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0425:大聖女さまの心配事。

2022.08.21投稿 3/4回目

 銀髪オッドアイの彼が聖王国から旅立った。次は隣の国でまた晒し者となるらしい。精神的に疲弊しても良さそうなのだけれど、まだまだ元気が有り余っている様子で教会関係者は呆れていた。

 どうしてその粘り強さを勉学へ向けられなかったのか。頑張って知識を手に入れていれば、冒険者としてもっと優秀な活動が出来ていたかもしれないのに。考えても仕方ないし、彼はもう聖王国には戻らない。気にしても仕方ないなと頭を振る。


 ヴァンディリア王国の元第四王子殿下であるアクセル……現アレクセイさまは私から離されたけれど、再会を夢見て真面目に修道士として働いているそうだ。真面目に働いても私に会えることはないけれど、目標があるということは良い事だろうから放置している。そのうち目が覚めて私の事なんて忘れて、アレクセイさまのお母上に祈りを捧げるようになるかもしれないし。


 「フィーネさま!」


 ふいに声を掛けられた。この声は……乙女ゲーム三期の主人公の声だ。ゲームの強制力なのか、物語開始の時間軸となると彼女がどこからともなく現れた。

 ゲームの中での大聖女はお飾りの部分が大きかったけれど、黒髪の聖女さまのお陰で聖王国内での私の地位は高くなっている。当然、ポッと出の彼女が私の近くに居れる可能性はなかったのだけれど、聖女としての力が覚醒した主人公は私の側で聖女としての勉強をすることになった。アレクセイさまとあの犯罪者が居なくなって平和になると思っていた矢先の出来事で、なんでこうなるかなあと頭を抱えたくなるが仕方ない。


 ゲームの主人公ということで悪い子ではないし、大きな問題を起こすようなこともないけれど。少しばかり……いや、だいぶ上下関係に緩いところがあって困っている所である。

 それを指摘すると泣きそうな顔になって耐えている。少しずつマシにはなっているけれどまだまだ時間が掛かりそう。まあかわいい子だし裏表のない子だから楽ではあるかな。これで黒髪の聖女さまのように、出来た聖女さまなら逆に私が怒られていただろう。


 「どうしました?」


 「……特段の理由はなかったのですが、フィーネさまのお姿を拝見して、少し元気がなさそうでしたのでどうしたのかなと……ごめんなさい」


 ゲーム三期のヒーローたちが居ない所為か、主人公である彼女の気持ちは私に向けられていた。性的な理由ではなく、目の前の彼女は敬虔な教会信徒。大聖女として私の行動は素晴らしいものだと、褒め称え懐いてしまった。

 何故こんなことにと考えると、どうしても黒髪の聖女さまの姿を思い出してしまうが、本来は聖王国の教会が腐っていたことでそうなってしまった。ゲーム通りに進んでいれば、私と彼女は無二の友人として仲を築いていたが、現実は大聖女と聖女の仲。しかも凄く尊敬されている。


 「ありがとうございます。――さあ、礼拝に参りましょう。そのあとは治癒院が開かれます。今日一日大変ですよ」


 元気がなかったのは、あの銀髪の犯罪者とアレクセイさまのことを考えていたから。体調自体は問題ないので、いつも通りの動きが出来る。今日も教会の大聖堂で祈りを捧げ、治癒を望む方々へ魔術を施す。


 「はい! 祈りを捧げて、皆さまの傷を癒します!」


 綺麗に笑う主人公に私も微笑んで、一緒に道を歩く。聖女としての能力は主人公故に彼女の方が高い。聖痕持ちというだけで私は優遇されているのだけれど、今の立場は割と気に入っている。

 確かに苦労も多いが、ゲームを気にしながらなんとなく日々を送っていた時よりも、大聖女としてやるべきことがはっきりと決まっているので行動に起こしやすい。もうあんなことは勘弁して欲しいけれど、良い切っ掛けだった。それにアルバトロスの黒髪の聖女さまとの縁が持てたし。

 手紙を送ると律儀に返信を頂ける。嫌われているのかと最初はおそるおそる出していた手紙も、最近は愚痴のようなことも書けるしペンフレンドみたいに感じている。向こうは迷惑かもしれないが、手紙の文字は黒髪の聖女さまの外見に似合わず力強いものでちょっと意外だったけれど。


 「ええ」


 東大陸のアガレス帝国の動きが気になるけれど、教会は隣の大陸には存在しないので情報を得ることが出来ない。諜報員を送りたくとも、海を隔てているので送り込むこと自体が大変だし、仮に送り込むことに成功しても文化に差がある為に相手に気付かれそうだ。政治って本当に綱渡りというか、いろいろと考えて動かなきゃいけなくて。

 

 乙女ゲーム第二弾IP新シリーズのシナリオは確かこうだった。


 黒髪黒目の女の子、要するに主人公を日本から召喚する。指示したのはアガレス帝国の皇帝陛下。召喚の儀を取り仕切ったのが第一皇子殿下と、召喚を提案した第六皇子殿下。

 黒髪黒目の者を崇拝する国だから、黒髪黒目の主人公はみんなからチヤホヤされていた。乙女ゲームなので登場人物である皇子たちはみんなイケメンだし、それぞれに方向性を持たせたキャラクターで。前作のIPで資金を稼いだのか、また有名男性声優さんをたくさん起用していたから、声も良かったし。

 

 シナリオは『元の世界には戻れない』と告げられて落ち込む主人公をヒーローたちが慰める構図だ。帝国の学園へ通いながら文化や風習を学びつつ、皇子たちと関係を深めていく。シナリオの大筋を考えるのが面倒だったのか、最後の障壁は皇太子予定の第一皇子。

 野心家の彼を追い詰め倒し、皇太子の座を手に入れ黒髪黒目の主人公を妃に据えてめでたしめでたし、というものだった。攻略対象である皇子ごとに細かいイベントは違えど、シナリオの大まかな構図はコレ。ライターさん、というかゲームを企画したゲーム会社の社員の方たちのやる気はどこへいったのだろうか。


 攻略対象が多かった所為か個別ルートが短く、ユーザーから不満が出てアペンドという形で補足が入ったからなあ。まあ皇子殿下を十五人も設けたのが、諸悪の根源だろうけれど。

 一人のキャラと深く関りを持って楽しみたいという人には不満も湧く。そんな人たちの数が多かったのか、ネットの某有名掲示板で炎上しかけたから、ゲームメーカーも火消しの為に『アペンドでるよ! 楽しみにしていてね!』と途中ホームページで告知した。

 

 ゲームの中の話では、こちらの世界に黒髪黒目の者は存在しなかったけれど、黒髪の聖女さまというイレギュラーが存在している。

 存在を知った帝国はアルバトロス王国の黒髪の聖女さまと接触を果たしたけれど、黒髪の聖女さまは帝国行きを断った。すわ戦争かと身構えたけれど、距離がある所為かそうはならなかった。

 

 ――アガレス帝国は黒髪黒目の者を手に入れたいはず。


 黒髪黒目の者は皇帝陛下の次に崇められていた。ならゲーム通りに異世界召喚が執り行われるのだろう。巻き込まれてしまう人には申し訳ないけれど。

 ゲームの中では主人公はひたすら贅沢を与えられ、何不自由ない暮らしを手に入れ皇子たちと恋仲になり、この世界で生きていくことを決意する。せめて乙女ゲームが大好きで、帝国の皇子殿下の誰かに惚れて幸せに暮らせる人が呼ばれますようにと願わずにはいられないのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] オッドアイ君に足りないのは知識ではなく倫理観だろ。今の感じでいらん知識もっては余計手がつけらくなりそう。
[気になる点] 帝国舞台のゲームってマッチポンプじゃないですか。自分達で召還しておいて帰れないヒロインを慰めるって。ちょっと状況を冷静にみれる人がヒロインだったら絶対皇子達の事好きにならないと思ってし…
[一言] 攻略対象15人とか企画考えた人あほだろ・・・いやあるけどなD.C.シリーズとか
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