0397:一緒に過ごせるのかな。
2022.08.09投稿 1/2回目
来た道を戻る。馬車を引く馬の厩舎の近くにエルとジョセとルカが過ごしている小屋があるのだけれど、どうやらそこには居らず。
「どこに行ったのかな?」
子爵邸の外には出ていないだろう。だとすれば家庭菜園畑かなと踵を返して、目的の場所を目指す。
「あ、エル、ジョセ」
子爵邸の家庭菜園を眺めながらルカを見守りつつ、畑の妖精さんが間引きした野菜を摘まんでいたエルとジョセ。サフィールがこちらに来ている筈なのだけれど、姿が見えないので託児所に戻ったようだ。
エルとジョセは案外食い意地が張っているのだなと、苦笑いをしつつ近くへ寄って行く。彼らと最初に会ったときは、フライハイト男爵領で薬草を食べ過ぎてお腹を壊していた。そこから縁が始まった訳だけれど、食い意地が張っているのは元からのようだ。
『聖女さま。どうなさいました?』
『現場の方はよろしいのですか?』
「少し相談したい事があって。――」
子爵邸の片隅でお猫さまが居付いていたことと、子猫を産んで育てていたこと、魔素量の高さで猫又になっていたことを取りあえず二頭に説明。
ルカがいつの間にか私の側に寄ってきて話を聞いているような。言葉は理解していると聞いたので、何かしら興味があるのかも。都会育ちのお猫さまなので、野生には戻れないと付け加えて本題に入る。
「で、お猫さまたちを移動させなきゃならないんだけれど、小屋を間借りできないかなって考えてて」
牧場や乗馬クラブなどではお馬さんと猫や犬ってセットのイメージがある。鼠除けの意味合いが強そうだけれど、どうしてそうなったのかは謎。
エルとジョセならお猫さまと問題なく過ごせそうだし、なにかあれば彼らであれば私や子爵邸の方たちに報告を入れてくれるはず。その辺りにも期待を込めて相談したのだけれど、エルとジョセは受け入れてくれるだろうか。
『おや、それは困りましたね。もちろん構いませんよ。賑やかになって良いことです』
『はい。他種族との交流はルカにもよい勉強となりましょう』
エルとジョセが許可をくれ、ルカはルカで何故か私に頭を擦り付けた後、服を甘噛みしている。どうやら彼らに問題はなさそうだ。あとはお猫さまたちが受け入れてくれるかどうかだけ。
「ありがとう、助かるよ」
『いいえ、同じ子爵邸でご厄介になる身です。お互いに協力し合って聖女さまになるべくご迷惑を掛けぬようにしないと』
『そうですね。猫には私たちからもお願いしましょう』
本当、温和で優しいよねエルとジョセって。どうやって生きたらこんなに清く正しく真っ直ぐな天馬さまとなるのだろうか。
帝国の使者の方に蹄の垢を煎じて飲ませたい。もしかしたら奇跡が起こってエルとジョセのように紳士になれるかもしれないなあ。黒髪黒目が言っていることだから、霊感商法とかそういう手合いのモノのように飲んでくれる可能性は十分ありそうだ。
『ナイ、変な事を考えちゃ駄目だよー』
すりすりではなく、ぐいぐいと顔を顔に押し付けてくるクロ。毎度ながら心の中を絶妙なタイミングで読む。
「どうして心の中を読んじゃうかなあ、クロ」
『顔に出てるんだよ。ナイは特別分かり易い』
目を細めながら、小さく首を傾げた。
「まあいいや。お猫さまたちの所に戻ろう」
『私たちも行きましょう』
エルとジョセとルカも加わるのか。カオスな状況に工事現場の方たちが驚きそうだけれど仕方ない。一応、王家から子爵邸だから何があっても驚かないようにと通達はされているようだから、もういいや諦めよう。今更、体裁を整えても遅いんだし、ありのままの姿を見せるのだ。
「そういえば、黒色って魔力が強いとかあるのかな?」
歩きながら自分の髪を指で摘まんで、視界の中で捉える。見事な黒髪だよねえ。歳を取ると白髪が増えて目立つかもしれないけれど、まだまだ先の事だろうなあ。
「それだと、副団長の説明がつかなくなるんじゃないか?」
私の後ろを歩いていたジークが突っ込んでくれた。珍しいなあと思いつつ、身内しか居なく他の誰かは居ないので問題ない。
「そっか。でも代表さまも黒髪で竜の姿は黒色だし……あ、それだと白竜さまやダリア姉さんとアイリス姉さんの説明がつかないか」
エルやジョセも魔力量が高いはずだ。天馬さまで魔獣や幻獣となるから、基本スペックが高い。
『黒髪黒目の子が魔力量が多いのは確実だけれど、他の人たちにはあまり関係ないかも? 基本的には個体差で魔力量が決まるし、血筋によるかなあ。あとは魔素が多い所に住んでいる、とか』
遺伝とかいろいろと関わってくるのかな。ただ黒髪黒目を超える魔力量持ちが産まれる可能性はかなり低いそうだ。
黒髪黒目は古代人の特徴で、この世の理なのだとか。なんだかなあと苦笑いをしつつ、元の世界……日本の事を考える。まかり間違ってこっちの世界に渡ってきた人が居れば、その人たちも魔力量が阿呆みたいに高いのだろうか。アニメやゲームに漫画の中の話だから可能性的には低くそうだけれど、そういう事態になってみないと分からないし。
「お婆さまの話だと東大陸の人たちは、こっちの人より魔力が低いっていってたよね」
『空気中の魔素量が原因だろうね。だからこそ黒髪黒目の子が産まれ辛くなっている、とか?』
確かに空気中の魔素量で説明が付いちゃうなあ。魔素が高いといろいろと現象が起きるみたいだし。
「――お待たせして申し訳ありません」
話ながらだと直ぐに現場に着いた。エルやジョセの姿にどよめきの声が上がるけれど、無視を決め込む。
現場監督さんの案内でもう一度お猫さまの下へ行き、エルとジョセが挨拶を交わした。どうやら私の提案に乗ってくれるようで一安心だ。これで作業が続けられますと安堵する現場監督さんと、エルとジョセに説得されたお猫さまがエルの背に乗る。
子猫たちは私やジークにリンが抱えて移動したのだけれど、手に伝わる生命力の強さと小さい命の尊さは、人間であろうとなんであろうと変わりないものだなとしみじみ思うのだった。
あ……やたらと子猫が増えないようにお猫さま本人や子猫たちへの去勢や避妊を施す話もしないとね。多頭飼育崩壊とかになったら笑えないし。