0458:本隊到着目前。
2022.09.04投稿 2/4回目
――皇宮をもう一度目指す。
クロの話だと、本隊の到着はお昼くらいになるんじゃないかと。陽は随分と昇り、この感覚だと午前九時くらいだろうか。
開店時間が早いお店だと既に商売を始めている所もある。クロが飛んできたことで、お店は臨時休業なのかなと考えていたけれど、帝都の皆さんも生活がある故か商魂逞しいようだった。ただ私たちの後ろを付いて来ている人たちは不安だらけなんだろうなあ。中央広場で煽り捲った末に帝都が火の海に包まれると脅したから。
本隊到着まで時間はあるのでゆっくりと目指すことになった私たち一行。ヒロインちゃんが居ることをジークとリンが遅れて認識したけれど、黙ったままだった。ちょっと怖いから何かコメントを頂きたい所だけれど、聞いたところで不快な気持ちにしかならないだろうと止めた。
クロとヴァナルには銀髪くんに縁があるはずなのだけれど、大して気にはしていないようだ。まあ、ヴァナルは銀髪くんにおしっこを引っ掛けて気は済んだようだけれど、縄を噛んで引っ張ってくれている。
ロゼさんの話では軽量化の魔術を解いても大丈夫らしいが、ヴァナルに負担が掛かるのでそのままだ。クロは亜人連合国の方々に任せるのだろう。クロ本人よりも厳しい処罰になるのは確定だろうから。
『ねえ、どうしてフィーネやエーリヒも一緒に召喚されたの?』
やはりそこに辿り着くよね。帝国が狙ったのは黒髪黒目の者。なら、黒髪黒目でない彼らが召ばれた理由に疑問を持つのは当然で。ヒロインちゃんと銀髪くんにも向けるべき疑問だけれど、相手にすると面倒なことになるだけなので、お二人だけに問いかけた方が正解だろう。
「どう説明すれば良いかな……私は経緯を話しても問題ないんだけれど、フィーネさまやメンガーさまにも都合があるだろうし……」
振り返って問いかけると彼と彼女はうんと頷くしかないからなあ。
『側に居て巻き込まれた訳ではないんだのう』
私たちを最初に脅して逃げた先でカミングアウトすることになったのだけれど、髑髏の幽霊は聞いていなかったのか。ちなみに髑髏の馬に乗って移動している。ロゼさんは髑髏の馬にも興味を示して、体を這いずっている。少し前は馬の顔を再現していた。擬態の一種だろうけれど、何をしているのやら。
幽霊は自分で歩く気はないらしい。元王さまだから当然かという気持ちと自分の足で歩けば良いのにという気持ちが私の中でせめぎ合っているけれど口にしたら負けだ。我慢我慢と唱えつつ、私も皇宮を目指しつつ話を続けようかどうか悩む。
「私は構いませんよ。皆さんに露見したとしても、何か変わってしまうとは考え辛いですから」
強くなったなあ、フィーネさま。出会った頃なら尻込みして悩んでいただろうに。私は転生者であることがバレてしまっても、幼馴染組に拒否されなければ問題はなかった。本当は彼らに最初に打ち明けるべきだけれど、流石に思い通りには事は運ばないらしい。
あとでクレイグとサフィールにも打ち明けないとね。クレイグは嘘だろと言って叫びそうだし、サフィールは目を丸くして驚きつつも受け入れてくれるだろう。ジークとリンも何だかんだで受け入れてくれるはず。予定は狂ってしまったが、幼馴染組で話す時にきちんと向き合わないとね。子供らしくなかったから違和感は抱えていたかもしれないが、生き残る為に黙って付いて来てくれたもんなあ……。
「俺は伯爵家の子息に過ぎませんし、大聖女さまや黒髪の聖女さまより影響力は低いですから。問題はありません」
メンガーさまも話して大丈夫なようだ。おそらくご両親にも話していないのだろう。転生者であることを受け入れるのは並大抵じゃあ出来ないだろうし、下手をすれば家を追い出される可能性もある。
サバイバル技術に自信があるなら問題ないかもしれないが、魔物も居るこの世界で成人もしていない若者が急に外の世界に放り出されれば困る。元々貧民街生まれとかならば仕方ないけれど、彼の今生はお貴族さまなのだから。
『そんなに卑下しちゃ駄目だよ。挨拶もちゃんと済んだし、仲良くしよう?』
クロが体を捻ってメンガーさまへと顔を向け、声を掛けている。
「……ありがとうございます」
私も後ろを振り向いて、メンガーさまに向かってひとつ頷くと、彼の隣を歩いているフィーネさまも頷いていた。意味がちゃんと伝わるかは分からないけれど、同じ転生者同士仲良くできれば良い。性別の差があるので中々難しいかもしれないけれど、お貴族さまとしてならある程度の交流は持てるだろう。
『――で、どうして黒髪黒目でないのに召喚されたんじゃ?』
空気を読めよと言いたくなるのを我慢した私は偉い。確かに脱線気味だったし、話の本筋に戻ったのは有難い事だけれど髑髏の幽霊から意見を言われたのがなんだか腑に落ちない。
でもまあ聞き出されるのは時間の問題だから、今言おうが後に告げようが同じだろう。メンガーさまとフィーネさまに顔を向けて、大丈夫かと無言で問うと確りと頷く二人。
「私たちには前世の記憶があるんだ。で、生まれ故郷の特徴が黒髪黒目なんだよね」
私は奇しくも同じ黒髪黒目に生まれて、召喚の際には最も誘引されやすかったんだろうけれど。メンガーさまとフィーネさまにあの二人まで引き寄せられたのは、本当に不思議。魔術の術式に日本人が呼ばれる要素があれば、少しは納得できるかもしれないが今はまだ謎に包まれたままだ。
『へえ』
『おお!』
『マスター凄い!』
クロが真っ先に声にして、髑髏の幽霊が感嘆の声を上げ、ロゼさんは何故褒め称えているのだろうか。人ならざる者たちからは嫌悪感や疑問はあまりないようだった。
「は?」
「え?」
ジークとリンが若干戸惑いつつ、声を上げた。こっちの反応が普通だよね。いきなり転生者だと告げても、直ぐに納得は出来ないだろう。二人に教えたということは確実にアルバトロス上層部には知れ渡ることになるだろう。私も隠すべきことでもないと考えているから問題ないけれど、メンガーさまは大丈夫だろうか。
聖王国で大聖女という身分にあるフィーネさまならば身の安全は確保出来るけれど、伯爵家令息でしかない彼の身は大丈夫だろうか。物珍しさに彼を攫う人物が現れないとも限らないから、報告書には警備体制の話も付け加えておいた方が良さそう。
メンガーさまに前世での専門的な知識があれば、こちらの世界で役に立つ可能性は大いにある。そういう物を狙う輩も居そうだし、学校で学んだことや働き先をそれとなく聞いておくべきだったなあ。失敗したと反省しつつ、これも報告案件だと頭に刻み付けておく。
「ジーク、リン。今まで黙っていてごめん。私が前から小賢しかったのは前世の記憶があるからなんだ」
貧民街の酷い環境下で生き抜けたのは前世で生きていた知識があったから。なければあの場所で私は早々に命を失っていただろう。 ゲームが舞台とかあまり考えたくないけれど、本来は生きていないキャラだったのだろうなあ。
「気にするなとは言えないが、俺たちが生き抜けたのはお前のお陰だ」
「責める気なんてないよ?」
「ありがと。詳しい話はまた家に戻って話すね」
メンガーさまとフィーネさまに語っていないことはまだある。その部分は個人的なことなので言わなかっただけだ。ただ幼馴染組やクロたちには話しておきたいから。
『じゃあみんなは黒髪黒目繋がりだったのか』
クロが大きくなった体を捻って、メンガーさまとフィーネさまに視線を向けると二人は頷いた。覚悟は決まっているようで、誤魔化す気もないようだ。
『マスター。ロゼ、術式に興味ある! 調べて良い?』
「帝国から許可が下りて副団長さまと一緒なら良いよ。副団長さまに協力してあげてね、ロゼさん」
副団長さまと一緒だと暴走するけれど、確実に調べ上げてくれそうだしアルバトロスの魔術師も加わるだろう。
『分かった!』
中央広場から移動すること一時間強。アルバトロスからの本隊到着の時間もあと少し。






