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402/1475

0402:帝国からのお言葉。

2022.08.11投稿 2/4回目

 既に冬休みが一週間過ぎていた。トンカントンカン別館を建てる音が響いてくるけれど、耳に心地よい。別館を建てている際に見つけたお猫さまとその子供たちは、当初エルとジョセの小屋の中を間借りして過ごしていた。ただ母猫である二又のお猫さまは、子猫をエルとジョセに世話を任せて私の部屋へ頻繁にやって来る。

 部屋が温かいのが気に入ったようで、長居しているんだよね。基本クロの籠の中で過ごしているけれど、子猫を放って置いて良いのだろうか。そして今日もクロの籠の中を占領して、ちょこんと行儀よく座っていた。良いけれど、お猫さま元野良猫だよね。野良故の警戒心とか全くなく、本当に外で生き抜いてきたのだろうかと疑問である。


 『構わぬよ。もう乳離れは済んでいるのだ。問題はあるまいて』


 目も開いて元気に子爵邸の庭で遊んでいるけれど。まだまだ小さいし、心配は尽きない。余り構っても人間に慣れてしまうだろうから、なるべく近寄らないようにしているけれど、可愛いから気になってしまうのが人の心というもので。エルとジョセとルカに会うフリをしながら、様子を伺っている。


 「良いのかなあ……」


 母親とか縁遠いものだからよく分からないけれど、傍に居るなら面倒を見てあげて欲しいと願ってしまうけれど。

 

 『大丈夫だよ、ナイ。自然に生きる者たちだから、勝手に育っていくよ』


 私の膝の上でうとうとしていたクロは、お猫さまと私の会話をちゃっかり聞いていたようだ。お猫さまが部屋に頻繁に現れるようになると、ロゼさんは私の影の中か子爵邸の図書室で過ごしている。

 今は影の中で過ごしているのだけれど、時折どこかへふらりと消えることもある。何となく今は傍に居ないなと、ロゼさんの魔力で分かる。恐らく創造して名前を付けたことで、なにか魔力要素的な線でも繋がれたのだろう。そういう時は大抵『ハインツの所に行ってた』と返事を頂く。

 私より魔術を上手く使いこなしているというのに、まだ向上心があるらしく副団長さまに師事をしているようだし、逆に副団長さまもロゼさんから知識や技術を頂いているらしい。将来が末恐ろしいなあと、幼馴染組と話していたのが最近だったりする。


 「クロ……」


 うーん。家の中で過ごしているクロとお猫さまに言われても、説得力というものがあまりないのだけれども。子猫は外、親猫は部屋の中。本当に良いのだろうか。


 あと、子猫の引き取り手は随分と早く見つかった。話を聞きつけた副団長さまが二匹、自領で休暇中のソフィーアさまにも話が伝わったらしく公爵家に一匹。セレスティアさまもいつの間にか話を聞きつけた上に、お母さまが大の猫好きだそうで二匹引き取って下さるのだとか。

 残りの二匹はエルフのお姉さんズが引き取る。猫又の子供だから、エルフの里で暮らせば立派な猫又になってくれるだろうと言っていた。

 三味線の材料とかにされないよねと少しばかりの危機感を覚えつつも、亜人連合国ならば大切に育ててくれるだろう。冬休みの終わりまで子爵邸で過ごし、子猫たちはそれぞれの新しいお家へお引越しだ。

 

 「ナイ、城から報告書が届いているぞ。家宰殿が目を通して欲しいと言っていた」


 開けたままの扉からジークが顔を覗かせ、手に持っていた私宛の書類が手渡される。リンもジークと一緒に部屋へ来たようで、何も言わないまま私の隣に腰を下ろす。


 「ジーク、ありがとう。――なんだろうね?」


 本当に何だろう。この手のモノが届くときは、碌な話じゃないことが多い。ジークとリンに目配せしながら良い報告でありますようにと願いつつ、封蝋を解いて開封してゆっくりと目を通す。

 

 「む」


 『ああ。やっぱり』


 膝の上から肩に移動していたクロも一緒に報告書に視線を落として文字を追っていた。


 「どうした?」


 「どうしたの?」


 少し首を傾げつつ同じ顔の兄妹が私に言葉を掛けた。


 「えっと、ジーク。ゆっくり話すから椅子に座わって」


 報告書の内容はこうであった。飛空艇で帝国へと戻っていった帝国の面々。私と接触した証拠が欲しいと困っていたので、マンドラゴラもどきを渡したのだけれど、お婆さまの悪戯が成功したらしい。もうすぐ帝国へ辿り着くという頃にマンドラゴラもどきたちは目が覚めたようだ。


 『びゃああああああああああああああああああああ』


 というマンドラゴラもどきの叫び声に『ぎゃああああ!』という悲鳴が飛空艇内に響き、混乱した帝国の使者さんたちは悪戦苦闘の末にマンドラゴラもどきを捕まえて難を躱したとかなんとか。

 大陸の魔素量が少ない可能性があると話に出ていたので、珍しいだろうと気楽な気持ちで渡したのだけれど、アルバトロス王国政府の認めが欲しいと乞われた上で、公爵さまが鑑定書を用意していた。

 どんなものなのか気になったので、見ていいかとお願いすると気軽に見せてくれた公爵さま。一枚目は帝国の使者に渡した品は『マンドラゴラもどきである』という陛下の名前と副団長さまや国の重鎮メンバーの署名入り。

 二枚目からは、副団長さまが認めたマンドラゴラもどきの学術的説明だった。結構な量があったけれど念の為に目を通すと、副団長さまはうっかりさんなのか、叫びながら走り回るという特性を記載し忘れていたのだ。きっと魔術的効果や恩恵の方に気持ちがいっていたのだろう。親切な私は、一番最後の項に文字を足す。

 

 ――叫び声を上げて走り回るので、心臓の弱い方は気を付けて。


 ああ、なんて慈悲深いのだろうか。確か向こうの大陸では黒髪黒目の人は災害や飢饉の際にどこからともなく現れて、人々を救うのだとか。帝国の使者さんたち一行を慮って、優しい一言を付け加えておいたのだ。


 「ナイ、腹に据えかねているのは分かるが、国が迷惑を被るぞ」


 「公爵さまが公認してくれているから大丈夫だよ」


 多分。ただ陛下方はまた頭を抱える羽目になりそうだけれど。報告書の内容は、帝国からのちょっとした抗議。飛空艇が墜ちかけたが無事だった。次はないぞというもの。


 「小麦畑をあんなことにしたのは許せないよ、兄さん」


 そうだそうだ。機械技術が発展していれば、簡単に整備できたかもしれないが結構な手間が掛かっているのだから。


 「俺は向こうの国がどうなろうと知らん。――だがなナイやお前が危ない目にあう可能性があるなら、なるべく穏便に済ますのも一つの手だ」


 俺も小麦畑をあんな状態にした帝国を許す気はないがと、言葉を付け加えるジークが。みんな孤児出身だからか食べ物には異常な執着心を持っているよねえ。でも、大切に育てている農家さんたちの事を思えば、あの着陸の仕方はない。あんな方法を取ると分かっていれば、アルバトロスは別の会談場所を用意しただろうに。


 『あ、ナイ。最後までちゃんと読もう』


 クロの言葉にもう一度、報告書へ視線を落とす。


 「ん? まだ続いてた」


 帝国から抗議の書状が届いた最後の一枚に、力強い文字で一文が記されていたそうだ。


 ――必ず黒髪黒目の少女を帝国へ迎える。by、皇帝。代筆、宰相。


 意訳だけれど、確りと私を迎えに行くと。しかも皇帝が。いやいや、あり得ないでしょう。大国の皇帝陛下が居城を留守にするなんて、一枚岩じゃないだろうから謀反の兆しや策略がありそうだけれどねえ。

 東大陸がどうなるかは知らないし、関知しないけれど。いくらお金を積まれても、豪華なお屋敷を用意されても、働かなくて良いと告げられても、帝国に行く気は更々ないのだから。あ、そうそう。アルバトロス王国は、この書状に対してこう返すそうだ。黒髪黒目の意思を尊重すると申したのに、その言葉を破るのか。巨大な国故の一枚岩ではなく、使者であった外交官の言葉を無視するのだな、と。皮肉を込めて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国こちらの大陸へ侵攻→亜人連合、リーム王国とともに帝国を滅亡→ナイは旧帝国の領主ね とか。 まあ、そんな展開ないですよねー。 えっ、ないですよね?(まて
[一言] 〉お猫様 猫さんの里親が身内と知り合い(魔道オタク身内扱いはちょっと…^^;)渡った様で安心しました 〉帝国さん 予想通りと言うか何と言うか、あの使者達って馬鹿なんでしょうかね? 国の財…
[一言] 『黒髪黒目の少女さまを奪還する秘策を齎してくれるに違いない』 その秘策が皇帝のお出ましかい(笑)そーいや奪還とか言ってたっけ。奪還って奪い返す、つまり持ってたのを奪われてそれを取り戻す事なん…
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