1500:墓穴。
――南の島、二日目。
慣れもあってか、なにをしようとか特に決めてはおらず各々好きに過ごすということになっている。ただご飯の時間だけは料理人さんたちの都合や負担を考えて、時間を示し合わすことにしていた。
相変わらず男性組は島の探検に出掛け、果物が採れれば採ってくると言い残してコテージを出ている。エーリヒさまはやりたいことがあるそうで、ダークエルフさんたちの村へと向かっていた。グイーさまも男性陣に加わって島を探検するようである。創星神さまだというのに暇を持て余しているようだ。
女性陣は部屋で読書をしたり、温泉に入るそうである。私はリンと釣りのリベンジをしようと浜辺に出ていた。今年は魚人の方たちが釣り方を教えてくれるので、昨年より釣果を上げたいところである。
竿はドワーフの職人さんに頼んで作って貰った。材料は竹でお願いしておいたのだが、興が乗ったようで火蜥蜴の鱗を溶かして竿の形にしてくれたそうである。糸はエルフの皆さまが編んでくれたそうで、耐久性に優れているとか。試作品としてリールも作って貰い、手作りの糸が百メートルほど巻かれてあった。針は小型の竜の方たちの鱗を加工したそうだ。
さっそく竿を持って私はリンと一緒に浜辺を歩いて磯を目指す。途中、木陰になっている場所でテラさまとナターリエさまとエーリカさまが白いチェアに寝転がっている姿が見えた。
テラさまはビキニを纏ってサングラスを付け、側にはカラフルな飲み物が置いてあった。おそらく地球から持ち込んだものだろう。肌の面積が広いから、世の男性がテラさまを見れば刺激が強そうだ。背凭れにはパレオが掛かっているのが救いだろうか。私は目を細めながらテラさまたちの方を見てからリンを見上げる。
「自由だねえ」
「本当に」
私とリンが肩を竦めると、テラさまが『大物、期待しているわよー!』と声を掛けられる。私が小さく手を振れば、テラさまは親指を立ててまた日光浴を再開させた。
ナターリエさまとエーリカさまもテラさまの側で肌を焼いている。凄くイメージではないけれど、楽しんでいるようならなによりだ。ちなみにヴァルトルーデさまは男性陣と一緒に探検に出掛け、ジルケさまは暑いからといって部屋で寝ている。ジャドさんたちとおばあも島を探検してくると言い残して朝早くから出掛けていた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんはコテージでのんびり過ごすそうである。毛玉ちゃんたちとルカとジアも朝早くから外に出ているので、今頃きっと島のどこかでなにかしていることだろう。
浜辺を歩きながら、私は生えているヤシの木を見上げる。ヤシガニを獲り逃した過去があるためどこかにいないかと注視しているのだが、私の殺気が強いのか姿が見えない。
リンに探して貰ってもいないようだから、完全に逃げられているようだ。エーリヒさま曰く、ヤシガニは美味だそうである。日本では貴重な生き物となって狩猟が禁止されたとか。話を聞いてしまうと余計に食べたくなるのだが、いないなら仕方ないと諦めて私は前を向いた。
「そういえば、ポポカさんたちは増えたかな?」
「どうだろう。あの丸鳥たちは動きが鈍いから捕食されないか心配」
一時、屋敷でお世話をしていたポポカさんたちは元気だろうか。数を減らしていると聞いているので増えると良いのだが、一年に一回しか訪れないため経過は知らないままだ。
ダークエルフさんたちはポポカさんたちを保護対象としてくれているので食すことはないそうである。大蛇さまも力が強くなったことで食べないようだし、あとは時間の問題だろうか。島のどこかで『ポエーポエー』と鳴きながら生活しているはず。彼らと再会できれば私が首から下げているグリフォンさんの卵四つを預けてみても良いかもしれない。
更に浜辺を歩いていれば、砂に石が多くなってきていた。もうすぐ磯になるだろうと更に足を進めながら、餌になりそうなゴカイ等の虫や小さなカニがいないか岩をはぐりながら目的地を目指す。餌を見つけては小さな小箱に入れていると魚人さんの姿が見えた。歳若そうな青年と中年の方が私たちを待ってくれている。
「急ごうか」
「うん」
私はリンを見て少し歩くスピードを上げた。肩の上のクロは『釣れると良いねえ』と呑気に声を上げ、リンの肩の上に乗っているネルは楽しそうに一声上げる。
クロたちは遊びにいくより私たちと一緒に過ごす方が良いようで、相変わらず肩の上に乗ったままだ。アズもジークの肩の上に乗り、彼と一緒に行動している。本当にみんな気ままに行動しているため、指揮を執らないで良いのは有難い。急いで歩けば、魚人さんたちの下へ辿り着くのはすぐだった。私が小さく頭を下げれば、魚人のお二人も頭を下げてくれる。
「聖女さま、お久しぶりっす!」
「たくさん釣れると良いですな!」
以前より彼らの表情が明るいのは気のせいだろうか。他のグループの魚人に追われて島に辿り着いた彼らは、生活に不自由していないだろうか。
「今日はよろしくお願いします。島の生活には慣れましたか?」
私がお二人と対面して問いかければ、青年と中年男性がニッと歯を見せながら笑った。
「ええ。ダークエルフの方たちがよくしてくださるっす!」
「島の主も俺たちを認めてくれているので、不自由ない生活を送れています。以前の村より住み心地が良いかもしれません!」
はははと彼らは笑っているけれど本当は故郷で生活したいはず。それでも前を向いている彼らの努力に感心しながら、私は釣りを上手くこなすにはどうするのか聞いてみた。
そうして魚人さんたちによる釣りレクチャーが始まったのだが、釣れなくても俺たちが魚をたらふく用意しますよと言われてしまう。私はリンを見上げて『そうならないように、たくさん釣ろう』と声を上げて、さっそく釣りを始めるのだった。
◇
南の島二日目の昼前。
ジークフリードとユルゲンと一緒に俺、エーリヒ・ベナンターはダークエルフの村を訪れていた。南の島でやってみたいことができたため、行って良いかの相談をしにきているのだが話はあっさりと認められる。なんだか肩透かしであるが、みんなの喜ぶ顔が見れるならそれで良いかとジークフリードとユルゲンに語り掛けていれば、亜人連合国の代表さまたちが顔を出した。
「必要な物があれば教えてくれ」
「用意できるものがあるなら、準備いたしますので」
代表さまと白竜さまが穏やかな声で告げた。背が高く威圧感を受けそうだが、俺たちがナイさまと親しい間柄ということもあってか以前より雰囲気が柔らかい。
俺の上司であるシャッテン卿は彼らと対面した際に『いろいろ縮こまりました』と言っていたが、そんなことは全くなく協力的でいてくれる。彼らが優しいのは俺たちがナイさまと親しいからというのが一番大きな理由になりそうだが、何度か顔を合わせているのだからもっと友好的になりたいものである。
「まさか一から作るなんてねえ」
「期待してるよ~」
エルフのお二方も最初の頃より語り掛けてくれる機会が多くなっている。今回のことで更に付き合いが深くなれると良いけれど。どうなることやら。一先ず、俺は許可を頂けたことと材料を分けて貰ったことのお礼を伝えなければと頭を下げた。
「いろいろとご尽力いただき、感謝致します」
「気にするな」
「できあがれば、我々も使って構わないということですしね」
俺が顔を上げれば代表さまと白竜さまが柔和な声で答えてくれる。その横ではエルフのお二方が面白そうな顔を浮かべて俺たちを見ていた。本当、どうして亜人の方たちは迫害されていたのだろう。
圧の強い方たちであるが、こうして話をすれば穏やかに言葉を交わし、道理が通っていれば許可を貰うことができる。なににせよ、こうして話ができているのはナイさまのお陰だなと、俺たちは彼らと別れて荷物を手に持ちコテージへと戻る。
コテージ横にあるバーベキューを行う場所に荷物を降ろして息を吐いた。他の荷物を持ってくれているジークフリードとユルゲンも纏めて一ヶ所に置き、小さく息を吐いている。
少し遅れて、小型の竜の方たちも荷物を運んでくれ『どこに置くのー?』『なにか他に手伝うー?』と顔を傾げながら聞いてくれた。俺は荷台をこの場に置いて欲しいとお願いすれば『分かった~』と返事をくれる。本当に懐っこい竜の方たちなのだが、人間より力があるから見た目に騙されていはいけない。
「道具は揃ったのか?」
ジークフリードが肩にアズを乗せたまま俺に問う。道具は亜人連合国の方が揃えてくれたから、あとは俺の知識の問題である。
「一応。見様見真似だから、ちゃんとしたものが作れるか分からないけど……まあ、物は試しってやつかな」
今から作る代物は俺の記憶頼りとなるのだが、果たしてどこまで覚えているやら。一応、思い出せるところは全て思い出して、設計図や作り方を書き起こしておいた。ただ、本当に上手くいくかどうかは分からない。でもまあ、煉瓦と煉瓦を繋ぐ接着剤となる粘土を譲って貰えたから本格的に作れるはず。
「本当にエーリヒはいろいろな事を知っていますよねえ。まさか僕たちだけで窯を作ることになるとは」
ユルゲンが言葉を紡げば、隣でジークフリードが小さく頷いていた。小型の竜は残ったままで俺たちの話に耳を傾けている。
「職人が作るような本格的なものじゃないから、あまり期待しないでくれ。みんなでわいわい焼きながら食べれば良いなって」
少し、いや随分と食べることに比重を傾け過ぎているかもしれないが、娯楽の少ない世界では『食』は本当に楽しみなものである。だからピザを作ってみんなで食べようと思いついたのだ。
現代日本のようなピザは今の世界にないけれど、原型のような料理はどこかに存在していそうである。生地はパンの流用でいけるはずだし、トマトソースは普通に作れる。
チーズもいろいろな種類が存在しており、コーン、サラミは買えば手に入る代物だ。変わり種となるとパイナップルが思い浮かぶけれど、好みが凄く分かれるから今回は用意していない。女性陣用にスイーツピザも考えたけれど、納得がいかなかったので今回はパスである。来年あたりに提供できれば御の字だろう。
「じゃあ、地面を均してブロックを敷いて水平を取ったら、耐火煉瓦を並べよう」
本当に材料が手に入って良かった。耐火煉瓦が手に入らなければ、粘土でドーム状の窯を作る予定だったのだから。先程、亜人連合国の方たちにコテージ横に窯を作って良いか許可を取りに話をすれば、耐火煉瓦の話が出てきて余っているから持って行けば良いと譲ってくれたのだ。
重い荷物だからと小型の竜の方が運んでくれたし、本当に至れり尽くせりというか。先ずは地面を均そうと、生えている草を抜き、持ってきていたスコップでいらない石や土をどかしていく。するとのしのしと大柄な方がこちらへ歩いてきて、不思議そうな顔で俺たちを見た。
「なにをしとるんだ?」
グイーさまが首を傾げると小型の竜の方が『神さまだー!』と側に寄って行く。
「窯を作ろうと思いまして」
「そんなもの、作ってどうする?」
俺の答えにグイーさまが不思議そうな顔をする。たしかに今いる場所に窯を作っても仕方ないのかもしれない。外に作るとどうしても雨避けとか必要になってくる。だからこの場所に作ってどうするのだとグイーさまは言いたいのだろう。とはいえ、材料は揃っているし久方ぶりにジャンクなものが食べたい。
「ピザを焼こうかと。お酒のつまみにもなるはずですよ」
俺が片眉を上げながら笑えば、グイーさまの表情が一転する。
「なんと! よし、なにか必要なものはあるか!?」
「道具は揃っているので、あとは作るだけですね。バーベキューパーティーの時に一緒に提供できればなと考えています」
グイーさまは酒のつまみになるという言葉に釣られたようだ。本当にお酒が好きな神さまだなと笑うのだが、あれ、俺、自分で墓穴を掘っていると気付いてしまう。
これでグイーさまに俺が作ったピザを提供することになってしまった。まあ、ヴァルトルーデさまとジルケさまも食べるだろうし、テラさまはピザの存在をしっているはず。ナイさまやみんなに振舞うのだから、今更かと片眉を上げてウキウキ顔のグイーさまを横目に俺たちは作業を進めるのだった。






