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0239:無茶振りくんの処分。

2022.06.08投稿 2/2回目

 ――チョロくないかな、王都の人たち。


 本当に、今回の顛末って。まだ全て終わった訳ではないから断言はできないけれど、王都の暴動騒ぎはワザと引き起こしたけれど、ほぼほぼ予定通り。無茶振りくんには頑張って頂いたから、罰は緩いと良いのだが陛下次第だろう。先ほど『首が切れん』と言っていたので、死刑は回避しているはずだ。


 「ジークとリンもお疲れさま。帰ったらゆっくりしようね」


 本当に。人前に立つことがこんなにも消耗するだなんて。ジークとリンは王都の街に紛れ込んで暴動騒ぎが起こるのを待っていたし、帰ったら本当にゆっくりしないと。料理長にもご飯を奮発して下さいと頼んできたから、楽しみである。


 「ああ。――しかし、無茶と無理をしたな」


 「お金が戻って来るなら、それで良いよ。兄さん」


 「とりあえず、怪我人もほとんど居なかったみたいだし、軍や騎士の人たちにも感謝しなきゃね」


 暴動が起こると分かっていたので、陛下や公爵さまが命令を出して王都のそこら中に紛れ込ませていたのだ。暴挙に出る人も居るかもしれないし、そんな兆しがあればさっくりと摘んでいそうな。うーん、魔物討伐やらで鍛えている所為なのか、人間相手なら余裕みたい。


 「無茶をする……」


 「本当に。――ところでナイ、先程の竜は先日現れた方と同じなのでしょうか?」


 城壁の階段を降りるとソフィーアさまとセレスティアさまが待っていた。確かに無茶だったかもしれないが、いずれは教会の腐敗はどうにかしなくちゃいけないし、使い込みの露見は遅いか早いかだけの問題。

 もっと深刻になってから発覚していたら、これだけじゃあ済まない可能性もあったのだから、結果オーライだろう。

 

 まあ、逃げられないように王国全土に障壁を張る為に連日補填作業をしていたとか、協力してくれている妖精さんたちにも魔力を持っていかれてた。魔力が少ないという感覚を味わったのはこれが初めてで、極上の反物で作ったストールを一日中身に着け、魔力の回復に努めていた。


 魔力の使い過ぎで、凄くお腹が減るし睡眠不足に陥っていた。


 臥せっている体だったし開き直って一日の半分くらい寝ていたら、子爵邸で雇っている人たちにかなり心配させる羽目に。でも食事はたらふく食べるという、意味不明な行動でさらに心配を掛けたのはご愛敬だけれど、たらふく食べていたのに痩せてた不思議。

 

 「さっきの竜は代表さまですよ」


 だって、こんなことがあろうかと念の為に伝えておいたら『私が行こう』だもの。協力をお願いしているのはこちらなので、固辞するのも失礼かと深くは追及しなかったし。


 「は?」


 「え?」


 ソフィーアさまとセレスティアさまが目を見開いて立ち止まる。ジークとリンは慣れているのか、気にした様子はない。


 「すまぬ聖女よ、もう一度言ってくれ」


 一緒に階段を降りてきていた陛下に声が届いていたのか、私たちの会話に加わった。


 「代表さまです。さっき現れた竜は」

 

 「代表……というと、亜人連合の?」


 竜の個体数も少ないけれど、人型から竜に、竜から人型になれる方はもっと少ないらしい。あとは竜の形を取れない竜人族の方も居るようで。

 長く生きて力を得るか、元々の魔力がどれだけ備わっているかで決まるそうな。あと魔力が多ければ多いほど、身体が大きくなるそうだ。だから大きい竜は周りの竜から一目置かれる存在となる。今は代表さまが最大の大きさの竜だそうだが、ご意見番さまの全盛期は今の代表さまよりも随分と大きかったと聞いた。


 「はい」


 「聖女よ。もう少し丁重に彼らと接してくれぬか」


 顔を引きつらせて私に告げた陛下。いや、あの人たちのノリが良いだけだし、アクロアイトさまが居るから私に好意的なだけ。


 「あー……はい。努力します」

 

 誤魔化すように陛下の言葉に返事をして、無茶振りくんが連行された部屋へと足を向けるのだった。


 「へ、陛下! 聖女さま!」


 近衛騎士に囲まれて無茶振りくんは神妙な顔をして椅子へ座っており、雨に濡れた服が随分と重そうだったし、服や体を伝い水滴が床へ落ちていた。彼が手に抱えている、年季の入ったお高そうな教典もふやふやになっていた。


 「――"風よ、吹け"」


 確か生活魔術で乾かす為の術があったなあと思い出し、詠唱を試みる。どうにか成功したのか無茶振りくんが纏っていた水分が飛んでいた。あまり使う機会がなく自信がなくて、多く魔力を込めたのが功を奏したのだろう。

これで少しはマシだし、会話もしやすくなっただろう。陛下も居るからみっともない恰好を見せられない。


 「さて、調べは大方ついている。アウグスト・カルヴァインと言ったな」


 膝を突き顔を下に向けたままの無茶振りくん。


 「――面を上げよ」


 無言のまま顔を上げた彼は、物凄く神妙な顔をしていた。なんだか、今にも死にそうなんだけれど大丈夫だろうか。


 「聖女のお陰で命拾いをしたな。――貴様に教会を立て直す覚悟はあるか?」


 「! はい、神に誓って!」


 うんうん。無茶振りくんを始めとした教会信徒の方々には頑張って頂かなければ。神にでも悪魔にでも誓って良いから、よろしくお願いします。私はソレを左うちわで眺めておくから。口出しなんて無粋なことはしないから。


 「そうか。しかし無罪という訳にはいかぬと言ったことは覚えておるな」


 「勿論でございます、陛下」


 「一ケ月の間、城で幽閉処分だ。……――」


 貴族用のな、と陛下は最後に付け加えるのだった。そうして陛下は公務があるといって部屋から出て行く。扉が閉まり暫くすると、へなへなと無茶振りくんは体の力を抜いた。


 「大丈夫ですか?」


 「は、はい。聖女さま、ご助力ありがとうございました」


 ゆっくりと体を顔を上げて私を見上げる。


 「これから暫くは王国に任せましょう。落ち着いてから教会の立て直しをお願いいたします」


 立て直し方法をなんやかんやは考えているけれど、なるべく彼らに任せるべきだろう。教会信徒でもない人間が口を出す訳にはいかないし。

 無茶振りくんをサポートできる人は枢機卿さまたちが居るから、きっと大丈夫。駄目なら聖王国の教会から誰か派遣してもらえば良い。針の筵だろうから、胃に穴が開くかもしれないけれど。


 「参りましょう」


 「はい」


 そうして無茶振りくんはお貴族さま専用の幽閉棟で処分を受けることになった。通常のものより面会や差し入れは可能。持ち込みも危険な物以外は持ち込みが許される。あとは見張り役の騎士が居るから、慣れた頃に出られるだろう。


 次は領地へ逃げ込んだ枢機卿さまだなと、部屋の窓の外に視線を向けるのだった。


しまった。王城でお金取られたことが露見した時に主人公に倒れて貰って、キレたことを伏せて、そこから他視点で話を進めれば良かった……orz

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― 新着の感想 ―
[一言] チョロイって、今更(笑) 「黒髪の聖女に怪我を治して貰い、無事でした」1アウト 「黒髪の聖女のおかげで聖なる樹が育った」2アウト 「黒髪の聖女のバックに亜人連合と龍が居ます」3アウト 十…
[一言] チョロくないかとは思うけど市民視点だ結界の恩恵で怪物と戦う経験とかなくて脅威に耐性が少ない中で最大級のドラゴンなんて人間に勝てるものであるかの判断とかつかないし、その脅威を取り除かれたための…
[一言] 枢機卿の運命は数奇やなあ
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