1499:恒例行事化。
じめじめとした日々が続いていたけれど、最近は陽の光の強さで肌をじりじりと焼く日が多くなっていた。
ようするに夏突入。七月となった。夏ということは南の島である。なので仲の良い皆さまが南の島に勢揃いしているのだ。女神さま付きで。今回は去年のメンツに、しばらく前から力を貯め込んでいたグイーさまもくるし、テラさまも地球からこちらの星へと移ってバカンスを楽しむとのこと。創星神さまがくるということは、当然北と東の女神さまであるナターリエさまとエーリカさまもいらっしゃる。
凄い面子となるし、ジャドさん一家とおばあと四頭のグリフォンさんたちとルカとジアと暇な天馬さまたちもくるそうだ。エルとジョセは仔の世話があるため屋敷でゆっくり過ごすとのこと。来年は一緒に行こうねと約束して、超大型竜の方の背に乗り聖王国を経由し南の島へと辿り着いたところである。
――ナイ、ナイ。早くワシを呼んで?
南の島に足を着けた途端にグイーさまの声が届いた。他の方にも聞こえているようで『父さんはせっかち』『親父殿は騒ぎ過ぎだろ』と呆れている。突然聞こえてきた声に私が『まだ準備が整っていませんよ』と返せば『準備から参加するのが良いのだ!』と力説が戻ってきた。
私はまあ良いかと、北の方角を向き魔力を地面に流してみる。するとグイーさまが『我、参上!』と毎度おなじみの台詞を吐いて、随分と派手な登場をするのだった。グイーさまのご降臨を初めて見る方は『おお!』と驚いていた。その様子を見たグイーさまはにニカッと笑う。私は何度か見ているから、またグイーさまは皆さまから注目を浴びたいのかと溜息を吐く。
「ナイが驚いてくれん!」
星創神なのにとぷーと頬を膨らましてグイーさまが文句を言い、側にいたヴァルトルーデさまとジルケさまが肩を竦めた。
「同じ登場だから」
「呆れられてんだろ、親父殿」
二柱さまの声を聞きながら私は周りをきょろきょろと見渡してみる。参加すると聞いていた方が見当たらない。ナターリエさまとエーリカさまはグイーさまから遅れて数秒後には現界なされているというのに。
「テラさまは?」
不思議に感じて声を上げれば、ナターリエさまとエーリカさまが『久しぶりですわ、ナイ』と言いながら、こちらへと歩いてくる。私は礼を執り頭を上げれば、何故か二柱さまに頭を撫でられた。
「お母さまは遅れてくるそうですわ」
「なんでも女性故の準備があるとか」
女性故の準備ってなにかあったかなと私が首を傾げると、日焼けしてしまうと言いながら二柱さまは木陰へと入っていく。それこそテラさまに日焼け止めを用意して貰えば良かったのではと目を細めていれば、ぱあと丸い幾何学模様が浮かんでテラさまの姿が見えた。
「やっほーみんなー久しぶり~! いやあ、まさかこんなバカンスができる島に招待されるなんて思っていなかったよー! 二週間、よろしくねー!」
凄く嬉しそうな表情を浮かべるテラさまが手を振りながら、こちらへと歩いてくる。テラさまもエーリカさまとナターリエさまと同様、私の頭をぐりぐりと撫でる。
「うぐっ」
「あ、ごめん、ごめん、ナイ。つい! 本当に綺麗な場所ね。海の色もエメラルドグリーンなんだもの! いやあ、まさしく『Sea』じゃなくて『Ocean』って感じがするわー!」
私の頭を撫で終えて、くるりと身体を翻したテラさまは海を見つめていた。仁王立ちで立っているというのに様になっているのは流石である。
「美味しいご飯も食べられるし、バカンス気分も楽しめる。最高じゃない!」
「ゲームは良いんですか?」
「ま、偶にはこうして外に出てリフレッシュするのも大事でしょ。やりたくなったら戻れば良いだけだしねー」
私の方を向いたテラさまはまた歯を見せながら笑っている。本当に目の前のお方は地球の創造神さまなのだろうか。にわかに信じ難いと私が目を細めると、また頭をぐりぐりぐりぐり撫でられる。流石にテラさまの腕は払いのけられないため、なされるがまま受け入れるしかない。肩の上のクロは私の頭がぐりぐりされる度に『凄く揺れるよ~』と目を回し始めていた。
「おお、クロ助、ごめん、ごめん! ナイの頭の位置ってなんだか丁度良いんだわ」
気付いたテラさまは何故かクロにだけ謝っている。私も頭をぐりぐり撫でられて髪がぼさぼさになっているのに、テラさまからの謝罪は終ぞないままだった。
グイーさまたち神さま一家が揃い、南の島の持ち主である亜人連合国の方たちに挨拶をしなければと私たち一行は居住まいを正す。私が代表して、ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフの村長さんに『お世話になります』と告げた。
「楽しんでいってくれ」
「気兼ねなくお過ごしくださいね」
相変わらず首が痛くなりそうなほど背の高いディアンさまとベリルさまの声が上がる。
「たくさん遊びましょうね」
「今年もきっと楽しいよ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんも変わらず愉快なお姉さんのままだ。
「コテージが増設されたので、お客人が多くなっても受け入れられます」
ダークエルフの村長さんは美人な方で、柔和な笑みを浮かべながらコテージを増やしていると教えてくれた。なんだか南の島が私たち一行を受け入れるために改造されているような。
少々申し訳ない気もするが、神さま一家もいるのできちんとした施設があるのは有難い。挨拶を終えればコテージの割り振りと荷物を運び込もうとなり、それぞれ作業を開始しようとなる。鞄に詰め込んできた衣料品を掲げると、浜の方から白い巨体が見えて大きな顔がぬっと近づいてくる。
『おーい! 儂のことも忘れんでくれ!!』
大蛇さま、もといガンドさまが沼から移動してこちらにきてくれたようである。もちろん忘れてはおらず、あとで沼地に赴いて今年もお邪魔しますと挨拶をしようとしていたところだ。ちろちろと舌を出しながら私たち一行を見下ろすガンドさまであるが、去年より圧が強くなっているような。見上げる感じも高くなっている気がして私は首を傾げる。
「ガンドさま。また一回り大きくなっておられませんか……?」
『この一年で二度ほど脱皮したからのう。そうだ。沼地で育っている米だがのう、また今年もたくさん穫れそうだ!』
また脱皮して身体が成長したようである。鱗も大きくなっているし、ムチムチ感も増しているような。私が手を伸ばしてガンドさまの胴に触れれば、ぴくりと長い身体がうねって尻尾の先をピンと立てた。やっぱりムチムチしていると感心しつつ、沼地のお米さまの話になって私は目を細めた。昨年穫れた赤米の一部を種籾として残し、沼地に植えて貰っていたのだ。
「赤米ですね。楽しみです」
順調に育っているようでなによりだ。秋になればたわわに穂を実らせて黄金色になるのだろう。金色の沼地に立つガンドさまという姿を想像して、絶妙に似合わないなあと私が小さく笑えば、ガンドさまがドヤ顔を浮かべた。
『そうか、そうか。儂が世話しているからきっと美味い……ぞ……??? あ、あれ? あちらのお方は夢で見た……』
だらだらとかかないはずの汗を流しながらガンドさまが私の後ろに隠れた。いや、隠れてはいないけれど、ご本蛇さまは隠れたつもりになっているようである。
「神さまご一家です」
私はガンドさまに創星神さま一家ですと告げ、テラさまを紹介する。残りの方は去年顔を合わせているから省略である。周りの皆さまが『驚くのは当然だな。平然としているナイがズレているんだ』と言いたげな顔になっていた。
亜人連合国の皆さまは苦笑いを浮かべながら、やり取りを見守ってくれている。一緒にきていた毛玉ちゃんたち三頭は遊びに行きたそうにしているし、おばあとルカとジアも遊びたそうだ。私は早く終わらせた方が良さそうだと進行を巻けば、グイーさまとテラさまが一歩前に出た。
「世話になるな、蛇!」
「お邪魔するねー!」
軽く手を挙げた二柱さまと目を点にしているガンドさま。大丈夫かと私がガンドさまの顔を見れば、わなわなと口を開いた。
『ふぁあああああああああああーーーーー!!』
耳をつんざくガンドさまの声が島に響く。密林の中にいる鳥たちが驚いてバサバサと翼を羽ばたかせて空へと逃げて行った。その様子をテラさまは『カラフルな鳥が多いのねえ。流石南国!』と笑っているし、グイーさまはガンドさまが驚いてくれてご機嫌である。
大陸を司る四女神さまは呆れているのか、やり取りを静かに見守っているだけで会話に加わろうとはしない。他の方たちもそろそろ準備を開始したいなという雰囲気を醸し出す。ひっくり返りそうになっていたガンドさまは、どうにか堪えて地面に顔を近付けグイーさまとテラさまに視線を合わせた。
『星を創り給うた貴き方々が島にこられるとは……有難きこと』
「ナイがいなければこの地を踏むことはなかったからな。あとナイが島に魔力を流したことで儂が現界し易い! 去年に続き、よろしく頼む!!」
「そそ。感謝はナイにお願いね~私は美味しいご飯と南の島を満喫できればそれで良いから! あとイケメンと美女を拝めるから目の保養にもなるわねー!」
ガンドさまの言葉にグイーさまとテラさまが軽く答えているが、何故私が話題に上るのだろう。グイーさまとテラさまが島に訪れたのは、ヴァルトルーデさまとジルケさまが二柱さまに伝えたからである。
そして『今年も行きたい!』『私もバカンス楽しみたい! 生活費浮くし!』となって参加となったのだ。本当に自由な神さま方であり、ナターリエさまとエーリカさまもみんなが行くならと相成ったわけである。本当にグイーさま一家は自由だなあとコテージに荷物を運び込み、部屋割を決め、大雑把な予定を組み込んでいく。
「三回目の南の島だし、皆さま慣れてきているから、好きにして貰って良さそうかな?」
私は割り当てた部屋の窓から外を眺めてぼやく。同室であるリンは二週間、堂々と私と一緒に寝られるとご機嫌であった。
「楽しくなると良いね、ナイ」
「うん。あと海産物たくさん食べたいから、釣りを頑張らないと」
リンが私の髪を直しながら小さく微笑んでいた。温泉も楽しみだし、ダークエルフさんたちの村での歓迎会も期待している。グイーさま用にお酒を用意しているし、テラさまも普段の食生活が荒んでいるようだから栄養のあるものをと料理人の方にお願いしていた。これから二週間どうなるのか分からないけれど、気ままに楽しもうとリンを見上げて一日目が過ぎていくのだった。






