0417:領地改名。
2022.08.18投稿 1/2回目
ソフィーアさまとセレスティアさまが領地からのお土産を持って、子爵邸へと顔を出してくれた次の日。
彼女たちが昨日持ってきてくれたお土産は、私のことをきちんと把握してくれているのか食べ物関係が多くを占めていた。あとは託児所や孤児院の子供たちにと子供服を送ってくれた。古着で申し訳ないとお二人とも仰っていたけれど、そこは高位のお貴族さまなのでヨレヨレに着潰しているものなど一枚もなく綺麗なもの。
ごきょうだいの着れなくなった服も持ってきてくれていたので、男女ともに揃っていた。
託児所の子たちに必要分を取って頂いたあとは、子爵邸に住む方たちに古着屋さんより安い値段を付けて売り払い、そのお金は孤児院に寄付しようという話に。
もちろん余った服は孤児院に送って、要らないものは引き取ったのちに古着屋さんに売り払って現金化のちに孤児院に寄付かな。孤児院で処分してくれると一番良いけれど、そんな時間ないだろうし。
執務室、いつものメンバーで報告会を開いていた。
「ぶへっ!」
お城から届いた私宛の書状に目を通していたのだけれど、なんだかとんでもないことを書かれていたので、思わず吹いてしまった。
クロが心配そうにこちらを見ているし、足元に居るロゼさんと子フェンリルは一瞬びくりとした後、私の顔を見上げている。驚かせてごめんなさいという視線を向けると、納得したのか子フェンリルは私の足元でぺたりと体を付けて伏せの体勢になり、ロゼさんは子フェンリルの横でじっとしている。
「何故いちいち吹く、ナイ」
「ええ。貴族としてはしたないですわ」
吹いた私に苦言を呈すソフィーアさまとセレスティアさまに、護衛のリンが近寄って来てハンカチを手渡してくれた。
ありがとうと伝えて口を拭うと、お二人は冷ややかな目で私を見ているけれど、書状を見れば驚くのも仕方ないと納得してくれるだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまに家宰さまが読んでも問題ない内容だったので、書状をまず家宰さまに手渡すと目を通していた。
「すみません。…………賜った男爵領がいつまでも男爵領では体裁が悪いからミナーヴァ子爵領と名乗るようにって……」
以前に捕まったアルバトロス教会枢機卿さまの一人であった男爵領を賜って、代官さまに運営を丸投げしている場所である。トウモロコシさんが美味しく育ったので、試験的に農家の人に種を渡して栽培をお願いしている所だ。
軍馬や馬車曳き用の馬が多く飼われている為、飼料用のトウモロコシさんも大事だけれど、食用の甘いトウモロコシさんは珍しいので高く売れると踏んでいる。
男爵領もう一つの特産品になれば良いと考えていたのだけれど、これでミナーヴァ子爵領産となれば更に付加価値が付きそうな。個人的には高級食材という位置よりも、世間一般に広がって欲しいのだけれど。調理方法の基本が茹でるだから、下町の奥様方に別の調理方法を確立して欲しいのだ。
「それは当たり前だろう。お前が、ミナーヴァ子爵家があの地を治めているのだからな」
確かに私が王家より賜り預かった領地である。前に公爵さまが子爵家を失っても永代の男爵領があるから安心だとか言っていた。結婚する気はなく、私の子供に継がせるというのはあり得ないので返上する予定のもの。
男爵規模の領地を子爵と名乗ると問題があるような気がして大丈夫なのかと首を傾げたのだが、陛下方アルバトロス上層部はソレを見逃すような方々ではなかった。男爵領隣にある空白地を統合して子爵領と定めるから、好きに使えとのこと。その空白地はバーコーツ公爵家に取り入っていた男爵家が運営してた領である。
バーコーツ公爵家のやらかしの際に一緒に吊り上げられたお家で、その家も帝国の奴隷を買っていたとか。
「そうですわ。今の今までが異常だったのです。むしろ何故今日まで放置していたのか疑問です」
代官さまに頼り切りなので、私があの地を治めている感覚は低いけれど。なんだろう、子爵邸の家庭菜園よりも収穫量が期待できる農園感覚かもしれない。困りごとがあれば頼ってくださいと代官さまに伝えてあるけれど、優秀な方なので定期報告が来ていつも通りですと書かれているくらい。
規模が大きくなるなら代官さま一人じゃあ大変だろうし、補佐役を何名か雇うか代官さまをもう一人立てるかになるのかな。この辺りは詳しくないので、家宰さまに助言を頂くしかないけれど。うーん、いろんなものが増えていくなあ。
「城の皆さまも忙しかったのだろう。なにせ、やらかすのが目の前にいる」
「否定が出来ませんわね。しかし国にとっては良いことばかりです。多少の苦労は致し方ありません。それが貴族であり国に仕えるということでございましょう」
現状維持が一番望ましかったのだけれども。でも陛下方が動いたということは、何かしらの目的がありそうだけれど、どうなのだろうか。単純に余っている領を振り分けただけのような気もしなくもないが。気にしたら禿げるから、前向きに考えよう。
この度編入される隣領の特産品やら問題点やら見つけて、運用方向とか新たに決めないといけないだろうし。
「貴族としては良い事だがな。この子爵邸も随分と手狭にはなってきているから、せめて外観だけでもどうにかしなければな」
もともと警備の関係で別棟が建てられていたミナーヴァ子爵邸。今回、聖女さま方が生活するスペースも用意されるとなったので、日中はトンカントンカン工事中。冬休みが終わる前には完成され、アリアさまを始めとした聖女さまが子爵邸の別館へと移り住むので、子爵邸の佇まいは少々不格好。
「最初から伯爵位かそれに準ずる屋敷を賜るべきだったのです。ナイならばまだまだ上を目指せますわ!」
セレスティアさまは私が爵位を賜った頃、伯爵位が適当でしょうと良く口にしていた。なんだか懐かしいなと目を細めつつ、私の意志をみんなに知って頂いておかないと。
「もうお腹いっぱいですよ。これ以上は――」
「――ご当主さま。もう一枚、書状がございますね」
必要ないのでと言いかけた言葉は、家宰さまの声にかき消された。二枚あった書状に気が付かなかった私。どれだけ鈍いのだろうかとがっくりしながら、家宰さまから渡された書状へ目を落とす。
「…………なんでこんなことに!」
おやと首を傾げる家宰さまに、またなにかやったんだなという顔を浮かべるソフィーアさまとセレスティアさま。私の所為じゃない気がするし、私よりも私の周りに居る子たちが凄すぎるだけである。
「で、どうしたんだ?」
「今度はなんでございましょうか?」
今さっき読んだ書状を机の上に広げると、お三方みんな書状へ視線を落としている。クロも興味があったのか私の肩から机の上に移動して、書状をのぞき込んでいた。
「順当だな。しかし今言ったことが直ぐに解決する方向になった」
「まあ、宜しいのでは。このままよりはマシでございましょうから」
「そうですね。暫くは騒がしくなりましょうか」
頭を抱えている私にお三方の声が降り注ぐ。その声は呆れているような、苦笑いをしているような声で。書状の内容は、子爵領も新たな編成となったのだから領地に邸を構え、こちらをタウンハウスとして運用なさいと。
ミナーヴァ子爵家のタウンハウスの外観が悪いからお隣さんと話をつけておいたので、設計士や建築士の専門家を派遣するので新しい主館を建てるようにと綴られていた。ちなみに費用は王国が半分出してくれるそうだ。半分なんてケチなことを言わず全額負担してくださいと、涙目になる私。
いや、貴族としてならソフィーアさまとセレスティアさまが言うように良い事なのだろうけれどね……。