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1475/1475

1475:例年通り。

 教会から王城まで馬車で移動している途中、道端でテオとレナとアンファンが一緒にいるところを窓から見ることができた。レナは真っ直ぐ馬車に視線を向けていたけれど、テオとアンファンは侯爵家の馬車を見慣れているので興味はなさそうだった。

 おそらく移動途中で馬車列に遭遇したみたいだから、三人にとって本当に偶然の出来事だったのだろう。王城の馬車回りに辿り着き、私が馬車から降りるとそっくり兄妹が不思議そうな視線を向けていた。


 「ナイ、どうした?」

 

 「ね。ちょっと嬉しそう」


 ジークとリンが右に顔を傾げながら私に問うてくる。ソフィーアさまとセレスティアさまとヴァルトルーデさまとジルケさまは、このあとの予定を話しており夜会で美味しい料理が出ると知り期待値を上げているようだ。誰かとは言わない。

 周りは建国祭の真っただ中で行き交う人たちが多く、城内は普段より騒がしい。彼らの声をBGMに私はジークとリンを見上げる。


 「テオとレナとアンファンがいたのを馬車の窓から見えたんだけれど、建国祭楽しんでいるかなって」


 テオとアンファンにはお小遣いを渡しておいたけれど、レナの分も渡しておくべきだったか。失念していたなあと私が反省していればジークとリンが『そこまで気にしなくて良いんじゃないか?』『お金がなくても楽しいよ』と気遣ってくれた。

 確かに気にし過ぎのところはあるのだが、お金がなければ露店の商品を指を咥えて見ているだけなのだ。少しでも楽しめるようにと、ご飯系の露店から数品買える額をお小遣いと称して渡しておいたのだが、彼らは満足してくれるのやら。


 お祭りで血縁者からお小遣いを貰ったと喜んでいる人を横目で見ていた身からすれば、親のいない子たちに悲しい思いをさせたくない。

 とはいえ私が彼らと一緒に行動すれば邪魔なだけ。やはりお小遣いを渡すのが一番だろうと、私が城の中へ行こうと進めば騒がしい周りのBGMが更に音が上がった。なにごとかとジークとリン、そしてソフィーアさまとセレスティアさまが身構えると直ぐに気を抜いている。一様に外にいる皆さまが空を眺めながら指を差している。


 「グ、グリフォンがっ! グリフォンが五頭も飛んでるぞっ!?」


 城内から誰かの凄い声が上がる。はっきりと耳に届いた声は驚きに満ちていた。彼の声が起点だったのか、他の方たちも足を止めて空を見上げながら『凄い』『壮観だな』『五頭も一緒に飛ぶものなのか?』『こんな光景を見られるなんて』と口々に語り合っている。

 セレスティアさまは私の側でドヤと鉄扇を開いて口元を隠していた。どうやら教会にいたジャドさんたちが王城を目指して飛んできたようである。

 一応、先触れを出してジャドさんたちが教会から王城に飛んでくると知らせておいたのだが、王城で働く全ての方に情報を行き渡らせる時間は足りなかったようだ。馬車の後ろを歩いていたおばあとイルとイヴの姿を見て、王都の人たちは驚いていたけれど、ジャドさんたちが空を飛んでいる姿も驚いているだろうか。

 

 「アストライアー侯爵家の家紋を身に纏っているぞ。落ち着け! というかお前、侯爵閣下が八頭のグリフォンと一緒に暮らしていることを知らなかったのか?」


 他の誰かが声を上げ、驚いている人たちを落ち着かせようと試みていた。少しでも混乱を避けるため、ジャドさんには侯爵家の家紋を施した布を首に掛けて貰っているのだが効果は薄いようである。

 王城の方たちや王都の人たちがジャドさんたちや天馬さま方を見て驚かない日はいつかくるだろうかと、私たちが見守っていれば最初に声を上げた方が困惑した顔になる。


 「え、まだいるの!?」


 アストライアー侯爵家にはグリフォンが八頭いると知った方は目を丸く見開きながら、言葉をどうにか紡いでいた。

 そして彼の下におばあがしれっと後ろから近づいていることに気付いていない。他の方たちは遠巻きにおばあの様子を眺めていて、目を丸く見開いた方に『後ろ、後ろ!』と言いたげである。ただ、おばあがなにを狙っているのか理解しているようで、結局声には出さないでいた。そうしておばあは楽しそうに、驚いた男性の顔を後ろから覗き込む。


 『ピョエ~!』


 おばあが垂れた細い目を更に細めている。驚いている方の顔を見ながら、こてんとおばあが顔を傾けてなにか伝えたそうな雰囲気になっていた。一方で、おばあに顔を覗かれた方はあまりの出来事に身体を固めて動けずにいる。


 「ひょえー……」


 「お、おい!?」


 どうにか紡いだ声とともに驚いている方は地面に倒れ込みそうになると、近くにいた方が驚きつつも彼を受け止めていた。その様子を見守っていた私は倒れた方の側に寄る。完全に気を失っており抱えた男性は困惑していた。私は困惑している男性に気付けの魔術を施すと伝えて、驚いていた男性に向けて術を発動させる。

 本当は医務室に連れていけば良いけれど今日は建国祭だ。皆さま忙しい中で一人、労働力が欠ければどうなるかなんて目に見えている。申し訳ない気持ちを覚えつつ、意識が浮上してきた男性に私はほっと息を吐いた。


 おばあには少し下がって貰うようにお願いしていると、しょぼんとしながら数歩後ろに移動してくれた。その間にジャドさんたちがアルバトロス城に辿り着いたようで、少し騒がしくなっている。気絶した男性が目を覚まして、きょろきょろと周りを見渡すのだが、真っ先に彼の視界に入るのは抱き留めてくれた男性である。


 「抱き留めてくれるなら、綺麗な女の人が良かった……」


 「冗談を言えるのか。まあ、良かった。そしてしっかり気を保て」


 お互いに言葉を交わしているのだが、気付けの魔術を使ったからには意識はしっかりしているはず。だというのに念を押したのはおばあと更に後ろにいるイルとイヴのことだろうか。私が気絶した男性に声を掛ければ、目を丸く見開いて居住まいを正している。そんなに緊張しなくてもと私は苦笑いを浮かべつつ、術を施したこととおばあの行動を謝っておいた。


 「い、いえ、いいえ! 侯爵閣下に治癒を施して頂けるとは光栄の極み! そしてグリフォンが私を気に掛けてくれたこと、有難く存じます!!」


 居住まいを正した男性が顔を左右に振りながら大きな声を上げた。事を大きくするつもりはないのだが、見慣れない光景に人だかりができている。

 そんな中、おばあがこちらにきたそうに身体を左右に動かしていた。側にいたヴァルトルーデさまとジルケさまがおばあを見かねて、なにかを伝えている。女神さま方はなにをおばあに伝えているのかと私が後ろを振り返れば、おばあが伏せをしてこちらに視線を向けた。


 『ピョエ……』


 なんとも言えないおばあの声が響く。クロは私の肩の上でおばあの声を聞き届け、居住まいを正した男性の方へと顔を向ける。

 

 『ごめんなさいって。おばあに悪気はなかったんだ。ただ君が驚いていて、怖くないよって、みんな優しいよって伝えたかったみたい』


 「ということのようです。本当に驚かせてしまい、申し訳ありません」


 クロと私の説明に居住まいを正した男性が更に背を正す。


 「た、大変失礼を致しました!!!」


 凄い勢いで居住まいを正した男性が頭を下げた。私はおばあにちょいちょいと手招きすれば、おばあがゆっくりと立ち上がり私の横に並ぶ。顔を上げる男性がおばあの姿に息を呑むものの、先程のおばあの話を聞いて恐怖心は少しマシになったようである。

 しょぼんとしているおばあに男性が『驚き過ぎて申し訳ありません』と視線を合わせて声に出している。おばあが『ピョエー』と鳴き、クロが『次は前からいくねって』と通訳を担ってくれる。どうにかおばあを恐れるようなことにはならないかなと私が安堵の息を吐いていると、ヴァルトルーデさまとジルケさまも小さく息を吐いた。


 「おばあだから仕方ない?」


 「なにやってんだか」


 肩を竦める二柱さまにジャドさんたちが寄ってきて、なにがあったのかと問うている。ヴァルトルーデさまが説明しつつ、ジルケさまが状況を補足していると、ジャドさんたちは理解したようだ。

 居住まいを正した男性に『仲間が失礼を致しました』と声を掛ければ、男性が『こちらこそ、失礼を致しました!』と少し顔を青くしながら声に出す。

 

 騒ぎを起こしてしまったことに、私は集まった方たちにも『騒がせてしまった』と謝罪をしておく。そうしてジャドさんたち八頭は庭を散歩してくると言い残し、私たちは城内へと足を進める。

 陽が沈む前に王都の皆さまの前へと顔を見せれば、昨年より王城の壁前には多くに人たちが集まっている。アルバトロス王国万歳という声が溢れており、王都の皆さまの陛下に向けた忠誠心は高いようだ。

 私の側にいたボルドー男爵さまが『巨竜でも姿を現してくれれば、もっと盛り上がるのになあ』とくつくつ笑い、ハイゼンベルグ公爵閣下が『冗談はお止め下さい』と彼を窘めている。


 ボルドー男爵さまの声にヴァルトルーデさまが『楽しそう』と零し、ジルケさまは『ここにいる連中の腰が抜けそうだな』と呆れていた。

 ヴァイセンベルク辺境伯さまは『相変わらずのお方だ』と苦笑いを浮かべている。陛下がボルドー男爵さまの声を聞いていれば、きっと注意してくれたに違いない。

 壁際での王都の皆さまに向けた顔見世は終わり、城の中へと戻っている。賓客室に入った私たちアストライアー侯爵家一行は、身内といっても過言ではない方たちと同部屋だった。もちろんボルドー男爵さまとハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまである。


 「ナイ。今年の夜会は盛り上がるはずだ。無礼を働いた者は容赦なく切り捨てて良いからな!」


 「勝手に切り捨てると陛下が困りますよ……私は美味しいご飯が食べられれば十分です」


 豪快に笑うボルドー男爵さまと呆れ顔の私とのやり取りに、周りの皆さまが苦笑いを浮かべている。女神さま方は私の側仕え役に徹するけれど、別室にご飯を用意してくれると知ってご機嫌だ。

 ジークは私の護衛としてではなく、男爵位持ちとして参加するとのこと。エーリヒさまも領地持ちの貴族として夜会に顔を出すそうである。ゲストとしてヴァンディリア王とリーム王もご参加されると聞いているし、大聖女フィーネさまもしれっと招かれていた。フィーネさまが来国するなんて知らなかったから、私に情報が遮断されていたようだ。特に気負う必要のないフィーネさまだから問題ないけれど。


 「行くか」


 ボルドー男爵さまの声に部屋にいる皆さまが頷いて、夜会会場へと足を向けるのだった。

【お知らせ】突然ですが明日10/9~12/10まで投稿をお休みさせて頂きます。他の作品で打診を頂いたので、そちらの書籍化作業を行ってきます。投稿再開後も改稿に取り掛かるため、何度か休むかなと。10/14~一作(13万字くらい)投稿予定ですが、書き貯めしていた分です……! 魔力量歴代最強な~のコミカライズはゆっくりと作業が進んでいる感じです。もう少しお待ちを……!!

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― 新着の感想 ―
お休みの件、了解しました(*>ω<*)ゞ 仕事優先ですから此方は気にせず頑張って下さいね(*^^*) 夜会に突入! 以前は馬鹿な公爵一家が突撃して爵位剥奪処かソレ以上の処分を受けたけど、今回は流石…
ナイにはスタンとかの魔法があったほうがいいのかな?まあナイの魔力だと痺れとか気絶を通り越して死んでしまうかも知れないけど。直後ならたぶん回復間に合うからノーカンということで。
更新お疲れ様です。 確か昨年に代表様達がブルインまがいの曲芸飛行を披露したような・・・そしてエルフのお姉さんズが「私達も魔法で花火を打ち上げる事が出来るけど、昼間だと目立たない」等と言っていた様な・…
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