0463:使者への返事。
2022.09.06投稿 1/2回目
アガレス帝国からの使者の兵士は代表格の方を先頭にして、残りの九騎は後ろに控えている。
「アルバトロスの軍勢とお見受けする! 私はアガレス帝国の使者である! 代表者との面会を望む!」
竜の大群を見て訪れたのだから、決死の覚悟を持っての行動なのだろう。命令だとしても私は嫌だ。代表の皆さまは一体誰からの命でやって来たのだろうと、首を傾げる。皇帝やウーノさまの命であれば無難に決着がつきそうだが、第一皇子からの使者ならば碌な展開にならないかも。
第一皇子からの使者を許したならば、陛下やウーノさまも無能扱いになるけれど。彼の暴走を抑えられないなら、帝国なんて広大な国を治められるはずはない。
「アルバトロス王国代表! フランツ・ハイゼンベルグ公爵である!」
隊の先頭に立っていた公爵さまが、離れた場所でこちらの出方を伺う使者に向かって叫ぶ。大音声は野太いよく通るもので。公爵さまの顔は見えないけれど、にたりと笑っているに違いない。
「亜人連合国代表だ!」
信頼のない相手に名乗る文化のない亜人連合国。ディアンさまははっきりとした声で立場だけを相手に告げ。名乗る文化がないと知ったアガレス帝国側はどんな反応を見せるのだろうか。
無礼だとか言い始めたら、相手の国の文化を尊重できない国と言われることになる。東大陸では覇権を握っているから横柄な態度でも許されていたけれど、ちゃんとお使いできるかなあと公爵さまの背中とディアンさまの背を見た。
「さて、どうでる?」
「舐めた態度でしたらば閣下がお許しにならないでしょう」
ソフィーアさまとセレスティアさまが小声で相手の出方を伺っていた。とはいえ彼女たちは見ているだけが精々だ。
口を出す権利はなく私の側で控えているだけ。ただ高位貴族のご令嬢さまのお二人。怒っているので並みの方なら怯んでしまうだろう。メンガーさまは苦手なようで、合流してからというもの居心地悪そうにしている。フィーネさまも周りに居る人たちに気を使っているようで、落ち着かなそうな雰囲気だった。
『しっかりせい。男であろうが!』
「いや、でも俺は何の権限もありませんよ?」
居心地悪そうにしているのは髑髏の幽霊の所為かも。しゃれこうべから元の姿に戻って、メンガーさまと漫才を繰り広げている。
『馬鹿をいう。巻き込まれたのだから帝国から金をふんだくってやるくらいの気概を持たんかい!』
「それは……俺の父親がやるべきことでは?」
『たしかまだ成人しとらなんだか。だが上り詰めるいい機会じゃぞ! しゃんとせんかい!』
お貴族さまなので将来を考えると慣れておいた方がいい気がするけれど、無理もないか。召喚されてから怒涛の一日だっただろうし、助かったという安堵もあるだろう。まあこの竜の大群の中で落ち着いていられるかどうかは疑問だけれど。
公爵さまとディアンさまの後ろに私。その後ろにはジークとリン。左隣にソフィーアさま、右隣にセレスティアさまが立っている。ダリア姉さんとアイリス姉さんも私の近くにいるし、白竜さまもといベリルさまも。
お婆さまは私の肩の上に乗ったままだ。彼女曰く、東大陸は魔素が薄いので私の側の方が居心地が良いんだって。体長五メートルほどのクロは、少し離れた場所で他の竜のみなさまに事情説明をしていた。怒りを露わにする方に、私の方を向いて何かしらを伝えようとする方様々である。
馬から降り、副官の人を連れて二人だけでこちらへとやってきた兵士の方。兜を脱いで脇に抱えて、公爵さまとディアンさまに頭を下げた。
「私はアガレス帝国近衛軍大隊長――」
どうやらアガレス帝国軍隊のお偉いさんのようだ。名乗った後、今回の出来事の件を詫びて会談の席を設けたいと申し出た。場所は皇宮、時間は二時間後、帝国側は皇帝陛下を始めとした第一皇子殿下陣に皇女殿下方が出席するんだとか。
第一皇子が居るならば場が荒れてしまいそうだけれど。その時はその時と割り切り、私たちも同席することになるんだろうか。また皇宮に行くのは面倒だけれど、公爵さまに来いと言われれば、はいと言うしかない。
「会談の場所はこの場で構わんよ。我々は小国の者、アガレス帝国帝都の皇宮に足を踏み入れる資格などなかろうて。皇帝陛下方にはそうお伝え願いたい」
「公爵殿の言う通りだな。我らが立ち入る訳にはいかんだろう」
公爵さま、以前の使者の件を根に持っているんだろうか。ディアンさまもディアンさまで、なんだか威圧的だし。所でこの場で会談を行うなら、帝国のお偉いさんたちが竜の皆さまに睨まれながら交渉することになる。
「我々が向こうに赴く理由はないな」
「興味もありませんしね」
ソフィーアさまとセレスティアさまの言葉に、うんうんと頷くダリア姉さんとアイリス姉さん。お二人は帝国の方たちに恐怖体験をして頂きたいだけじゃなかろうか。
『私も一緒に悪戯しなきゃ!』
お婆さま、こっちは魔素が薄いから大人しくしているのでは。
『貴女が側にいるから問題ないわね。ふふふ、何をしようかしら!』
また心の中を読まれていると微妙な顔になりながら、酷い悪戯にはなりませんようにと目を細める。出来れば第一皇子殿下一派にお願いしますと願う。
『金鎧の偉そうな男を狙えば良いのね!』
私そこまで言っていない。何故第一皇子殿下の姿が金ぴか鎧の気の強そうな偉そうな男性なんて、ちっとも思っていなかったのに。今度は私の記憶まで見えるようになったのだろうかと頭を抱えつつ、視線は公爵さまと帝国からの使者。
「私に判断をする権限はありません、必ずやお伝えするとだけお約束いたしましょう」
「理解しておる。――我々はこの場で待機させて頂く。色よい返事を期待していようぞ」
流石に妙な人選ではなかったようだ。始終丁寧な態度であったし、公爵さまとディアンさまにへりくだることもなく対応していた近衛大隊長。今度はまともに話が進みそうだけれど、懸念事項は残っている。
帝国ってスンバラシー! という第一皇子殿下一派だから、小国が文句を言うなくらいは真顔で叫びそう。皇帝はヒロインちゃんをチラつかせればどうにでもなる。その代わり宰相閣下が禿げそうだけれど。ウーノさまも厳しい未来しかなさそうだが、第一皇子殿下たちを切ると決めたのならばその道を進むしかない。黒髪黒目である私が他国所属だったことと抗う力を持っていることは、彼女にとっては好都合だったみたいだし。
私が何の力も持っていなければ、第一皇子殿下一派の言いなりになるしかなかったと考えれば微妙な気持ちになる。ここではない何処かの世界から黒髪黒目の人が呼ばれなくて良かったと、馬に跨り皇宮を急いで目指す使者の方の背中を眺めるのだった。
歯医者に行くので、感想返しは夜にします!┏○))ペコ
【お知らせ】公爵さまのファーストネームが被っていたので、ヨアヒム→フランツへ変更です。アタマオハナバタケー戦隊の一人と被ってましたorz 2022.09.06 20:15改訂