう」
「ええー……まあアピールは出来たから良いか」
皇帝の言葉に凄く雑に返事をして、すっと後ろへ引いた第六皇子。なんだろう、何も言葉が出ないとでも言うべきか。ずっとしゃしゃり出たままだった第一皇子よりはマシだけれど、国政を司るとしたら軽すぎて心配極まりない。
「子が多い故か、教育が行き届いておらぬようで」
公爵さまが嫌味で返した。男児十五人、女子五人の総勢二十名も居るのだから、教育に難があっても仕方ないのだろうか。アルバトロスとヴァンディリアもあまり帝国のことは言えない。本人の資質もあるのだろうけれど、教育失敗は周囲も何かしら問題があったのかもしれないし。
「子が多いのは、吾が女好きな証明。教育が行き届かぬとも、周囲が吾や子を支えてくれる。問題ない」
すごーくドヤ顔をした皇帝が、自信満々に言い切ってしまった。普通は恥じるべきことだけれど、女好きに特化しすぎて自信に昇華されているのが凄い。
私も皇帝を見習うべきなのだろうか。身の回りでいつもいつも問題が起きるのは魔力量の多さが原因で、私の所為ではないと。何かしら問題が起こっても、周囲が助けてくれるから放置しても構わないと、彼のように言い切りたい。
「…………」
「……」
皇帝の言葉に呆れてしまい、黙ったままの公爵さまとディアンさま。この二人から言葉を失わせるだなんて、驚いた。驚いたけれど、驚いた内容がかなり情けない気がするけれど。でも、周囲が支えてくれると言い切ったのは、周りには有能な者が多いということなのか。
宰相閣下は苦労人みたいだけれど上手く皇帝を導いているようだし、他の面子もこの様子を静かに見守っている。必要以上に口を出さないのは、宰相閣下を信じているからだろうか。
「さあ、今回の件を話し合おう。――宰相、皆よ、吾は宮へ戻りたいから早々に済ませよ」
うん、ハーレムに戻りたいのね。私もアルバトロスへ早く戻りたい。竜に乗っても時間が掛かるだろうし、いつになれば戻れるのだろうか。聖王国はフィーネさまがアガレス帝国へと拉致されたことすら知らないだろうし、メンガーさまもお家の方は知らないだろう。
心配しているだろうから、早く戻るべきなのだけれど。皇帝が言うように早く終わらせたくとも、手順や手続きもあるだろうし。面倒なことばかりだが、やるべきことはやっておかないと。また召喚されても問題だし、召還儀式の術式が東大陸の他国に流出して真似されても困る。
『なんだか個性が強すぎないかしら?』
お婆さま、言っちゃ駄目な台詞な気がします。それを言うと、メンガーさまの膝の上に居る髑髏の幽霊も問題だろうに。
『あれは幽霊じゃないわよ。もう立派に精霊ね』
浄化儀式の詠唱しても消えなかったのはその所為なのだろうか。あと数年早ければ浄化が成功していたのかも。
出来れば出会いたくない類のモノだったけれど、出会ってしまったのだから仕方ない。帝国の土着している幽霊だから、アルバトロスへは行けないだろう。なので髑髏の幽霊とはアガレス帝国のみの付き合いだ。
『精霊って認めない気ね……』
認めるともっと偉大な精霊へと進化しそうなので、幽霊以外と認める訳にはいかない。お婆さまが私の耳元でくすくす笑いつつ、メンガーさまの膝上でどんよりしているしゃれこうべ。髑髏の幽霊を連れて帰るならば、帝国で適当な人材を拾って帰る。第六皇子はノーセンキューだ。
本題に入ろうとした所で、帝国の壁門から一台の馬車がかなり急いでこちらを目指していた。
お知らせ:第三回集英社web小説大賞・金賞を頂きました。書籍化です! 改めての挨拶は活動報告で述べたいと思います。やったぜっ!(o゜◇゜)ノ