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0384:大聖女さまアルバトロスの地へ。

2022.08.04投稿 2/2回目

 ――至急、城へ向かえ。


 王城からの使者に呼ばれた為に子爵邸にある転移魔術陣を使用して、城へと急遽登城した。一体何だろうと考えるけれど、全く心当たりがない。ソフィーアさまとセレスティアさまも不思議に思っているようだし、一体なんだと言うのやら。

 今までの経験上、厄介ごとが巻き起こっているだけなので、そうでなければ良いけれどと考えながら、近衛騎士さまの後ろを付いていく。


 「こちらになります。――黒髪の聖女さまが参られました」


 二度のノックの後に近衛騎士さまが私の来訪を告げた。この部屋は応接室だったはずだ。部屋の前には既に、無茶振りくんもといアウグストさまに枢機卿さまのお二人と神父さまにシスター・ジルとシスター・リズと事務方数名の姿が。教会の方がいらっしゃるということは、教会関係のことなのだろうか。


 王族の方が個人的に用事があるのならば、王族専用のプライベート空間へと招かれるけれど、この場は共用スペースと表現すれば良いだろうか。

 重要な人物との話し合いに宰相さまや外務卿さまたちが使う部屋。本当に一体何事かと考えていると、扉が開かれ中へと招かれる。部屋へと足を踏み入れると、応接用の立派なソファーから立ち上がる気配を感じて、視線を向けた。


 「お久しぶりでございます、黒髪の聖女さま」

 

 「大聖女さま、お久しぶりです」


 ソファーから立ち上がり礼を執ったのは聖王国の大聖女さまであるフィーネ・ミューラーさまだった。

 少し緊張した面持ちで、聖王国側の聖職者数名と護衛の騎士さまたちが後ろに控え、大聖女さまの近くには書記官さまもいらっしゃるので公務である。アルバトロス側も書記官さまが同席しているのだから、最初からそのつもりではあったけれど。

 

 「この度はお呼び立てをして申し訳ございませんでした。――アルバトロス王のご許可を頂き、面会が叶った次第でございます」


 大聖女さまは以前会った時よりも、随分と確りとした雰囲気を持っていた。


 「そうでしたか。しかし何故わたくしを?」


 正直、聖王国と関わるだなんて考えていなかったし、彼女との手紙のやり取り位で済むだろうと軽く考えていたけれど。どうやらそうもいかなくなったようだ。


 「ここ最近の隣の大陸の奴隷問題についてです」


 「……何故、その話が」


 本当に。アルバトロスで見つけた大陸出身の元奴隷の方々の扱いは、帝国からはお好きにどうぞである。ならば問題はないのだけれど、大陸南東部のあの国では奴隷の扱いが滅茶苦茶悪いらしく、逃げ出した末に悪いことを仕出かしているとは聞いていたけれど。


 「南東部の彼の国で起こったことに聖王国が介入することなどありえません」


 「ええ、それはそうでしょう。仮に介入できるとすれば政治ではなく教義に関することのみでしょうから」


 うん。というか介入なんてしようものなら内政干渉だと大陸各国から苦情が大量に舞い込むだろうし。教会の教えを普及させてはいるけれど、政に関しては関わらない方が賢いやり方である。まあ、上が腐っていてとんでもない事態になってしまったけれども。ならどうして私との面会を希望したのだろうか。


 「黒髪の聖女さまは、帝国が何を信奉しているかご存じでしょうか?」


 隣の大陸と称するのはいちいち面倒だ。仮に東大陸としよう。その東大陸にある帝国のことだ。

 こちらの大陸には帝国という名の国は存在しない。


 「申し訳ございません。帝国についての教育は受けておらず、無知と称しても問題はないでしょう」


 だって全く情報がないし、子爵邸の図書室や学院の図書棟にも帝国について記されている本が置いていないのだから。知りようがない。

 公爵さまによると、アルバトロスと帝国との距離があるから戦争になることはないし外交問題にも発展しない。距離がある故に、奴隷の扱いを好きにすれば良いと返事がきたのだと。


 「…………そうでしたか。では心してお聞きくださいませ」


 いや、そう前置きされると何だか嫌な予感しかしないんだけれども。面倒事になるのかなあと遠い目になるが、面倒事になる前に知らせてくれようとしている大聖女さまには感謝しなければならないのだろう。


 「黒髪黒目信仰。――東大陸を創造したとされる女神さまがそうだったと聞き及んでおります」


 そうなのか。でもなぜソレが私に繋がると言うのだろうか。そもそも私は女神さまなんて崇高な人物でもないし。

 何処にでも居る孤児出身の聖女ってだけなのに。この部屋に居る人たちの視線が私に刺さってる。なんでやねんと心の中で突っ込みをいれつつも、最近、私は先祖返りした可能性で黒髪黒目に生まれたらしいからなあ。


 「彼の国の方々は黒髪黒目で生まれた者を大層丁寧に扱うそうです。しかしながらここ百年は見つかっていないとのこと」


 こっちの大陸でも珍しいから、東大陸でも珍しいのだろう。そして黒髪黒目の男性よりも女性の方が持て囃されるそうで。


 「東大陸を方々探しても見つからない為に彼らは奴隷問題にかこつけ、大陸南東部の国へ訪れたそうです」


 あ、やっぱりいちゃもんをつけられたのか。時期が悪く、偶然が重なったと判断した方が良さげだ。こちらの大陸へ向かう口実の為に奴隷を故意に売り払っていた可能性もあるけれど、真実はどちらでも構わない。今は黒髪黒目信仰問題である。


 ――黒髪黒目の者は居らぬのかっ!


 奴隷問題よりも先に帝国の使者が口にした言葉がコレだそうだ。そしてあの時の小父さまが、帝国側の圧力に負けてしまいアルバトロスの聖女がそうだと暴露してしまったらしい。

 というか大陸南東部の国は何をしているのだろうか。他国に迷惑を掛けてしまう状況に陥っているのに、連絡の一つも寄越してくれていない。アルバトロスで一波乱起きそうな状況である。


 「しかし何故、大聖女さまが南東部の国の情報に通じていらっしゃるのでしょうか?」


 頭を抱えたくなるのを我慢して、大聖女さまでしかない彼女がどうして大陸南東部の国の出来事を知っているのだろうか。


 「教会関係者も帝国との邂逅の場に同席しており、情報を得やすい状況下にありましたから」


 苦笑いなのだろうか。何とも言えない表情を浮かべて、私を見据える大聖女さま。矢面に立たされることになりそうだなと、私も何とも言えない顔になる。

 大陸南東部の教会から聖王国の教会経由で情報を得たのだろうけれど、何故大聖女さまがわざわざそんなことをしたのだろうか。ぶっちゃけてしまえば大陸南東部のことなんて知ったことではないだろうに。彼の国が亡国になるならば、聖王国の人間に自国への帰還命令を出せば良いだけ。

 

 東大陸の情報は手に入れ辛い筈なのに、黒髪黒目を仰いでいると大聖女さまが知っていた理由も気になる所だけれど。何にせよ、知らせてくれた事には感謝しなければならないのだろう。時間があれば対策が練れるだろうし。


 「なるほど。聖王国は優秀な耳をお持ちのようで羨ましい限りです」


 ヤバい人たちを一掃した為なのか、きちんと機能しているようで何よりである。彼女がちゃんと聖王国の教会を立て直したというならば、アルバトロスの教会も見習って立て直さないとなあ。まだまだ道途中だし、決めなきゃいけないことやらなきゃいけないことが沢山ある。


 「ありがとうございます。――帝国がどう出て来るのかが全く予想が付きません。何卒、お気を付けくださいませ」


 しずしずと頭を下げる大聖女さまを見ている。大陸南東部の問題だから関係ないと高を括っていたけれど。コレはガチで関わることになってしまうのだろうかは謎だけれど、面倒なことにならなきゃ良いのだし、帝国との距離はある。


 幾つか帝国についての情報を彼女は口にした後は教会関係者と少しやり取りを交わし、話は終わったとばかりに、大聖女さまご一行は聖王国へと戻って行った。また何かしらの情報を得たらお知らせしますと告げて……。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信の返信 この時に想定していた『大変なこと』というのは、『受け入れた奴隷達から毎日接近する度に崇められ続け、自宅にいるのに休まらない状態になる』ことでした
[一言] 『何処にでも居る孤児出身の聖女』恐らくナイのその心のセリフを聞きたらほぼこう叫ぶだろう。 『どこにでも居てたまるかっ!』 相変わらず自分が国の主要人物の自覚が無さすぎるなぁ··以前諦めて認め…
[一言] こりゃ、奴隷引き取っちゃダメだね 引き取ったら大変な目にしか合わないの確定でしょ
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