表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/1379

0017:昼休み。

2022.03.06投稿 3/3回目

 ――ついに……この時がきてしまった。


 各派閥に別れている女子だけれど、この時ばかりは共闘戦線を選び手を組んだようだ。我慢のならなかった女子たちがヒロインちゃんを取り囲んで、責め立てている。滑稽なのは婚約者本人ではなく、その取り巻きをしている子たちであり家格の低い人が多かった。


 「あなたっ! 殿下や他の殿方の周りをうろちょろして一体どういうつもりですかっ!! しかもその中には婚約者がいらっしゃる方も居るというのに!」


 「?」


 首を傾げると同時、ゆるいウェーブの掛かったピンクブロンドの髪が揺れ、瞳はきょとんとなっている。状況がつかめていないのだと片手で顔を覆う。参ったなあ。教諭たちが居る職員棟までには距離があるし、今から走っても間に合いそうにない。


 「平民だからといって許されるとお思いになっていらっしゃるのかしら? でしたら甘いとしか言いようがありませんわねっ!!」


 「あの、どういうことでしょうか? わたし、なにかしちゃいましたか?」


 昼休みの人目に付き辛い中庭の一角。たまには一緒にお弁当をと幼馴染三人が集まって食べ終え、日向ぼっこも兼ねて図書棟から本を借りていたので読書に勤しんでいたというのに、中庭の死角になっている場所で締め上げ行為が始まっていた。


 「……正直関わりたくはない、というか関わらない方がいいな」


 「……」


 ジークがぼそりと呟き、リンは目を細めて状況を見ている。


 「だねえ。――とはいえ、口までならいいけれど手が出そうなら止めないと」


 一応学院内だ。貴族の人が平民を下にみているのは周知の事実なので、こういう時の為の学則が存在する。

 魔術なんてものが存在するし、魔力さえ備わっているのならば基礎や初歩魔術であるなら割と簡単に使えてしまうのだ。手を出せば貴族の少女たちは負けになるから自制は効いているはずだけれど、頭に血が上っているようなのでどんな行動に出るのかが分からない。危なそうなら、止めに入った方がいいだろう。


 「ナイ、行くなよ」


 「いや、見ちゃったし不味いでしょうこの状況。お互いに得がないよ」


 ヒロインちゃんは貴族のご令嬢たちに囲まれている理由も理解していないようだから、彼女たちが去った後にひっ捕まえて理由と対策を教えないと、まともに学園生活が出来なくなる。

 今のところただの弱い者いじめにしか見えないし。理解していないなら学べば良いだけである。学院内だけで問題が留まるならまだいいけれど、各家に報告でもされたらどんな処遇になるのか想像したくはない。舌打ちをしたくなるのを我慢しながら、状況を見守ってタイミングを見計らう。


 「――何をしている!」


 唐突に落ち着いた澄んだ、でも少しばかり怒気を含んだ声が中庭の片隅に響く。


 「で、殿下っ!」


 取り囲んでいた貴族の子たちが、彼を視認した瞬間にばっと頭を下げた。ヒロインちゃんだけ状況を理解できていないのか、またしてもきょとんとしていたが頬が紅潮していたからヒーローがやって来たとでも考えているのだろうか。

 

 「一人を多数で取り囲み、口々に罵るなど貴族としての品格に欠ける。今回は一度目だ、見逃してやろう。理解したならば去れ」


 右手で彼女らを追い払うようなしぐさをとった殿下。言ってることは的確なんだけれど、殿下のやってることは結構彼女たちと同じでは、と訝しむ。婚約者がいるのにヒロインちゃんとの距離感がバグっているのだから。

 頭を悩ませていると、蜘蛛の子を散らすように彼女を取り囲んでいたご令嬢たちが去っていく。流石に一年生で一番権力を持っているであろう殿下には、文句は言えなかったようだ。気が強ければヒロインちゃんの駄目な所を殿下に諭して、悔い改めてもらうのが本来の行動のような気もするけれど、そこまでの胆力はなかったみたいで。


 「ありがとうございますっ! ヘルベルトさま!」


 ばっと両手を前で揃えて頭を勢いよく下げるヒロインちゃんに、目を細めて微笑む殿下。いや、名前で呼ぶことをいつの間に許可したのだろうか。というか目を合わせて見つめ合うな! 視線を合わせるな! と心の中で叫ぶのだけれど届くわけはなく。


 「いや、気にするな。大勢でよってたかって君を責めているのが見えたからな」


 見たのは良いけれど取り囲んだ経緯も聞かないまま一方を悪者にして追い払ってしまったし、状況を彼女から聞くしかないのだけれどその雰囲気が一向になさそう。


 殿下は女の機微というか、女子特有の社会システムに疎いのだろう。男の人だから仕方ないけれど、今回のことは遺恨を残してしまうだろうに。彼が下手な勘違いを起こさなければいいなあと横目で見守りつつ、流石にこれ以上は出歯亀になりそうだし、なんか甘い空気を二人で醸し出している。


 若い人が恋に燃えるのは構わないけれど、身分や権力を持っている人がその分を弁えないと痛い目を見るのは、古今東西老若男女、どの世界でも一緒だろうに。


 彼が公爵令嬢さまを正妻に置き、彼女が愛妾――身分的に側室ポジションすら無理――という立場で満足できるのかは謎。まあいろいろと抜け道もあるけれどね。外面だけでも整えて、内面はぐちゃぐちゃのどろどろでも問題は表面化することはないのだし。


 「リン、見ちゃ駄目だよ。――行こうか」


 教育上よろしくありません。あんなものは見ない方がいい。


 「だな。これ以上は見ていられん」


 そう言って午後の授業を受けるために移動を開始する。しばらく並んで歩いていると、はあとジークと私が長い溜息を吐いた。本当に最近は溜息が多いよなあと、ジークと顔を見合わせて苦笑したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力量歴代最強な~ 2024.09.05 第三巻発売!

魔力量歴代最強な転生聖女さま~ 第三巻 好評発売中!
画像をクリックして頂くと集英社さんの公式HPに飛びます!

【アマゾンさん】
【hontoさん】
【楽天ブックスさん】
【紀伊国屋書店さん】
【7netさん】
【e-honさん】
【書泉さん:書泉・芳林堂書店限定SSペーパー】
【書泉さん:[書泉限定有償特典アクリルコースター 660円(税込)付・[書泉・芳林堂書店限定SSペーパー付】
【Amazon Kindle】

控えめ令嬢が婚約白紙を受けた次の日に新たな婚約を結んだ話 2025/04/14 第一巻発売!

控えめ令嬢が婚約白紙を受けた次の日に新たな婚約を結んだ話1 2025/04/14発売!
画像をクリックして頂くとコミックブリーゼさんの公式HPに飛びます!



【旧Twitter感想キャンペーン開催!! 内容を確認して、ご応募頂ければ幸いです】

【YoutubeにてショートPV作成してくださいました! 是非、ご覧ください!】

【書泉さん:フェア開催中! 抽選で第一巻イラストの色校プレゼント! ~2025.05.13まで】

⇓各所リンク
【アマゾンさん】
【hontoさん】
【楽天ブックスさん】
【紀伊国屋書店さん】
【7netさん】
【e-honさん】
【bookwalkerさん】
【書泉さん:書泉限定特典ペーパー/こみらの!限定特典「イラストカード」/共通ペーパー】
【駿河屋さん:駿河屋限定オリジナルブロマイド付き】
【ゲーマーズさん:描き下ろしブロマイド付き】
【こみらの! さん:イラストカード付き】
【メロンブックス/フロマージュブックスさん:描き下ろしイラストカード】
【コミックシーモアさん:描き下ろしデジタルイラスト】
【Renta!さん:描き下ろしデジタルイラスト】
― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、王子の知能がもう手遅れまで来てる モブの立ち位置で良かったね ナイ氏は一応乙女ゲーは知ってるようだし今後のパターンが読めないのかな 出来ることなんてないだろうけど公爵パパンにそれと…
[一言] 王子様理由も聞かずに解散させてピンクちゃんと甘い空気を作ってしまいましたね。ピンクは演技か判らないけど囲まれた理由が判っていない感じですね。主人公が常識を諭すタイミングが王子の登場でなくなっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ