0462:本隊に合流。
2022.09.05投稿 2/2回目
ひえー……壮観だねえ。竜の皆さまが帝都の外に待機しているし、軍の皆さまが隊列を組んで待機している。竜騎兵隊の皆さまも居るので、かなりの数が帝都東側の空き地に集まっている。壁の上では帝国側の兵士の皆さんが慌てふためいているようで、上官らしき人が指さして命令を下しているようだ。
地上を行くヴァナルは無事に壁の外へと出た。クロの背に乗って様子を伺っていたけれど、アクロバティックな動きをしていたしメンガーさまは平気だろうか。ジークが居るので振り落とされることはないけれど、乗り物酔いをしそうな勢いで動いていた。壁は勢いを付けて斜め方向に駆け上がって越えていたから怖かっただろう。
ヴァナルが先に本隊との合流を果たしたのを見届けてから、クロはゆっくりと地上へと降りる為に高度を下げる。クロの到着に本隊の先頭に立っていた公爵さまが、片手をおでこの位置に当てて陽を遮って私たちを見上げている。
隣にはディアンさまとダリアさまにアイリスさまが居るし、あの光っているのはお婆さまだろう。もう一人ディアンさまと同じ背の高さで角の生えた白いお方が居るけれど、もしかして白竜さまだろうか。人化した所は初めて見るので、後でちゃんと挨拶できるといいな。
公爵さまの横には意外な人まで居るし、なんだか見知ったアルバトロスの面々の顔もチラホラ控えている。
『降りられる? もう少し屈む方が良さそうかなあ』
地面へと辿り着いたクロが私たちに気を使ってくれると、一番最後方に居た彼女が口を開く。
「大丈夫、私が先に降りるから」
『ロゼも降りる!』
リンがひょいとクロから身軽に降りて手を伸ばしてくれる。ぴょんと飛んだロゼさんが離れたので、両手が自由に使えるのでリンの手を掴むと、何故かひょいと抱えあげられて地面へと下ろされた。フィーネさまには普通に手を伸ばして、エスコートしただけ。扱いの差に解せぬと見守りつつ、ジークとメンガーさまとヴァナルがこちらへとやって来たと同時。
「ナイっ!!」
聞いたことのない大きな声で私の名が呼ばれ、声の主に顔を向けるとばふっと抱きしめられる。
「良かった、無事だったんだなっ!」
心底安堵したような声が届くけれど前が塞がれて真っ暗である。声で私を抱きしめたのは誰か分かるし問題はないけれど、胸の谷間に私の顔がジャストフィットしているが故に息苦しい。
その上、抱きしめられた両腕に力がどんどん籠っていって、締め上げられているのだ。リンの考えなしの全力の抱擁よりマシだけれど、骨が軋む上に服の布が厚いのか息苦しくなっていく。
こんなに心配されていたのが意外だと、見えない顔を思い浮かべる。彼女は自身の益の為に私の側に控えると言っていたけれど、それ以上のものを彼女は私へ思っていてくれたのだろうか。その気持ちが少しだけでもあるというなら、こんなに嬉しい事はないのかも。損得勘定で動くお貴族さまだし、私は彼女へ迷惑しか掛けていない。
それでもこうして心配されていたのならば、一緒に居て良かった。でも、そろそろ酸欠になりそうなので、解放して欲しいなあ。このままあの世に行って、死因を告げられたとき凄く恥ずかしい。胸部で圧迫による窒息死だし。
「ソフィーアさん、ナイが呼吸出来ていませんわ。そろそろ解放してくださいまし、子爵家当主を絞め殺したとなれば問題でございましょう」
「む? ――ああ、すまないっ! 大丈夫か?」
慌てて私の肩を掴んで解放してくれたソフィーアさま。もう少しでお空の上を駆け登っていたなあ。
「大丈夫です」
リンで慣れていますからとは言えず。
「帝国で何もされていないなっ!?」
「されていません、むしろ私が暴れまわっていましたから」
命の危機がリンの抱きしめとソフィーアさまの抱擁とは言い出せない。彼女を安心させる為に冗談吹かして私の方が何かしていたと伝えると、ソフィーアさまは長い息をひとつ吐いた。
「ナイが無事で良かったですわ。で、どうしてヴァナルが大きくなっているのかと、何故特進科のメンガー伯爵家子息と聖王国の大聖女さまがいらっしゃるのでございましょう? あとアレらも…………」
セレスティアさまが私を心配しつつ状況を問うてきたんだけれど、最後の一言は二トーンくらい声が下がっている上に魔力を放出して威圧しているんだけれど。怖っ、怖っ、と恐怖を覚えつつ、私に向けられたものじゃないからいっかと開き直る。
「そろそろ良いか?」
ざす、と地面に杖を突いたハイゼンベルグ公爵さまが私に向き直りながら声を掛けた。一応、タイミングを見計らっていてくれたらしい。
「状況を鑑みるに、ややこしい事になっていそうだな。……よく無事だった、ナイ」
ふうと深い息を一度吐いた公爵さまに、私は向き直る。
「閣下、この度は多大なご迷惑をお掛けいたしました」
本隊の責任者である公爵さまに頭を下げた。本当は謝る必要なんてないのだけれど、こうした方が穏便に事を運べるので必要なことだ。嫌々動員されている人も居るだろうし、そんな状況で私が横柄な態度を取ればもっとやる気を失くしてしまう。
「構わん。お前さんを拉致したアガレス帝国に責任があろう」
杖を持ちあげて腕を組む公爵さま。やる気満々の公爵さまから少し視線を外すと、副団長さまに外務卿さまや宰相補佐さまが居たので、軽く頭を下げておく。この状況下でも仕事として付いてきたようだった。ということは政治的交渉も視野に入れていたのだろう。副団長さまは、荒事に陥った際の火力としてだろう。
「邪魔をする。――無事だったか、良かった」
帝都の空に巨大な黒竜が飛んでいたので、ディアンさまだろうと踏んでいた。いつの間にか人化していたようで私の下へやって来ると、他に人影が三つ。
「ナイちゃん!」
「ナイちゃん~! 心配したんだよう。無事でよかったあ」
ばふっとダリア姉さんとアイリス姉さんに両方から抱きしめられる。
『何をやっているんだか』
ぱっと光ってお婆さまが現れた。こっちの大陸は魔素が薄いので節約なんだそうだ。無事でよかったと言いながら私の側に寄って肩の上に乗る。
「ハンベルジャイトと申します。ベリルとお呼びください」
白髪に白い角、赤い瞳の持ち主は白竜さまだそうで。人化した姿は初めてなので、名乗りを交わしたのだった。ちなみに正式な名前は、背をかがめて近づき私にだけ聞こえるように告げられた。
「また恰好付けてる~」
「本当にスカしているわね」
ふんと鼻を鳴らすエルフのお姉さんズ。相変わらずだなあと苦笑いしながら、今回起こった事を、大雑把にこの場に居る人たちへ説明した。何故黒髪黒目でない聖王国の大聖女さまや、一介の伯爵家子息でしかないメンガーさまが巻き込まれた謎も、あの二人も一緒に召喚されたのかの謎も告げておいた。
まさかそんなことがと驚くアルバトロスの面々に、可能性としてあるかもという考えの亜人連合国の皆さま。副団長さまはうっきうきの顔なので、戻ったら一悶着ありそうだと目を細めるが、今は対アガレス帝国の事が主題だろう。対応策を話し合っていると、騎馬隊の兵士がこちらへと駆けて来た。その数十名。アガレス帝国の者だと一目で分かった。
「アルバトロスの軍勢とお見受けする! 私はアガレス帝国の使者である! 代表者との面会を望む!」
私たちとは少し離れた場所で手綱を操り馬を止めて、名乗りを上げる隊長格の人。これから政治的なやり取りに入るけれど、私の横に立って不敵に笑う公爵さまに勝てる人は居るのだろうかと首を傾げるのだった。