0023:主人公は私。
2022.03.09投稿 2/2回目
――乙女ゲームの世界だっ!
そう気づくことができたのは、鏡をのぞきながらあたしのフルネーム『アリス・メッサリナ』と呟いた時だ。その名を聞くと何故かどんどんとゲームの情報が頭の中を駆け巡り、この世界がゲームの世界なのだと信じさせてくれた。
それに私の顔はゲームの中の主人公そっくりで緩いウェーブのかかったピンクブロンドに若草色の大きな丸い瞳。前世の自分の名前と同じというところにどこか親近感が沸いたんだ。
豪華有名声優をふんだんに起用し、人気絵師の人を集めてかなり話題になった。シナリオは賛否両論だったけれど、標準的なよくある異世界を舞台にしたゲーム。人気というだけあって続編やファンディスクも発売され、あたしも当然発売日にゲットして寝ずにクリアを目標にして楽しんだ。
「よし、みんなに会う為にがんばろう!」
平民が学院へ入学するには試験がある。パパとママにお願いして受験をしたいとおねだりしたら二つ返事だった。
勉強は前世での知識があるので簡単だった。語学もちょっと難しかったけれど、直ぐに覚えられたので家庭教師の先生やお店の人に家族みんなが褒めてくれた。
万全を期して受けた試験結果は、なんとっ! 全教科満点っ! しかも、特進科へとクラス替えをすることができたの!
――ファンディスクのルート!!
逆ハーレムを築く唯一のルートで攻略キャラみんなで幸せな未来を掴むシナリオだった。第二王子殿下に側近のみんなに魔術師団副団長や騎士のジークフリード。
だというのに……。
あの子は一体誰だろう? そしてジークフリードの隣に並ぶそっくりな女の子と小柄な黒髪黒目の子。しかも黒髪の子はあたしと一緒に普通科から特進科へと変わった。彼女との接点はないから、きっと偶然だったのだろう。
本来居ないはずのキャラがどうして居るのか。気になって騎士科の男の子に聞いてみると、ジークフリードにそっくりなジークリンデという子は彼の妹だそう。
ゲームの中では、孤児だった彼の妹は幼い時に死んでいて、紆余曲折あって騎士科へと入学し、異母兄弟である近衛騎士団長を務める伯爵家嫡男のマルクス・クルーガーと一悶着あるというのに。和解ルートも敵対ルートもあって、彼らの行く末をひやひやしながらテキストを読み進めていたのに。
何かが違うと入学式のその日に不安を感じたけれど……。
でも、特進科の五人みんなとは仲良くなれたのっ!
『可愛いね』『好きだ』って甘く優しく囁いてくれるの!
放課後、街へと繰り出して遊んだり学院の休み時間にこっそり会って抱きしめてくれる。
良かったと安心しながら、悪役令嬢であるソフィーアとセレスティアとは、あまり関わりがない。幾度か婚約者が居る貴族の男性に不用意に近づくなと言われただけ。ゲームの中では人の婚約者に手を出してと沢山『アリス』を虐めて、その度にみんなが助けに来てくれたのに。
みんなは彼女たちとの結婚を望んでいなかった。貴族として王族としてきちんと振舞えといつも口うるさく言われ、私のように楽しそうに笑うことも、お喋りすることもないんだって。じゃあ、別れてしまえばいいよね。だってそんなにつまらなければ誰も幸せなんて手に入れられない。
だから頑張ってみんなと一緒に居られるのなら、ハーレムを築きたい。ヘルベルトは王子さまだから、上手くいえば沢山の人と結婚しても問題ないように法律を変えてくれるかもしれないし、無理なら多重婚が認められている国へと行くことも出来る。
私が聖女として覚醒して活躍するイベントまでもう少しだから。
――アタシがヒロインなんだからっ!
今の体は何不自由もなく、軽くて、沢山動けて、走ることも、大声を出すことも出来る。前世は体が弱くて学校にも通えなくて、親しい友人なんて皆無だった。
病院と家の部屋だけが自分の世界だった、私の前世に決別してやるんだからっ!!