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0426:進級試験。

2022.08.21投稿 4/4回目

 アガレス帝国の動向は共和国からちょいちょい情報が齎されているようだ。不穏な動きがあると教えて頂いたけれど、実際にそれが何なのか分からないまま時間が過ぎて行っている。アルバトロス王国も私が狙いと知っているから、副団長さまから身を守るための魔術具を渡されていた。

 他人からの魔術的干渉を防ぐものらしく、身に着けていないよりはマシ程度のものだけれど何も対策を施さないよりも良いだろうとのことで四六時中身に着けることになった。王国上層部の面々や聖女さま方も同じ魔術具を配布されているし、子爵邸の障壁にも改良を加えたらしい。大袈裟な気もするけれど問題が起きてからじゃあ遅いし、必要なことなのだろう。


 三学期もあと残す所一ヶ月。各学科では進級の為のテストが執り行われる。


 「進級テストかあ。騎士科の方って実技が優先されるの?」


 特進科は筆記試験が最重要となっている。頭はあまり芳しくないので、今必死に勉強している所だ。二年生になったらもっと難しくなるのだけれど、勉強に付いて行けるのだろうか。不味くなれば公爵さまから家庭教師がまた派遣されそうだなと苦笑いしつつ、一緒の部屋に居るジークとリンに聞いてみた。


 「ああ。実力主義だからな」


 「あとはある程度の教養で済むって」


 ジークとリンならば何の心配も要らなく二年生に進級できるだろう。ちょっと羨ましいと目を細めつつ、机に広げているノートへ視線を落とす。三学期ともなると勉強内容が複雑になっているので、付いて行くのに必死。こんなに難しかったんだと頭を抱えつつ、学ぶことは嫌いではないので頑張って問題を解かないと。

 留年なんて恥ずかしいし、軍や騎士団の知り合いの方たちに揶揄われるのは分かり切っている。教会の面々にも何をしているのかと言われそうだし、ちゃんと頑張って良い点数を取って進級しないとね。

 

 『ナイ、頑張って』


 『マスターなら大丈夫。だってロゼのマスターだから』


 『人間は面倒よのう』


 クロとロゼさんとお猫さまが、私にそれぞれ語り掛けた。クロやロゼさんは授業の内容を聞いて、ちゃんと吸収しているみたい。

 学院の生徒ではないのでテストを受けることはないけれど、授業は一緒に受けている形だから『面白い』と言って聞いていた。それを知った教師陣は緊張している様子で授業に取り組んでいたけれど、最近ようやく慣れてきたようだった。

 

 「クロもロゼさんもありがとう。ヴァナルもありがと」


 わふと鳴いたヴァナル。子供だった姿から大人の狼くらいの大きさになっており、まだまだ大きくなるそうだ。私の足元で丸くなって大人しくしている。子爵邸の方たちとも打ち解けているし、エルやジョセにルカとも仲良くしている。偶にルカの遊び相手となっていて、追いかけっこをして負けそうになったルカが空を飛んで反則行為に及んだりとなかなか愉快。

 

 成長著しいヴァナルはこのままでは子爵邸に住めなくなると心配していたら、体の大きさは調整可能らしい。もうすぐ言葉も操れるようになるそうで、その時に相談すると良いとクロが言っていた。

 既に狼ほどの大きさなのでヴァナルに凭れ掛かってもびくともしない。お腹に頭をのせて昼寝をしたけれど、もふもふのふっさふさなので凄く幸せな時間だった。それを話すとセレスティアさまが凄い視線を向けてきたので、今度ヴァナルに話して彼女にも同じことをしてもらう予定。

 

 あ、動画や写真を撮る魔術具も完成していて、セレスティアさまがうっきうきで副団長さまから説明を受けていた。高級な魔石ではなく、一般人でも安価に手に入れられる魔石で動くのが売りだから、写真や動画がどんどん増えている。


 取った写真や動画を恍惚の表情で見ているセレスティアさまを、ソフィーアさまが冷めた目で見ていることもあるけれど、それもまた日常のワンシーン。私も時々、クロやみんなを撮ったり、幼馴染組や子爵邸で働く方たちを撮っている。最初、何事かと目をひん剥いていた方たちも副団長さまが作った魔術具だと説明すると納得していた。


 写真がかなり珍しく『魂が移った! 寿命が縮んだ!』とちょっとした騒ぎになったけれど、今は治まっている。スマホの写真機能に慣れた人間と、写真なんてない世界の人たちの差なのだろうけれど、みんなの反応が面白かったのは内緒。クロは写真の魔術具が何かよく分からなかったようで、不思議そうな顔を浮かべていたけれど、実物を見ると驚いていた。

 亜人連合国の方たちとも一緒に撮ったのだけれど、その時の一瞬を切り取るという考えはあまりなく、映し出された自分たちを見てしげしげと眺め、副団長さまに魔術具の製作依頼を掛けていた。副団長さまは副団長さまで、写真の魔術具の作成図を亜人連合国特有の技術と交換したそうだ。


 『ありがとうございます、聖女さま。向こうの技術を一つ知ることが出来ました』


 にっこにこで私に告げた副団長さま。副団長さまが造り上げた技術なのだから、好きにすれば良いのに私へ報告をくれる辺り律儀な方だ。

 あまり広めると絵師の方たちの仕事を奪う形となるので、流通制限を掛けるとアルバトロス上層部が決めた。順当なものだよなと納得しつつ、もう少し気軽に写真を残したい気持ちはある。思い出は大事だし、記憶に残ることもあれば消えてしまうこともある。思い出すことの一助になるだろうし、写真の魔術具は良い品だと思うけれど、困る人も居るのだから仕方ない。

 

 そうしてまた夜が来て、朝が来る。


 「行って参ります」


 「行ってきます!」


 お気をつけてと頭を下げるミナーヴァ子爵邸の面々に見送られていた。三学期からアリアさまとは一緒に学院に通っている。同じ道を通るのだし、護衛の関係もあるから一緒に通った方が効率的。

 私専属の教会護衛騎士であるジークとリンに、アリアさまに付けられた専属の教会騎士の方たちに、国から派遣された軍や騎士団の護衛の方々。アリアさまは最初こそその数に驚いていたけれど、既に慣れたようで馬車の中で気軽におしゃべりに興じている。


 「クロちゃんは、ヴァナルちゃんみたいに大きくならないの?」


 『ボクが大きくなったら大変だからね。魔力で成長を調整しているんだ』


 アリアさまは大胆なことにクロをちゃん付けして呼んでいる。クロもクロで嫌がる素振りは見せず、むしろ嬉しそう。

 ヴァナルはロゼさんに教えて貰ったのか、影の中へと入れるようになっており、私が学院へ赴いている間は影の中。影の中でロゼさんと怪しいことをしていなきゃいいけれど、賢いから何でも吸収していっている。限定的だけれど魔術も使えるようになっているし、一体どこまで強くなる気だろう。ロゼさんは、ヴァナルはまだまだ強くなれると言っていた。なんだか私の周りの戦力が過剰気味だよねと顔が引きつりそうになる。


 「じゃあ本当はもっと大きいの?」


 『うん。前に王都に現れた大きな竜が居たでしょ』


 クロにとって、クロを対等に扱う人は貴重らしい。アリアさまは根っからの性格でクロの事を友達のようにみている所為か、気軽に話す為に話が弾んでいる。


 「あ、教会の……」


 『あの子より大きいよボク』


 しれっと凄い事を言ってのけたクロ。あの雨の日に現れた巨大な竜よりもクロが大きいとは。魔力の力って不思議だねえと考えていると学院へたどり着く。

 いつものようにエスコートを受けて、いつものようにソフィーアさまとセレスティアさまと合流し、騎士科と普通科であるジークとリンにアリアさまと別れて特進科の教室へと辿り着いた。そうして授業が始まり、休み時間が訪れ昼休みとなる。ご飯を食べようと席から立ち上がると、ソフィーアさまとセレスティアさまも立ち上がって一緒に食堂へと赴く。


 「――と。申し訳ありません」


 教室から出ようと、出入り口に差し掛かった私は誰かとぶつかりそうになった。


 「こちらこそ前をよく見ておらず、申し訳ありませんでした」

 

 丁寧に頭を下げられたので、私はさらに深く下げる。ぶつからなくてよかったと安堵して顔を上げると、伯爵家のご子息さまだった。触れてはいないのでセーフだけれど悪いことをしたかなと思いつつ、三人で食堂へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
モブ君………………接触って、その接触じゃないと思うのww
[一言] 東大陸の乙女ゲーって··攻略する意味ある?既にモテモテで選び放題というか王子側が玉座手に入れる為に主人公を攻略するの間違いじゃ(笑) 写真は大きさをフォトサイズ位に規制すればいいのよ〜 絵を…
[一言] 伯爵家? モブ君、ついに接触か?
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