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0366:【前】他国の王族が来る。

2022.07.28投稿 1/2回目

アルバトロス王国第一王子殿下の婚約者である、ツェツィーリア・マグデレーベンさまの妹さんの治癒術をアリアさまが施す。


 王族の方へ治癒を掛けるなんて緊張するとアリアさまが零していたが、約束がダブルブッキングしたことによって一緒になったお茶会で少しは気が紛れたみたい。ツェツィーリアさまがアリアさまへ気を使っていたし、アリアさまもアリアさまで緊張すると言いつつも、妹さんの残ってしまった傷の状況を聞いていた。

 どのくらいの魔力が必要で、どの魔術が適当なのか考えるつもりなのだろう。緊張して失敗しそうと嘆いた手紙を寄越してくれたというのに、結局のところ肝が据わっているというか。ツェツィーリアさまとアリアさまの話し合いを聞いていると、施術する場所の話へ移っていた。

 王族の方なのだからアルバトロスかマグデレーベンの王城で行う筈だ。おいそれと身分の高い方が外には出られないから、転移魔術陣を使い施術を施しそそくさと帰るつもりだろう。

 

 『妹は今後、国から出ることはありません。ですから、施術はアルバトロスで行いたいのです』


 ツェツィーリアさまの妹さんは、王家との繋がりを強くする為にマグデレーベン国内のお貴族さまへ嫁ぐそうだ。幼いながらも王族として自覚を持ち、どんなお相手でも国の為ならば嫁ぎましょうと言い切っていたとか。


 しかし、悲劇が訪れた。自身で熱い紅茶を膝の上に落としてしまい火傷を負い、傷が残ってしまった。


 何故、紅茶でと疑問になるが、答えは割とあっさりとしたものだった。


 魔術をきちんと使えるようになりたいと、教師から教えて頂いたことを復習しようと部屋で一人きりの時に冷めた紅茶を熱く熱しようとしたのだ。ティーカップの柄を持ちぐつぐつと煮えたぎる紅茶を見下ろしている内に、手が滑り膝の上に盛大に零してしまう。人払いをさせていたので、お付きの侍女さんたちは気付かず、また王女さまもどう対応して良いのか分からなかったそうだ。

 熱い湯が服を通って肌に張り付く。直ぐに脱げば良かったものの、いつも介添えの侍女さんたちに着替えを手伝って貰う身である。足に伝わる熱さに混乱し、助けを呼ぶのも遅れたそうで。


 マグデレーベンの医者や聖女、魔術師には治せなかったそうで、アルバトロスに留学兼花嫁修業中のツェツィーリアさまに母国から声が掛かった。アルバトロスの聖女で残った傷を癒せる者が居ないか探せと命じられたそうだ。


 言いたくはないけれど、傷モノ令嬢の嫁ぎ先はかなり限られてくる。王族だって同じだろう。傷のない玉肌が令嬢として王族として当たり前なのだから。


 『出歩くことは不可能でしょうが、他国へ赴くとなれば刺激も受けましょう。アルバトロス王には、こちらで施術を受ける許可を頂きました』


 ツェツィーリアさまは妹さんの事を大事にしているようだ。でなければそこまで考えないだろうし、王族の方がわざわざ足を運ぶなんてことはしない。彼女はアルバトロスへ嫁ぐ身だし何か思う所でもあったのか。

 アルバトロス王国ならば妹さんに見せても問題ないと判断してくれたならなによりだ。妹さんの容体が全く問題ないことと、マグデレーベン側からの依頼ということもあってアルバトロスに赴くのだろうけれど。


 『では私はマグデレーベン王国へ赴くことはないのですね?』


 『申し訳ありませんが、わたくしたちの我儘を受け入れて下さいませ』


 アリアさまがツェツィーリアさまへ問うと、申し訳なさそうに一瞬目を閉じた。逆を言えばアリアさまが外国へ赴く機会を奪っているということだから、ツェツィーリアさまには何か思うことでもあるのだろう。


 『そうなると教会ではなくアルバトロス王城内のどこかで行うことに……?』


 『はい。アルバトロス王の話では、人の少ない区域で行えば良いだろう、と』


 お忍び扱いと聞いていたからそうなるよねえ。恐らく王族の方と護衛の方しか入れない居住区のどこかを解放するはずだ。


 『……王城の立ち入りが出来ないような場所に私が行くなんて』

 

 うっとアリアさまが妙な顔になる。お城の魔術陣へ魔力補填をしているし、珍しい場所に入れるくらいの感覚で居た方が気が楽だけれど。宛がわれた部屋に王族の皆さまが揃う訳でもなし、ツェツィーリアさまと妹さんに護衛の女性騎士さまとお付きの侍女さんたちくらいじゃないだろうか。

 ツェツィーリアさまと私が『深く考えずとも』『王城なんてどこも一緒です』等の言葉をアリアさまへ掛けるが、聞こえていないようで。ふと思い浮かんだことを口にする。


 『城の立ち入り禁止区域が苦手なら、私の屋敷か亜人連合国の領事館を借りるという手もありますが……』


 警備に関してならば問題はクリア出来るし、王城と屋敷までの転移魔術陣が施されているので移動も問題はない。ただ、アクロアイトさまに天馬さまに時折屋敷のどこかしらで光る玉に、叫ぶ野菜や土の妖精さん。

 見事にテーマパーク化している屋敷にマグデレーベン王国の王族の方々を招き入れる訳にはいかない気がする。それなら亜人連合国のお屋敷を借りれば良いかなあ。話が上手くいけば亜人連合国とマグデレーベン王国と何かしら関係が築けるかもしれないし。


 『お姉さまのお屋敷っ!』


 『聖女さまのお屋敷に!?』


 机に視線を向けていたアリアさまの顔が勢いよく私へ向けられたと同時、ツェツィーリアさまも目を見開いて私の顔を見ている。声を上げたタイミングも同じだったけれど、何でこんな反応をしているのだろうか。

 つい首を傾げると、肩の上で大人しくしていたアクロアイトさまに当たってしまった。ごめんねという意味合いで肩から膝の上に移動させていると、いつものように足踏みして寝心地の良いポジションを探し出して丸くなって寝たアクロアイトさま。

 後ろで控えてくれているソフィーアさまとセレスティアさまから、呆れた雰囲気を感じ取れた。私はまた妙な事を言ってしまったのだろうか。単純に王城以外の安全な場所を思い浮かべて口にしただけなのに。

 

 『あ、あの! ツェツィーリアさま! 問題がなければ是非、ナイさまのお屋敷で施術を行いたく存じます!』


 面通しした際にアリアさまはツェツィーリアさまの名を呼ぶ許可を頂いているから大丈夫だけれど、そういえば先程私の事を『お姉さま』と彼女は呼んだ。きちんとしている子なのに珍しい。今は既に治っているのだから。


 『ええ、アリアさま。こちらとしても何も問題はありません』


 あの、私の屋敷で施術を行うならば私に問うのが筋なのでは……いや、でも主導権はツェツィーリアさまにあるからアリアさまの言葉は正しい気もする。アリアさまの言葉ににっこりと笑みを浮かべて返事を返したツェツィーリアさま。


 『ナイさま、アリアさまのご予定に合わせます。――妹の傷を治して下さいませ』


 目礼するツェツィーリアさまに、妹さんの傷を治すのは私じゃなくてアリアさまなのだけれどなあと微妙な気持ちになりながらお茶会を終えたのだけれど。


 ――朝、子爵邸にて。


 日程も決まりお屋敷のみんなへ報告した後、私の言葉の軽率さを今更ながらに実感している。朝食を終えて何をしようかと考えている最中、侍女の方数名とメイド長さんが私の部屋へとやって来た。


 「ご当主さま、本日はお屋敷のお掃除を徹底して行います!」


 「みなさんが毎日丁寧にお掃除されておりますし十分では?」


 学院がお休みの日なのでゆっくりしようと考えていたのだけれど、どうやら無理そうな気配がひしひしと。明日の放課後、ツェツィーリアさまと妹さんが治癒を受けに子爵邸へ参られる。いつもお掃除は確りとして頂いているし、問題ないだろうに。

 

 「毎日手抜かりはございません。がしかし、他国の王族の方がお屋敷にお越しになられるのです。塵の一つでもあろうものならミナーヴァ子爵家の沽券に関わります!」


 ふんすと鼻を鳴らしそうな勢いのメイド長さん。恰幅の良いお母ちゃんという言葉がぴったりの方で、いつも子爵邸のお掃除を担ってくれている働き者。

 うんうんと侍女の方数名がメイド長さんの言葉に頷いているのだけれど、メイド長さんは平民で侍女の方はお貴族さま出身。仲が良さそうでなによりと彼女らを見つつ、子爵家の沽券なんてあってないようなものだから、そこまで気にしなくとも。

 

 「ですのでご当主さま方は、図書室で本でも読まれているか、外でエルさまとジョセさまとルカさまのお相手を!」


 流石にみんなが右往左往している時に、一人だけじっとしているのも居心地が悪い。


 「私も手伝います」


 「何を仰いますか! この家のご当主さまにそんなことはさせられません!」


 当主命令と言って彼女たちを黙らせてお掃除を手伝うことも出来るけれど、横暴だしパワハラになってしまう。メイド長さんの言葉に従って、アクロアイトさまを抱きかかえ外で待機していたジークとリンに事情説明して図書室へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『自身で熱い紅茶を膝の上に落としてしまい火傷を負い、傷が残ってしまった。』 ぶっちゃけどんだけの熱湯だったんだか。これ入れた侍女に悪意でもあったんかね? 王女ならドレス来てるからかなり布重ね…
[良い点] アクロアイト様が萌え製造器的な立ち位置に成った件についてw 何度でも言いますが、めっちゃ可愛いーーーー!! [一言] ん~不思議生物製造疑惑有りなナイさんの魔力発生中心地だけど、何か有っ…
[一言] 大掃除の時は戦力外の子は外に追い出されるから いやたぶん掃除くらい出来るとは思うけど主人には させたくないって事だよね・・・きっと
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