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0441:セレスティアさま準備完了。

2022.08.28投稿 2/4回目

 ミナーヴァ子爵邸の執務室で雑務をこなしていた家宰さまとソフィーアさんにわたくしが、城からの使者の言葉に驚きを隠せませんでした。ですが、何故でございましょうか自身の落ち着きようは。

 

「ナイが消えただと! 一体どういうことだっ!」


 ナイが攫われてから一時間半程度経っているとのことですが、随分と早い知らせ。おそらくは攫われた現場から転移で城へ参ったのでしょう。

 だん、とソフィーアさんが執務机を右腕で叩きますが、ご自身の腕が痛いだけでしょうに。それに怒ってもナイは戻っては来ません。おそらく黒髪黒目信仰のある帝国が攫ったと考えるのが妥当ですが、魔術にも抵抗できるようにとお師匠さま特製の魔術具を肌身離さず付けておりました。それを搔い潜り攫ったというのならば、アガレス帝国は侮れない相手と言わざるを得ないでしょう。


 アルバトロス王国と東大陸のアガレス帝国との戦争になりかねない事態。嗚呼、いえ、訂正させて頂きましょう。亜人連合国とアルバトロス同盟とアガレス帝国の構図ですわね。……西大陸の一国に過ぎないアルバトロスが、東大陸の覇者である帝国に喧嘩を売るなど暴挙に過ぎませんが、全く負ける気が致しません。帝国へと乗り込むというならば、また巨大な竜の背に乗れる可能性もありますね。ナイ付きの護衛侍女としての役目を万全に果たす絶好の機会でもありましょう。

 

 「ソフィーアさん、使者の方を威圧しても仕方ありません。先ずは城へ赴きましょう。情報を集めなければなりませんわ」


 彼女が慌てる様子は珍しいものでしょう。婚約者であった元第二王子殿下がピンクブロンドの幸せな思考の方に取られた時でさえ慌てず静観を決め込んでいたというのに。まあ能面のような顔で第二王子殿下の相手を務める彼女を見ているのはつまらないですし、わたくしは今のソフィーアさんを見ている方が愉快でございます。


 ナイに振り回され困り果てた顔を浮かべ、彼女を諭す貴女を見るのは不思議と嫌いではありませんから。高位貴族の、ハイゼンベルグ公爵家の孫娘として育てられた貴女は気持ち悪いくらいに完璧でした。


 確かに貴族然とした態度に将来の第二王子妃としては最高の人材でしょうが、血が通っていなかったとでも表現すべきか。


 今は昔の話などどうでも良い事ですわね。ナイを助け出す算段を整えなければならないのですが、アガレス帝国は生きていられるでしょうか。ナイはかなりの無茶をしつつも、寸での所で思い止まりギリギリの線を狙っております。今回も聖王国の時のように帝国を限界まで追いつめて、ふっと引き下がりそうですが。


 「っ! ――すまん、城へ行こう」


 はっとした顔を浮かべてソフィーアさんが言葉を口にして立ち上がりました。わたくしも同時に立ち上がり、子爵家の者たちに声を掛けます。当主が居なくなってしまったことに驚く面々と屋敷の中でふらふらと飛んでいた妖精たちが一瞬にして消えてしまいました。

 これで、亜人連合国にも知れ渡ることでしょう。まあ、城からの使者が飛んできているので、隣の領事館にも同時に駆け込んでいるでしょうが。使者の方は生きた心地がしないでしょう。亜人連合国の皆さま方、特に代表格の方たちはナイをとても気に入っているようですから。


 ふうと息を吐き馬車へ乗り込み城へと辿り着くと、城に勤めている皆さまは随分と慌てている様子で、廊下をすごい勢いで走り抜けて行きます。いつも机に座り事務作業に従事している方たちとは思えません。それだけナイが唐突に居なくなったことに、慌てているのでしょう。


 『ソフィーア、セレスティア』


 ぱたぱたとご自身の翼を広げてわたくしたちの下へクロさまがいらっしゃいました。いつも穏やかなクロさまは少し悲し気です。――全く、帝国は碌なことをしてくれない。王国へ提出された報告書に目を通しましたが、前回の帝国からの使者は横暴極まりないお方。アガレス帝国にはあまり期待できませんねと、ソフィーアさんと話していたばかりです。


 「クロさま! ナイはっ!?」


 『どこかへ消えちゃった。西大陸に居ないことは確かだよ。多分東の大陸だと思う』


 クロの後にはナイの専属護衛である、ジークフリードさんとジークリンデさんが控えているのですが、異様な空気を放っておりますわね。物静かであり、ナイの護衛として存在感をあまり出さないようにと日頃から務めているお二人ですが、今の雰囲気は誰でも斬り捨ててしまいそうなものを背負っております。

 

 「クソっ! 何故、こんなことに!」


 「ソフィーアさん、言葉遣いがなっておりませんわ。謁見場へ参りましょう、今は無制限で開放しているようですから」


 悪態をつく彼女を嗜めますが、あまり効果はなさそうです。本当に珍しいですわね。今はその時ではないので、いつか彼女が必死になっている理由が聞けると良いのですが。

 情報収集の為に皆で謁見場へと歩を進めると、城の主だった面子が集まり沈痛な面持ちで陛下方と話し込んでいました。亜人連合国の方々も既にいらっしゃっているようで、陛下方と話をしております。少し、異様な雰囲気を醸し出しているのはエルフのお二人です。


 「陛下、幽閉塔に閉じ込めているアリス・メッサリナが突然に姿を消したと警備の者が!」


 は、と皆さまが呆けた顔となります。どうしてあの幸せな方も居なくなってしまうのでしょうか。そしてアリス・メッサリナが居なくなってしまったことで第二王子殿下が暴れているそうな。警備の者には迷惑極まりないですが、これ以上の騒ぎは御免被りたい所。大人しくしてくださいましと、鉄扇を広げて口元を隠していると、更に慌てた様子の外務官が駆け込んでまいります。


 「陛下、皆さま! たった今知らせが入りました、聖王国の大聖女さまが行方を眩ませたと一報が!」


 「なんだと! いったいどういう事だ!」


 「分かりません! ――あともう一つ! メンガー伯爵家の子息も学院の宿舎で突然姿を消し、宿舎に残っている者と教諭陣で捜索しているようですが見つからないと……!」


 時間が止まったような気が致しました。同時に四人が消え失せてしまったのですから驚きは隠せません。しかし、黒髪黒目信仰のある帝国がなんらかの手段によってナイを攫ったとしたら。その影響で同時に別の場所で彼ら彼女らが攫われたとなれば、話が綺麗に纏まりますが。

 アルバトロスや亜人連合国としてはナイの身を一番に優先すべきこと。少々ひどい扱いとなってしまいますが、政とはそういうものです。国にとって利が大きい方を優先させる。当然の事でございましょう。


 「すまん、もう一つ知らせだ。――アレも突然姿を消したそうだ」


 アレと言うのは銀髪の手に負えない男性のことでございましょう。代表さまの言葉にまた場が固まります。しかし今は彼らに構っている時ではございません。


 『ボクは単身で東大陸に乗り込むよ。ナイの事が心配だし、帝国もある意味で心配だから』


 クロさまの周りにはスライムとフェンリルも居ます。妖精も集まっているようですし、エルとジョセもどこからか情報を仕入れたようで、城へと参っているようです。


 「しかし御身に危険があれば……黒髪の聖女も悲しむでしょう」


 『大丈夫、大きくなって飛んでいくから。ジークとリンもロゼもヴァナルも一緒だからね』


 陛下の言葉に目を細めながら答えるクロさま。どうやら東大陸にナイが居るのは確実なのでしょうね。クロさまが帝国の帝都へたどり着けば、ジークフリードさんとジークリンデさんで城を制圧できそうな雰囲気があるのですが。ナイもじっとしていない性分でしょうし、下手をすれば今頃はさっさと城を掌握している可能性もありそうでございます。


 なんとも我が主は破天荒であると笑みを浮かべながら、帝国へ乗り込む算段を付けるわたくしたち。さて、向こうへ辿り着くまでに一体どのくらいの時間が掛かりましょうか。どうやらハイゼンベルグ公爵閣下は全軍に命を下し、竜のみなさまと乗り込む気満々のようですが。

 わたくしもソフィーアさんもエルとジョセに乗ることが決定いたしました。ルカには申し訳ないですが、今回はお留守番です。聞き分けのいい子で助かりましたわ。子爵邸で皆さんと一緒に帰りを待っているということです。


 ――さあ、準備は整いました。


 先行は単騎でクロさまが。一緒にジークフリードさんとジークリンデさんにロゼとヴァナルが同道しますが。後詰、というか本隊がわたくしたちアルバトロスと亜人連合国の皆さまとなります。


 アガレス帝国の皆さま、アルバトロスを小国と侮ったツケを払って頂くお時間が参りましたわ!




 ソフィーアさまの視点にするとシリアス方向になるので、代打でセレスティアさまです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜の大群に慄く帝国陣営も見てみたいw
[一言] さぁ、帝国滅亡までのカウントダウンが始まりました。先行のクロとロゼ、ヴァナルにジークとリン、このメンバーだけで帝国を蹂躙出来ますよね。(笑) リンとロゼが怒りのあまり大暴れして更地に成るでし…
[良い点] クロは自制出来るだろうけどガチギレリンさんが暴走しそう、それに乗っかりそうなロゼもヤバイかも
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