0411:クロの本気。
2022.08.15投稿 1/2回目
どうやら副団長さまが目指していた場所に辿りついたようだ。ここが折り返し地点なので、元来た道を戻ることになる。領境にあるギルド支部で換金を終えれば、副団長さまの転移で子爵邸まで直帰。魔術の練習にということでの参加だったけれど、結構楽しかった。
聖女は後衛とか支援を務めるから、前衛を務めることはない。
場数を踏んでいないので、まだまだ未熟なところや研鑽すべき事がある。それはまた戻って副団長さまや慣れている人たちからアドバイスを受ければ良い。ジークやリンも試し切りが出来て満足そうだし、今日は出かけて良かった。お城の魔力補填や教会の礼拝に治癒院以外に外に用事で出ることもなかったし、良い気晴らしでもあった。
『ナイ……ボク、本気のブレス試していない』
「え、あれで本気じゃないの?」
クロが放ったブレスの威力は高くて、魔物が丸焦げになっていたのだけれども。あの威力を見せて本気でないとは……。
「でもあれ以上の火力を出しても無駄だよね」
うん、確実にオーバーキルだ。
『だよね……』
今度は丸焦げどころか、灰化してしまいそうな。何か思うところがあるのかクロが首を傾げた後、私の顔に顔を擦り付けた。
「試し打ちなら空に放ってみるとか?」
魔術を空打ちすることはあるんだし、ブレスの空打ちしても良いんじゃないかな。本気のブレスを試していないということは、クロも自分の火力を把握できていないということだろうし。私もクロの本気を見てみたい。
『良いのかな?』
こてんとまた首を傾げたクロ。やろうと思えば勝手にやれるだろうに、確認を取るあたり賢いというか。
「自分の限界を把握していないと危なそうだし、この場所なら見ている人も少ないから良いんじゃないかな?」
どうでしょうと副団長さまを見ると、頷いてくれた。現場責任者的には問題はないようだ。
「ここならば人に当たる心配はないですし、空に放つというならば自然も守られますからね」
少し開けた場所へ移動しましょうと副団長さま。この場所を熟知しているのか、迷う様子もなく彼の言葉通りの遮るものがない場所へと辿り着く。
『じゃあ、空に鳥が飛んでない時に放てば良いよね。ちょっと時間が掛かるかもしれないけれど……』
私の肩から飛び降りて、地面に降りたクロが私たちに距離を取って欲しいと願い出た。ブレスを放つ本人が本気の威力を把握していないので念の為なのだろう。時間が掛かるのは射線上に鳥が飛んでいれば巻き込まれてしまうから、クロなりの配慮なのだろう。
「強い竜の生まれ変わりが放つブレスですか。興味が尽きませんね! そもそも僕が生きている間に見れるだなんて……やはり聖女さまは規格外ですね」
副団長さまがふふふと笑って私を見ているけれど、凄いのはクロ自身で私は関係ないような。というか魔力を提供しているだけなのだけど。
「でもクロはまだ体も小さいですし、本気と言ってもさっき見たブレスとそう変わりないのでは?」
私の肩にちょこんと乗れるサイズなのだ。魔物を倒す際に見せてもらったブレスも凄かったので、あれ以上を上回るというのは考えづらい。ご意見番さまの生まれ変わりだけれど、生まれてから半年ほどしか時間が経っていないのだ。何万年も生きていたというご意見番さまのような威力を出せるのか疑問だ。
「どうでしょうねえ。案外聖女さまの魔力で更に強くなられている可能性も捨てられませんから」
「まさか」
確かにバカスカ魔力を吸われている時もあったけれど。副団長さまの言葉を否定した後にクロを見る。小さい体で地面に確りと足を付け、空を見上げている。鳥が飛んでいるか確認しているようでじっと空を睨み、しばらくしてぱかっと口を開く。なんだか戦闘機が弾薬庫の蓋を開けるみたいだなと呑気なことを考えた私。
後ろ脚の爪を地面へ食い込ませたその時、口の周りが青い光で照らされていた。夜でもないのに目にはっきりと映る光に驚いていると、青い光が消えた。刹那、クロの口から青い光の線が上空へと放たれた。
「え?」
今見た光景は、ブレスというよりもレーザービームとか荷電粒子砲とか称される類なのでは。レーザービームと荷電粒子砲の区別があまりついていないけれど。
流石ご意見番さまの生まれ変わり。クロが放ったブレスは雲を突き抜けたあと自然消滅していた。いや、うん。今のブレスに魔法や魔術的要素ってあるのかな。これでクロの体が成長して、大きくなった時に放てば大陸一つくらい簡単に潰せそうな気がする。
「素晴らしい!」
「……」
「凄いね」
『ロゼ、負けちゃった……』
副団長さまは歓喜し、ジークは無言、リンはクロを褒めているし、ロゼさんに至っては勝手に敗北しちゃってる。護衛の魔術師さんたちは、口をあんぐり開けたまま空を見上げてた。
奇跡が起きれば鳥の糞が口の中へストライクしちゃうので閉じましょうと願いつつ、竜種って凄いんだねと改めて考え直しながらクロを見ると、クロも口を開けたままあんぐりしていた。
私の腕から降りていたロゼさんは、地面にべちょーと伸びていた。クロと言い合いをしていた間柄だったけれど、クロの本気を見て思う所があったらしい。ロゼさんはロゼさんの、クロにはクロの魅力があるのだからそんなに気にしなくても良いのに。べちょーとなっているロゼさんを何度か撫でて、歩き始める私。
「クロ、大丈夫?」
終わったようだし、動かないクロが心配になって近づいて地面にしゃがみ込む。
『!』
まだあんぐり口を開けているクロに苦笑していると、私に気が付いて口を閉じた。
「凄かったね」
『ボクも驚いたよ。まさかあんな威力になるなんて』
全力は出せないねと呟いて私の肩に乗ったクロ。そうしてみんなの下に戻ると、クロは時間を取らせてごめんなさいと伝える。
副団長さまは興奮気味にクロに語り掛けつつ、ギルド支部へ戻ろうと指示を出す。まだ凹んでいるロゼさんを諭しクロも何故かロゼさんを慰めると、少し立ち直ったらしい。少し元気がないけれどぴょんぴょんと飛んで歩き始めた。
歩くことしばらく、また茂みが揺れて一同魔物かと臨戦態勢となるけれど、茂みの中から顔を出したのは先ほど会った子フェンリルだった。何故また会うのだろうと疑問に感じつつ、どうしたものかとみんなで首を傾げた。






