0404:【後】冒険者登録をしよう。
2022.08.11投稿 4/4回目
歴代の魔術師団副団長さまや団長さま方が、アルバトロス王国から賜るという領地の手前にやって来た。副団長さまの話を聞くに、賜るというよりも管理を任されると言った方が適切なのかもしれない。
強い魔物が湧く場所なので、強い魔術師に守って貰おうというのが王国側の魂胆だろう。魔術師は変態が多いと聞くから、魔物退治も嬉々としてやってのけるのだろうし、魔物を倒した素材や魔石は倒した魔術師の物となる。副団長さまが所持している魔石は、この先の領地で手に入れた可能性もあるなあ。お金持ちだなあと感心していたのだけれど、こういう理由があったのか。
「らっしゃ……っ! ごほっ!!」
冒険者ギルドの扉を潜って受付へと進む。やる気のなさそうな小父さまがカウンターに座っていたのだけれど、こちらを見るなり目を見開いて咳込んでいた。
二度、咳込んだ後は普通だったのでタイミングの問題だったのだろう。顔を引きつらせているような気もするが、副団長さまにでも驚いたのだ。
「こんにちは。――こちらの方はアルバトロス王国冒険者ギルド支部、支部長さまですよ」
私たちに説明をしてくれた後、副団長さまはギルド支部長さまへ向き直る。
「ヴァレンシュタイン副団長殿、ようこそいらっしゃいました! ――本日のご用件は換金ですか?」
副団長さまの顔を見て、ギルド支部長さんが勢いよく立ち上がる。久方ぶりですと和やかに挨拶を交わす副団長さまと支部長さま。後ろで待っていると副団長さまが身体をずらして、ジークとリンと私を見る。
「いえ、換金はまた夕方にでも。――冒険者登録をお願いしたい方が三名居るのですが、お願いしても宜しいでしょうか?」
副団長さまや護衛の魔術師の皆さまは、既に冒険者として登録を済ませているようだ。換金の時に困るので、必然的に登録したようだ。自分たちが欲しい物は自分たちの懐に、必要ない物は冒険者ギルドへ提出して買い取って貰っているらしい。
「勿論ですよ。基本、冒険者ギルドは来る者を拒みませんから」
初心者が賜るランクは誰でも授かることが出来るそうだ。もちろん、犯罪者や素行に問題がある人間は弾かれるそうだが。
他の国では冒険者を重宝し、才能のある人を随時募っている。実力があればランクは自ずと上がっていくし、問題のある人はランクが上がるごとに審査が厳しくなるので、実力があっても弾かれるのだとか。銀髪くん事件でかなり厳しくなったようで、高ランク冒険者になれる人が少し減っているとか。
「支部長さま、受付のお嬢さんたちは如何なさったのです?」
「ああ、アルバトロス王国ギルド支部がこちらへ移転した際に、母国へ戻りました」
この田舎町が耐えられないそうだ。他の国の冒険者ギルドで働けるように支部長さまが手配して、そちらのギルドで今は働いているんだって。アルバトロス王都に在していたギルド支部は、暇な事を理由にされこちらへと移転したそうな。
どうやらこの地に訪れる魔術師の方たちが、換金が不便だと以前から嘆願を出していたらしい。銀髪くん事件によって肩身が狭くなった冒険者ギルドは、逃げるようにこちらへやって来たのだとか。体のいい僻地への左遷のような気もするけれど、支部長さま曰く忙しいのは性に合わないから丁度良いと笑ってた。
書類を三枚出されて記入方法を教えてくれる。難しい物ではなく名前と年齢と所属国を記入するくらいの簡単なもの。こんなにあっさりと終わるものなんだと三人で首を傾げると、支部長さんが少しお待ちをと告げて、書類を持って裏へと引っ込んでいった。
「お三方の認識票です。冒険者として活動する際は必ず身に着けて下さい」
「ありがとうございます」
支部長さんに手渡されたものはドッグタグのようなもので。なんだか軍人さんみたいとしみじみと観察すると、小さい魔石が施されていた。
「これを開発した方は、素晴らしく腕の立つお人だったのでしょうねえ」
複雑で難しいことを簡単にやってのけた上に、技術を惜しみなく公開しているのだから、見習いたいものですと副団長さまが。
「ですなあ。本人認証と本人情報にランク登録機能が付与されていますからね」
小さな屑魔石を使用して作っているので、技術が相当高いとか。世の中、凄い人が居るものだねえと掌の中のドッグタグを見つめると『G』と刻印されている。ランクが上がれば勝手に表記が変わるそうだ。その辺りも素晴らしいと口にされた一端なのか。
「倒した数や種族はきちんと覚えていて下さい。あとで確認した後に、討伐記録へ残します」
本来は依頼を受けた後に、討伐した証拠をギルドへ持参するのだが、アルバトロス王国の冒険者ギルドは特殊なのだとか。この先にある件の領地は強い魔物が定期的に現れ、間引きする必要がある。
いちいち依頼を出していたらキリがないので、魔術師の方々が自由に狩りを行える場所で。売り払われた魔石や素材を買い取り、買取価格よりも高い値段でギルドは取引を持ち掛け利鞘を得ているらしい。アルバトロス産の魔物が落とす魔石や素材は、他国よりも質が高いので重宝されているとか。
「黒髪の聖女さまや黒髪聖女の双璧ならば心配は必要ないでしょうが、駆け出し冒険者なので無理はなさらずに」
あれ、知っていたのか支部長さま。まあ黒髪黒目は目立つし、後ろに赤毛の双子が控えているから直ぐに分かってしまうのだろう。落ち着いた声色で語る支部長さまの声に反応して、特異な容姿も考えモノだと微妙な顔になる。
『良いじゃない。ボクは好きだよ、ナイの髪と瞳』
大人しく肩の上に乗っていたクロがぐりぐりと顔を顔に擦り付ける。
「ありがとう、クロ」
まあ黒髪黒目のお陰でクロと出会えたようなものだし、亜人連合国の方たちと仲良くなれた。それに元々黒髪黒目だから忌避感とかは持っていない。純粋なこの世界に生まれた人間であれば、拒否を示していた可能性もある。
だって誰も居ないから、黒髪黒目は。紺色の人とかも居るけれど、純粋な黒髪となるとディアンさまくらいしか見たことないが、彼の瞳は緑色だし。深く考えると面倒になるし、古代人の先祖返りで納得できるのだから気楽に行こう。
「クロの言う通りだよ、ナイ」
それに何故かリンが加わるのは、いつものことで。
「それでは行きましょうか。ふふふ、久しぶりに全力が出せそうです」
あれ、もしかして。副団長さまのストレス発散の為に組まれた仕事だったのだろうかと、ジークとリンと私で顔を見合わせるのだった。