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0447:【大聖女さま】旅は道連れっていうけれど。

2022.08.31投稿 1/2回目

 ――外は随分と暗い。


 旅が終われば爵位を貰う。乙女ゲームメーカーのファーストIPシリーズ一作目のファンディスクであった、ハーレムルートの結末だ。

 黒髪の聖女さまが乙女ゲーム主人公であるアリスを縛り付けている縄を持って床を引き摺っている。アリスが何も言わないのは、諦めたのだろうか。もう一人、銀髪オッドアイの青年も縛られた縄によって、廊下を引き摺られている訳だけれど、猿轡を噛まされているので喋れない。


 アリスは転生者なのだろう。でなければあんな言葉は出てこない。


 第二王子殿下と側近たちを誑かした罪で幽閉されていると聞いたから、彼女の未来はアルバトロスの幽閉塔の中で一生を過ごさねばならない。だから、他の未来なんて知っている筈はない。だからあの言葉は私のように、ゲームの知識を持ちゲームのキャラに転生した人の言動。しかも間違えた選択を取って未来を失ってしまった、一番駄目なタイプ。


 黒髪の聖女さまが聖王国で怒って竜をけし掛けるという言葉に決意して、大聖女としてちゃんと動いたことにより私の未来は大きく変わった。ゲームのシナリオをあまり気にするべきではないと踏ん切りをつけられたし、聖王国の方々と国を動かしていくのも楽しい。

 

 黒髪の聖女さまと出会った当初、ゲームのシナリオをぶち壊してくれてどうしてくれるのだと嘆くこともあった。聖王国の腐敗っぷりでは、ゲームのシナリオが終わった後に問題が起こっていただろう。結局、遅いか早いかだけの違いだ。ゲームで理解できる事実なんてほんの少しで、聖王国以外にも周辺国やアルバトロスに東大陸の存在がある。


 誰かが少しでも違う行動をとれば、シナリオなんて直ぐに瓦解してしまう。黒髪の聖女さまが良い例だ。彼女は三作目のシナリオを大きく変えてしまっているのだから。ゲームの攻略対象は没落しているし、ヒロインは聖女として教会預かりになり、力を認められ私の側で勉強中。新年度からはアルバトロスに一緒に留学予定で、彼女と一緒に準備をしている最中、召喚に巻き込まれてしまった。


 彼女が巻き込まれなくて良かったと思う。ゲームの主人公らしく真っ直ぐで明るい子だけれど、自分の主張ははっきりと言ってしまうタイプ。今のあの子の状態ならば、アイン皇子に『なんて勝手なことを!』と言って突っかかりかねない。拉致したのは帝国だから問題ないけれど、黒髪黒目ではないから首を斬られてしまう可能性が高いから。


 しかしまあ黒髪の聖女さまも無茶をするものだ。召喚されて三十分で巨大魔石五個を壊してしまうなんて。セカンドIPの冒頭、異世界である日本から主人公が召喚された際に使用された魔石も五個。再利用可能で本来の用途である飛空艇の動力に使われていたはず。

 飛空艇一艇につき巨大魔石が一つ必要となるから、五隻の飛空艇が無駄となった。古代の遺跡から発見された飛空艇。ゲームでは動力が魔石だということ、修理は難しいが壊れることがない為に、古代に生きた人たちを讃えていたけれど。今思えば何でそんなモノが凄いと感じてしまったのか。ゲームだから深く考えていなかった所為もあるけれど、普通に考えれば直せないのは不味いよね。

 

 とりあえず皇宮にある魔石を全て壊すと言っていた黒髪の聖女さま。魔力感知で探すと言っていたけれど、苦手だから時間が掛かるとも言った。

 飛空艇の場所は今いる場所から離れた位置にあるはずだ。専用の格納庫が皇宮の敷地内にある。知っていれば彼女はいの一番にその場に行くはずだろう。嘘を吐くとか苦手そうだし、効率を重視しそうだから、ゲームだと知らないだろう。

 

 アリスの言動で何かしらおかしいとは感じているかもしれない。今のアリスは深く物事を考えず自分を優先する子みたいだから、黒髪の聖女さまが何かしら違和感を覚えるきっかけくらいはありそうだけれど。

 転生、という考え方はこの世界にもあるものだ。けれど、ゲームの世界だという感覚はなかなか理解してもらえないだろう。

 

 ――気付いていない、気付いている?


 黒髪の聖女さまへ第一皇子殿下であるアインの性癖を伝えてみたけれど、あっさりと受け入れただけで終わってしまった。

 状況が状況だから私へ問い質すことが出来ないのは分かる。先ほど自己紹介をして頂いたメンガーさまは、普通の現地の方だろうから。いや、でも、おかしいと気付いてもよさそうなのに。褐色の奴隷問題の時、黒髪の聖女さまに私がゲームの知識を有していると打ち明ける覚悟はしていたけれど。


 どうしてそんなことを知っているのかと問われなかった。今回も問われなかったし、黒髪の聖女さまは一体なにを考えているのだろうか。アリスと銀髪の青年を引き摺りながら、きょろきょろと皇宮の廊下を歩いている彼女は敵地であるというのに堂々としていた。

 アガレス帝国の陛下や第一皇子殿下、皇女殿下方と対等に渡り合える胆力は正直羨ましい。そして召喚に巻き込まれてしまった私たちを必ず国へ帰すと約束してくれた強さも。味方となるとこんなにも安心していられる存在なのだなと、目を細めた私は口を開いた。


 「黒髪の聖女さま」


 自己紹介は済ませたけれど、さっきのアレは私の隣を無言で歩いているメンガーさま向けのものだろう。お互いの身分を明かしておいた方が良いという、黒髪の聖女さまの判断だ。妙な所は気が回るのに、転生者だとは気付いてくれない。


 「はい。――名前で大丈夫ですよ。さっきは機を逃してしまい言いそびれてしまいました」


 前を向いて歩いていた黒髪の聖女さまが立ち止まり振り返る。名前呼びの許可を頂けたのは認めてくれたと考えても良いのだろうか。メンガーさまにも視線を向けていたけれど、相手は男性だから家名呼びが精々だろう。


 「では、ナイさまと」


 「私はフィーネさまと呼ばせて頂きます。どうしました?」


 あれ、会談の場や召喚された場所ではナイさまの一人称は『わたくし』だった。個人的な場面となると彼女の一人称は『私』みたいだ。

 

 「魔石の場所をお探しですよね?」

 

 「はい。また儀式召喚を執り行われると迷惑ですので、自由に動ける間に壊しておきたくて」


 ウーノ皇女殿下と話し合っていた件だ。皇女殿下も思い切った決断を下したと思う。飛空艇は制空権を取れるために重宝されているというのに、あっさりと破壊を許すなんて。多分、飛空艇を失っても帝国は困らないという見積があるのだろう。


 「でしたら、皇宮から出た敷地のどこかに飛空艇の格納庫があります。先ずは外を目指しては如何でしょうか?」


 「よく知っていますね。ならどこかしらの出口を先ずは見つけましょう」


 こてんと首を傾げたナイさまが肩に手を置いて、何かを気にしていた。ああ、そうか。彼女の肩には幼竜がちょこんと乗っていたから。召喚の際にはぐれてしまったのだろう。私も召喚の際には三作目の主人公が側に居たというのに、巻き込まれなかった。

 あれ、じゃあなんて黒髪黒目でない彼ら彼女らはこの場に呼ばれたのだろう。もしかして、アリスだけではなく銀髪の青年もメンガーさまも元日本人だったりするの?


 『モット、ヤレ』


 誰の声でもない声が響き、反射的に音が聞こえた方へと顔を向けた。薄暗い廊下でぼんやりと空に浮いた髑髏が私たちを静かに見ていると理解した、その瞬間。


 「びやぁぁぁあああああああああああああああああ!」


 ナイさまが妙な叫び声を上げながら脱兎の如く、凄い勢いで廊下を走り始める。縄を握ったままなので、銀髪の青年とアリスも勢いよく私たちから離れて行く。お尻部分の布が破けなきゃいいなあと願いつつ、私の横に立っているメンガーさまへと視線を向けた。


 「足、あんなに早いのか……。ミナーヴァ子爵を追いかけましょうか」


 ナイさまの背は同年代の平均よりも小柄だというのに、かなり早い勢いで離れて行く。


 「そうですね、ナイさまから離れると危ないでしょうし追いかけましょう」


 聖王国の教会にはミイラを安置しているし、幽霊も存在している。邪霊ならば払うし、害がないなら放置が聖王国教会の方針だ。

 ナイさまは幽霊的なものが苦手なのか、空中に浮かぶ髑髏を見て怖くて逃げてしまったようだ。最初、髑髏だけだったのにがっちりとした鎧を纏っている姿に変わっていた。メンガーさまと私が同時に走り始めたその時。


 『…………ムシサレタ』


 薄らぼんやりと浮かんでいた髑髏がなにかを言っていたけれど、私たちの耳には届かず。凄く前を行くナイさまを二人で必死に追いかけるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 足早い、というか、火事場の何とか力でしょう モブ君(やっぱ言いやすいコレ)は、ナイの暴走に追い付けるかな? 無理そう……
[一言] ナイちゃん・・・帰還したあとしばらくリンちゃんと一緒に寝そうだな
[一言] ナイちゃんいっつも変なの引き寄せてるな 魔石破壊するのを煽ってるってことは被害者か初代さんとかかな?
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