0030:麦粥。
2022.03.12投稿 3/3回目
ぱちぱちと音を鳴らしながら火が燃える。熾した火の回りには枝に肉が突き刺されており、焼けてきたのか油が落ちていた。少ないけれど。
「お肉っ!」
「肉だな」
「肉だね」
幼馴染三人組の中で一番騒いでいるのは私なのかもしれない。だって久方ぶりだし、美味しいものにありつける方法はお金をださなきゃならないし。
甘味も砂糖類は貴重でありお貴族さまの御用達なので、庶民は中々口にできない。王都で肉は高いし、平民であればお祝い事があったときに食べるくらい。
牛は神事の時に捌いて振舞われるくらいなので、聖女の仕事をこなしている場合が多いのでありつけない。それに牛や馬は耕作の為に使われる為、重宝されているので中々捌かれることがない。
となれば鳥か兎か豚くらいが主になってくるのだれど、豚は量産がしやすく何でも食べる上に更に糞便も処理してくれる為に重宝するのだけれど、王都は糞便をまき散らすことを禁止にしたのでなかなかに育成が難しくなってしまったそう。
兎は飼育するよりハンティングで得るという意識が強い。鳥も捕まえて食べるのが主流。王国で畜産業が発達するのはまだまだ先だろう。
牛肉が食べたいけれど、諦めるしかないのである。
それでも肉が口にできるので贅沢ではあるけれど。牛肉、久方ぶりに食べたいなあとしつこく思いつつも日本で食べていた和牛のような味には届かないだろうなあ。品種改良された上で、日本人好みのものに仕立て上げたのだから。
「熱いぞ」
「ありがとうジーク」
「兄さん、ありがとう」
肉を焼くのは何故かジークの役目になっていた。器用にナイフで焼いた肉を切り分けてリンと私に渡してくれた。
熱いのは苦手なので少し冷ましてから口にする。独特の臭いがあるけれど食べられないことはないし、腐りかけの肉を食べた時よりも美味しいので文句はない。まあ胡椒と塩で味を誤魔化しているという部分もあるだろうけれど。
「レモンかけてみよう」
くし切りにしていたレモンをひとつ掴んで、適量を滴らせる。見ているだけでよだれが出てくる光景で、
「どうだ?」
「かけたら、凄く味があっさりするね。その好みによるだろうけれど」
私の言葉を聞いて、おもむろにレモンを手に取って掛けている二人。なるほど、レモンがどんな味なのか分からなかったから躊躇して、私に聞いてきたのかと苦笑い。
「ああ、確かにあっさりするな」
「うん。面白い味」
お試しで食べてみようと味見をしただけなので、一旦口にするのをやめる。椀型の木でできたお皿をだして麦粥をよそって、二人に渡す。
「すまない」
「ありがとう」
「味付けが塩だけだから、物足りないかも。一応食べられるようにはなってるよ」
味見はしておいたので十分口に出来るものには仕上がったのだけれど、出汁とかが手元になかったので物足りないというのが本音。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
日本ではおなじみの挨拶を口にし手を合わせる。以前、つい癖で口走ったことがあり、言い訳につぐ言い訳をして二人を納得させた。
二人は神に祈りを捧げるよりもこっちの方がしっくりすると言って、食べる前に手を合わせるようになった経緯がある。ちなみに王国ではキリスト教のように神に祈りを捧げるのが主流だった。
神に祈りを捧げない聖女ってどんなもんよ、と疑問になるけれど教会の人たちは無理強いはしない。
聖女としての役目を果たせれば、文句はないそう。孤児院では神の教えを説いているので、いろいろと思惑があるのだろう。
「お肉美味しい。ごちそうさまでした」
「ごちそうさん。そりゃ良かった」
「ナイは食べたい、食べたいって言ってたよね。ごちそうさまです」
三人でもう一度手を合わせる。王都で贅沢な食事といっても野菜がメインであることが多い。多少の肉が入っていることもあるけれどがっつり食べる選択肢はかなり少ないので、今日は本当に良い日である。
「さて、明日に備えて早いが寝るぞ。リンと俺は交代で夜番だな」
騎士科は歩哨に立つことを課せられているので、他の学科の生徒とは少し違っていた。
「私は?」
流石に二人だけに任せるというのも気が引けるというものである。
「ナイがやっても意味ないだろう。騎士科じゃないし、寝てなるべく疲れを取っておけ」
「うん。明日も食料の調達しなくちゃだし、ゆっくり寝てて」
行軍でも聖女は優遇されていて夜番なんてやったことはないからなあ。二人にごめんねと頭を下げて、寝床に就く。そういえば教会は肉を食べることを禁止してないなと頭の片隅によぎり、適当だよなあと呆れた顔を浮かべながら目を閉じたのだった。