0418:夜の駄弁り。
2022.08.18投稿 2/2回目
夜、子爵邸の私室。いつもと変わらない場所だというのに、何故か部屋が狭く感じる。狭く感じる原因は、お猫さまにお猫さまが生んだ子猫が居る上に、新参者の子フェンリル。
しかも子フェンリルをいたく気に入っているロゼさんは、私の影の中に居る時間が少なくなって子フェンリルと一緒に居る時間が増えていた。空を飛べるようになったルカも、私の部屋にベランダからよく遊びに来る。偶にお猫さまを背に乗せてやってくる時もあるし、本当に子爵邸内はカオス状態だった。
一つ良かったことは、子爵邸で雇っている人たちが彼らに拒否反応を見せない所だろうか。驚きはするものの、数日後には慣れている人がほとんどだ。まあクロを始めとした子爵邸に住み着いた方たちが、紳士的かつ大人しいというのが一番の理由だろうけれど。
意外なことは、副団長さまが子爵邸にいらっしゃると警戒態勢に皆さまが入るのだ。どうやら『ミナーヴァ子爵家幻獣見守り隊』が勝手に結成されて、副団長さまの動向を見守っているらしい。仕事の合間や休み時間に行動する分には構わないし、副団長さまもその辺りは弁えているだろうから過激にならないでとは伝えている。
副団長さまにも念の為に伝えると知っていたようで、抑止力となるので構いませんとのこと。自重出来ない場合のことでも考えているのだろうか。少し心配だけれど、副団長さまが妙な行動に出れば子爵邸に立ち入り禁止となるのだから無茶はしないだろう。
で、幼馴染組がいつものように集まっていた。
夜はいつもその日に起きたことの報告会のようなものだ。クレイグは家宰さまの下で働いているから子爵邸の財政状況や人手が足りないところとか教えてくれるし、サフィールも託児所の子供たちの様子や孤児院のことを語ってくれる。
ジークとリンはその横で静かに話を聞いているだけ。でも、それが私たちにとっての普通なので何にも問題はない。今は私が今日の出来事を話していた。というか、私の話が一番長くなるから自然に最後に回るようになっていた。解せない。
「はあっ? 屋敷がデカくなるだってぇ!」
「クレイグ、声大きいよ」
座っていた椅子から立ち上がって大きな声を出したクレイグに、サフィールが窘めた。まあ私も大きな声をだして、どうしてこうなったと叫びたいけれど。お昼にソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまが居る執務室で叫んでおいたから。
「馬鹿っ! こんなこと聞いたら叫ぶだろうが! しかも隣の家の人間引っ越しさせるなんざ、大丈夫なのかよ!?」
私も心配になったけれど、その辺りはアルバトロスの上層部が上手くやってくれているはずである。これで遺恨なんて残れば、面倒ごとの種にしかならない。私のやらかしに頭を抱えている陛下たちが、下手を打つことはなさそうだし。大丈夫と信じるしかないだろう。
「そこは陛下方がお隣さんを説得してくれたんだと思う」
というか命令だけ下したとは考え辛いし。国家が横暴を働いたって噂を立てられれば、痛い目を見るのは私よりアルバトロスである。だからその辺りはきっちりと話し合いを済ませた上で、好条件の転居先が用意されているかなあと。
「……まあ、代々の家じゃねえとかソコより良い場所になったとかなら恨みは買わねえか。というか陞爵するんじゃないのか、ソレ?」
「まさか。だって最近、何もしてないよ」
亜人連合国とアルバトロスとの橋渡しを持った以降、ぶち壊す方面の方しかやってない気がする。アルバトロスの教会にリームに聖王国に。ヴァンディリア王国は、ご愁傷様としかいえない状況なので難しい所だけれど。
東大陸の帝国の件は私が居ることによって降りかかった問題だから、国に迷惑をかけている形となるのでノーカウント。
ぶっちゃけ王国の子爵家の貴族一人くらい手放しても痛くも痒くもないだろうに。陛下と公爵さまに辺境伯さまや、仲良くしてくださる方々はどんな事態となっても帝国から守ってやると言ってくれた。
亜人連合国の皆さんも、本人の意志を無視して連れ去ったり、無理やり連れて行くようなことがあれば帝国に対して相応の態度をとると確約してくれたのだ。我儘を言って申し訳ないが、アルバトロスに根を下ろすと決めたのだ。決めたことは最後までやり遂げないと。
やらかすにはやらかしているような気もするけれど、国に貢献したことがぱっと思いつかない。何かあったかなあと考えていると、何故かみんなから白い目で見られる。
「……はあ。まあ、ナイだからなあ」
「ナイだもんねえ」
クレイグとサフィールが呆れた声を出して私を見ている。ジークは優雅に紅茶の入ったティーカップに口を付け、リンは膝に乗っている子猫を幸せそうに撫でていた。まだ告げていないことがあったと思い出して、呆れているみんなを見つつ声にした。
「領地もミナーヴァ子爵領に名前を変えて、あの規模じゃ小さいから王家に返上された隣の男爵領を編入させて子爵領の規模にって言われた」
「ああっ!? 領地もデカくなるのかよっ! というか隣の領地が都合よく空いてるな! なんだその豪運!」
いや、うん本当に。タウンハウスなら説得して引っ越しを了承してくれたというなら話はまだ分かる。領地となれば、代々云々があって初代さまから続く土地だからと拒否されただろう。本当に空いていたのは奇跡のようなもので。
「運、良いのかな。悪運じゃない、コレって」
本当にそう思う。いろんな方と出会えるのは有難いことだし、クロや亜人連合国の方たちにエルやジョセにルカ、他のみんなに会えてこうして一つ屋根の下で暮らしているのも良い事だけれど。
その反動なのか面倒なことが降りかかってくる。でも、一応自衛できる手段を手に入れられたし、魔法と古代魔術を駆使すれば帝国を迎え撃つ位なら一人でどうにか出来るはず。戦いの場がアルバトロスになりそうなのが唯一の気がかり。帝国に単身渡るとなると無茶が過ぎるし。
「悪運かどうかはナイが決めることだな。まあ妙な場所じゃなけりゃ赤字には早々ならんし、金があるのは良い事だ…………陞爵どころか国を手に入れそうだなお前」
「怖いこと言わないでよ、クレイグ」
「ま、流石にお前でも国は無理か」
流石に一国の王なんて座には就けない。その責任は重いものだと知っているし、簡単に就けるものではないことも。
「あ、今度子爵邸の別館に住む聖女さま、可愛い子だから期待してて良いと思う」
アリアさまは可愛い系なので好きな人は好きだろう。もう何年かすれば美人度も増すだろうし。他の方も来るのだけれど、まだ誰か教えられていない。ただ美人な方や可愛い人が多いので、目の保養にもよかろうと、男性陣に期待しておけと告げるのだった。